関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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書置きを残し、40歳の独身娘が姿を消した……
今回の相談者は、不動産オーナーの神原正親さん(仮名・72歳)。40歳の娘が「探さないでください」という意味の手紙を残して、家出してしまったことから、私たちに調査を依頼。
「警察に行ったんですが、“書置きもあるし、お嬢さんは明確に家を出る意思がある”と言われて、調査はしてもらえませんでした。地元の探偵さんに頼んでも見つからず、あなたならできると思って恥を忍んでここまで来たのです」
正親さんは甲信越地方の自宅から、クルマを飛ばして横浜までいらっしゃいました。まず、家族関係について伺いました。
「妻と長男と娘です。妻も娘のことは心配しています。長男はドイツ人女性と結婚して、向こうにいます。もう15年以上も会っていません」
そう言って、正親さんはタバコに火をつけました。私たちの事務所は禁煙なのですが、あまり気にされないようでした。
お話されている様子から、かなりの亭主関白と拝察します。
「娘は大学を出てからずっとウチで仕事をしています。もともと体が弱いので、外の会社に勤めるなんてムリなんですよ。さっさと結婚させようと思って相手を見つけてくると、難癖をつけて断ってしまう。コロナの前までは、妻や友達と一緒に、海外旅行に行ったり買い物したりと楽しんでいたのですが、ここ1年くらいは友達も結婚し子供ができたりして、ふさぎ込むようになってしまった」
娘さんには、恋人がいたことはあるのでしょうか。
「そりゃいますよ。東京に一人で住んでいたこともあったし、結婚したいという男が3人くらいウチに来たことがありました。彼らの勤務先は、商社勤務、官僚、広告代理店だったかな。でもどいつもこいつもダメ。顔はいいかもしれないけど、年収が低すぎる。娘に“この男と結婚したら、オマエが外で働いて生活費を払うんだぞ”と言ったら、娘は“それは嫌だ”と言うので、断ってしまった」
父である正親さんが、家の格が釣り合う男性を探してくると、今度は娘が気に入らない。
「そうこうするうちに、15年が経過し、このままずっと娘はウチにいるのだろうと安心していたら、突然、いなくなってしまったのです」
【家出人の調査のキモは、パソコンの履歴。次のページへ続きます】