相続の生前対策をお考えになる場合、大きく3つの対策を検討する必要があります。
・争族対策(遺産分割対策)
・納税資金対策
・節税対策

上記のほか、近年注目されている対策が「認知症対策」です。認知症になって、自己判断能力が低下すると、財産管理や処分を自身で行うことが難しくなり、銀行口座からお金を引き出すことや、不動産を売却することができなくなってしまいます。仮に親が認知症になった場合、子供が親の代わりに財産管理や処分を行うことができるでしょうか? 残念ながら、認知症となった親名義の財産を子供が代わりに管理することは現在の法律では認められていません。

親が認知症になってしまうと、財産は凍結されてしまうため、今までどれだけ素晴らしい生前対策を行っていても、対策は頓挫してしまいます。それを解決するための有効な手段が、「家族信託」です。

そこで、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告や家族信託作成のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、家族信託のデメリット・注意点についてご紹介いたします。

目次
家族信託が向いている人
家族信託のメリット
家族信託のデメリット
司法書士の選び方
まとめ

家族信託が向いている人

家族信託は親の認知症に備えて、子供が親の財産管理や処分を行うことを可能とする手段です。例えば、不動産を賃貸している場合に認知症を患うと、店子との入居契約、業者との修繕契約、ないしは賃貸を止めて他に売却するといった資産活用が一切できなくなります。事前に子供と信託契約を結んでおくことで、認知症となった親の代わりに子供がその時々に合わせて資産の有効活用を行うことができるようになるのです。

ですから、認知症が発症することで、ご家族が預金や不動産の管理・売却でお困りになることが想定できている方には、家族信託は非常に効果の高い対策と言えるでしょう。

家族信託のメリット

前述のとおり財産を円滑に承継するためには、将来の認知症リスクに備えて家族信託契約を結んでおくことがとても重要です。ここでは、家族信託のメリットをご紹介いたします。

認知症になっても財産管理を継続することができる

認知症になって自己判断能力が低下すると、財産管理や処分を自身で行うことが難しくなりますが、家族信託を利用することにより相続人などの親族が、代わりに財産管理や処分を行うことができます。

不動産の共有リスクを防止することができる

親が賃貸不動産を所有していた場合、その子供であるきょうだいで共同に相続するケースがあります。不動産の管理上、きょうだい同士が意思疎通ができていれば、何ら問題はありません。しかし、売却などの意思決定に際し、きょうだい同士で意思を統一することができない場合には、不動産を売却することができなくなります。また、きょうだいのうち1人でも認知症など判断能力を喪失してしまうと、たちまち不動産が凍結されてしまいます。

しかし、家族信託を利用すると、家賃をもらう権利や売却代金をもらう権利といった共有者としての権利を残したまま、管理処分の権限をきょうだいの中で代表の1人に集めることができます。それにより、共有によるリスクを解消することができます。

成年後見制度に比べ、柔軟な財産管理を行うことができる

家族信託のほか、財産所有者の代わりに他の人が財産管理や処分を行うことができる手段として成年後見制度があります。成年後見制度とは、認知症等により判断能力が十分でない方の財産管理や契約行為をサポートするために、家庭裁判所により選出された成年後見人が、財産所有者の代わりに財産管理や処分を行う制度です。

成年後見人は財産所有者の利益を守る必要があります。そのため、毎年、資産の管理状況を家庭裁判所に報告する必要があり、売却などの処分についても自由に行えません。一方で、家族信託には財産の処分に対する制約がなく、管理や運用の自由度が高いことから、相続財産を有効に活用することができます。

家族信託のデメリット

家族信託は認知症リスクに備えた有効な手段となりますが、正式な手続きを踏まないと、自身の意思のとおり、財産管理・処分を行うことは難しくなります。ここでは家族信託の注意点についてご紹介いたします。

私文書による契約

家族信託は、委託者(財産を託す人)と受託者(財産を管理処分する人)が信託契約を締結することにより効力が始まります。信託契約については、法律上、私文書でも有効になりますが、財産の管理権限を受託者に移転する非常に重要な契約となり、第三者によって内容を改ざん、捏造されるリスクがあります。

また、信託口口座の開設にあたっては、多くの金融機関で公正証書が求められます。契約の改ざん、捏造によるリスク回避、契約の実効性の観点から、信託契約書は公正証書により作成されることをお勧めします。

家族信託で対応可能な範囲

家族信託はあくまで自身の代わりに受託者に財産管理をしてもらう手段です。福祉施設への入所手続きや費用の支払などといった、いわゆる身上監護は家族信託では対応できません。身上監護についての支援が必要となる人は、成年後見制度と家族信託の併用活用を検討する必要があります。

司法書士の選び方

家族信託は比較的新しい生前対策となるため、信託制度についてあまり理解できていない専門家が多いのが実情です。家族信託は認知症に備えた対策のため、時間の猶予がなく、後戻りできない手段となります。また、信託契約に基づいて効力が発生する制度となるため、法的に効力のある信託契約でなければ、相談者の意思にそぐわない結果になってしまいます。家族信託を検討される方は、家族信託の実績のある司法書士を探すことをお勧めします。

まとめ

認知症が社会的問題となっている中で、意思能力の欠如により、相続の発生まで財産の管理や処分ができないことは、財産の大小にかかわらずどのご家庭でも発生しうる問題です。家族信託はそのような問題に対して非常に効果的な対策となりますが、専門性が高く法的に有効な契約書を作成することや、将来発生する様々な事象を想定する必要があります。ご自身の意思がしっかりと形になるように、家族信託に詳しい専門家に依頼し、この制度について十分に理解したうえで対策を進めていただきたいと思います。

構成・編集/内藤知夏・松田慶子(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com/

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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