
『元町浜の湯』
黄金色に染まる露天風呂。観光客や仕事帰りに同僚とひと風呂という島の常連も多い。
●住所:東京都大島町元町字トンチ畑882 電話:04992・2・2870 営業時間:13時〜19時(7月・8月は11時〜) 定休日:無休(天候により休業・時間短縮あり) 料金:300円 要水着着用。交通アクセス:元町港から徒歩約3分。
都心から約120kmの洋上へ
伊豆半島(静岡県)の南東に連なる伊豆諸島は、東京都に属する火山列島である。地域最大の伊豆大島は、4万〜5万年前に始まった海底噴火によって誕生し、都心から南へ約120㎞の洋上に浮かぶ。島の中央部には玄武岩の活火山・三原山が聳え、火山島らしく温泉がこんこんと湧き出ている。
なかでも絶景を楽しめるのが、島の西部にある元町浜の湯だ。昭和61年の三原山の噴火後、元町地区の水源井戸の温度が上がり、温泉成分も含まれていたため、この源泉を利用して平成2年に開設された。水着着用の混浴温泉のため、夫婦や家族連れで入浴できる。
相模湾を一望する露天風呂の前には、伊豆半島の山並みが連なり、天候に恵まれれば富士山を見ることもできる。指折りの景色が見られるのは夕暮れ時。刻々と空と海が茜色に染まり、大きな夕日が伊豆半島の奥に沈んでいく……。潮風を感じながら源泉かけ流しの湯に浸かり、しかも雄大で胸に沁みる光景に触れられるのだ。泉質は無色透明のナトリウム-塩化物泉、さっぱりとした肌触りである。
青唐辛子のきいた寿司
火山島独特の地形と黒潮の影響で、伊豆大島は魚影が濃いことで知られている。海の恵みを活かした数々の郷土料理のひとつに、べっこう寿司がある。他の伊豆諸島では島寿司とも呼ばれる料理で、白身魚を青唐辛子のきいた醤油だれに漬け込み、酢飯と合わせたもの。冷蔵技術が限られていた時代に、保存性を高めるための知恵と、山葵が入手できなかったことから生まれた。
島の玄関口のひとつ、元町港の目の前に位置する『寿し光』のべっこうにぎりは、メダイやブダイ、カンパチなどを醤油、酒、みりん、青唐辛子でつくる漬けだれに40分ほど漬け込んで供する。べっこう色に染まった魚の身はしっかりとした歯ごたえで、甘めの酢飯とやさしく調和する。青唐辛子の辛さは店により異なるそうで、『寿し光』では控えめにしているという。ピリッとしたアクセントがほんの一瞬、口の中に広がった。

『寿し光』
左はべっこうにぎり8貫1800円、右手前はウツボの天ぷら1400円、奥は白エビと明日葉のかき揚げ900円、焼酎グラス600円。

●住所:東京都大島町元町1-4-7 電話:04992・2・0888 営業時間:11時〜14時(最終注文)、17時〜21時(最終注文) 定休日:水曜 交通アクセス:元町港から徒歩約2分。
ほかにもほどよい弾力と濃厚な旨味を持つウツボの天ぷらや、白エビと明日葉を使ったかき揚げなど、郷土の味わいを楽しめる。料理に合わせたいのは、島を代表する本格焼酎「御神火」。深いコクとすっきりとした後味で食材の味を引き立てる。
活火山の周辺を散策し、“地球の胎動”を感じる
伊豆大島で「御神火」と称される三原山は、100年から150年周期で大規模な噴火を繰り返し、昭和61年の噴火は記憶に新しい。島内各所で、噴火により流れ出した溶岩の痕跡や溶岩地帯特有の植物などが見られるほか、巨大な噴火口に近づけるトレッキングコースも設けられている。
三原山散策の拠点として訪ねたいのが、大島温泉ホテルである。三原山の外輪山に位置し、露天風呂からは荒々しさを残しつつも穏やかな山容を見渡すことができる。

大島温泉ホテル
原生林の奥に横たわる三原山を眺望する極上の露天風呂。源泉かけ流しの湯は、日帰り入浴でも利用できる(800円)。

温泉は三原山温泉と呼ばれる自家源泉で、地下約300mから69℃以上の湯を汲み上げている。海辺の塩分の多い温泉とは異なり、肌にやさしい単純温泉の湯で、客室でも楽しめる。
「目の前に広がる三原山の風景は圧巻ですが、満天の星や霧に包まれる幻想的な雰囲気も見ていただきたいですね」と話すのは副支配人の荒井友香さん。火山列島ニッポンにおいても、活火山を眺めながら湯浴みを満喫できるロケーションは数少ない。
大島温泉ホテルを訪ねた際に食したいのは、もうひとつの名物である椿フォンデュ。伊勢海老や帆立貝、野菜などに衣をつけて、島の特産の椿油で揚げたてを味わう。食材の旨味が凝縮されるだけでなく、伝統製法による純度100%の天然の椿油はオレイン酸が豊富なため、軽やかで胃もたれもしにくい。

●大島温泉ホテル 住所:東京都大島町泉津字木積場3-5 電話:04992・2・1673 料金:1泊2食付きひとり1万2250円〜 交通アクセス:元町港・岡田港から無料送迎車で約20分(要予約)。
火山島らしい風景に触れる
火山島ならではの名所にも出かけたい。噴火活動の歴史を物語るのは、島の南西部にある通称バウムクーヘンこと、地層大切断面である。昭和28年、道路建設工事のため山を削ったところ、巨大な縞模様が現れた。調査の結果、過去約1万8000年間に繰り返し起こった大噴火と、噴出物が降り積もってできた地層であることが判明。長さ630mにもわたる美しい断面は、天然の噴火活動の記録であり、大地の年輪といえよう。
三原山の東側一帯には黒い火山岩(スコリア)で覆われた裏砂漠があり、荒涼たる異世界が広がる。

裏砂漠
国土地理院発行の地図で唯一「砂漠」と表記される裏砂漠。●住所:東京都大島町泉津原野 電話:04992・2・2177(大島観光協会) 交通アクセス:大島温泉ホテルから徒歩約1時間。岡田港から車で約30分、元町港から車で約40分で駐車場、徒歩約10分。

地層大切断面
大島一周道路沿いにある高さ約24mの地層の断面。最寄りのバス停はバウムクーヘンを模した洒落たデザイン。●住所:東京都大島町野増 電話:04992・2・2177(大島観光協会) 交通アクセス:元町港から波浮港ラインバスで約14分、地層断面前下車すぐ。

取材・文/関屋淳子 撮影/藤田修平
※『サライ』2026年7月号より












