
和多都美神社
和多都美神社拝殿から鳥居を望む。2基の鳥居は海中に立ち、幻想的な雰囲気を漂わせている。●住所:長崎県対馬市豊玉町仁位字和宮55 電話:0920・58・1488 境内自由(社務所は9時~12時、13時~17時)。交通アクセス:対馬やまねこ空港から車で約40分、厳原港から車で約1時間
壱岐島からは北西へ約70㎞の対馬島。壱岐島とはフェリーとジェットフォイルで結ばれており、ジェットフォイルであれば1時間ほどの船旅だ。
なだらかな平地が多い壱岐島とは対照的に、対馬島は山々が連なり、水田が少ない。『魏志倭人伝』によれば、対馬島の人々は海産物を食べ、船に乗って交易していたという。
伝承では、島の中央に広がる浅茅湾に面して、「海宮(わたづみのみや)」という宮殿があったという。その地に鎮座するのが和多都美神社だ。彦火火出見尊と豊玉姫命を祭神とし、古くから龍宮伝説が伝えられてきた。拝殿から海へと一直線に並んだ5基の鳥居のうち2基は海中に聳え、満潮時には社殿の近くまで海水が満ちてくる。その光景は、まさに龍宮を思わせる。

古代日本の国防を担った山城
リアス海岸の複雑な地形が織りなす浅茅湾の南側に聳える城山は、日本古代史と深い関係がある。
飛鳥時代の663年、日本は朝鮮半島で滅亡した百済の復興のため新羅と唐と対立し、白村江の戦いで大敗した。唐の来襲を恐れる状況下、667年に城山に築かれたのが金田城(※)だ。城といっても、天守が聳える近世の城とは違い、山に巡らされた長大な石塁である。亡命した百済の技術者が指揮して築いたことから、朝鮮式山城(古代山城)に分類される。

金田城跡
金田城の東南角石塁。城跡のなかでとくに良好に残っている石塁で、高さは約4m。石塁の総延長は約2.2㎞に及ぶ。国の特別史跡。●住所:長崎県対馬市美津島町黒瀬 電話:0920・54・2341(対馬市教育委員会文化財課) 見学自由。交通アクセス:厳原港から車で約40分の金田城登り口から山頂まで徒歩約1時間
金田城跡の登山口から岩壁に沿って登城道を歩くと、突如として視界に石塁が現れる。近づいてみると、その石塁は海へ向かうように断崖沿いに続いている。「東南角石塁」と呼ばれる地点で、城山を取り囲む石塁の一部だ。
東南角石塁から約1・5㎞の山道を歩くと、山頂に着く。そこから見渡す入り組んだ入江と穏やかな海の眺めは、登ってきた疲労を忘れるほどの美しさだ。この日は霞んで見えなかったが、空気の澄んだ日は朝鮮半島の陸影を望むことができるという。古代もいまも対馬は国境の島である。

※現在の史跡としての名称は金田城跡。
秀吉の朝鮮出兵への軍事拠点

清水山城跡
標高約210mの清水山の尾根沿いに、東西約500mにわたり築かれた。国指定史跡。●住所:長崎県対馬市厳原町西里 電話:0920・54・2341(対馬市教育委員会文化財課) 見学自由。交通アクセス:厳原停留所から徒歩約10分の清水山城跡登城口より、一の丸(山頂)まで徒歩約30分
日本と大陸の関係が緊張感をはらむたびに、対馬はその影響を受けてきた。16世紀末には、豊臣秀吉が対馬を大陸への足がかりとした。
古代の金田城は「守り」の拠点だったが、秀吉による朝鮮侵攻に際して、「攻め」のための拠点として築かれたのが清水山城である。対馬の中心地、厳原の市街地近くに登城口があり、登ってゆくと石垣が幾重にも立ちはだかり、防御の堅固さが実感される。山頂近くに立つと、眼下には厳原港が見え、九州方面からやってくる豊臣船団の姿が思い浮かぶ。
清水山城を下り、麓にある対馬博物館を訪ねた。対馬の自然や歴史、大陸との交流の歩みを伝える展示が並ぶ。金田城跡の展示を前に、対馬博物館の学芸員・尾上博一さん(52歳)が解説する。

金田城跡に関する展示について解説する尾上さん。●住所:長崎県対馬市厳原町今屋敷668-2 電話:0920・53・5100 開館時間:9時30分〜17時(最終入館16時30分) 定休日:木曜(祝日の場合は翌平日)、12月28日〜1月3日 料金:550円 交通アクセス:厳原港から車で約15分

「対馬沖の海域は、海流が非常に速いのです。一方で対馬を過ぎると、壱岐と博多の間の海流は速くありません。そのため、大陸側から軍勢が攻めてきた場合、対馬で防ぐことが重要でした」
対馬博物館の常設展示には、金田城跡から出土した新羅産の土器も並んでいる。海で結ばれた、敵対関係を超えた文化の受容を窺うことができる。
対馬産アナゴと地酒を愉しむ
対馬西沖は良質なアナゴの産地としても知られる。東京を始め、全国にアナゴを出荷するフレッシュ対馬の代表取締役・島居吉秀さん(47歳)は、こう話す。
「対馬西沖は潮の流れが速く、アナゴは流れに負けまいと身を引き締めて育ちます。その分、味わいにも深みが出るのです」
島居さんは、良好な漁場で獲れたなかでも極上のアナゴを「黄金あなご」と名付け、直営の料理店『あなご亭』で提供している。大ぶりで厚みのある身は、箸を入れるとふわりとほどけ、濃厚な旨味が口に広がる。

『あなご亭』
「特上せいろ蒸し(大)」4300円。ふんわりとした食感の「黄金あなご」をたっぷり味わえる。●住所:長崎県対馬市豊玉町仁位2091-3 電話:0920・58・2000 営業時間:11時30分〜14時(数量限定)※夜は5名以上の予約でコース料理のみ。定休日:火曜〜木曜 交通アクセス:対馬やまねこ空港から車で約35分

対馬の日本酒文化を支えてきたのが、大正8年(1919)創業の酒蔵、白嶽酒造だ。甘口で飲み飽きしない味わいは、島民に愛されてきた。現在、対馬で唯一の造り酒屋であり、代表銘柄「白嶽」は、全国新酒鑑評会で3年連続金賞を受賞している。

『白嶽酒造』
左は「白嶽 大吟醸」720㎖ 3148円。福岡県産山田錦を100%使用し、低温でじっくり仕込んだ大吟醸。穏やかな香りと芳醇な味わいが特徴。中央は「白嶽 上撰」720㎖ 1185円。昔ながらの製法で造り、昭和の面影を残す味わい。右は「ZERO」720㎖ 2420円。対馬産の米と水、麹のみで仕込んだ。冷やすと透明感のある旨味が口の中に広がる。●住所:長崎県対馬市美津島町鷄知甲490-1 電話:0920・54・2010 営業時間:9時〜18時(土曜は10時〜17時) 定休日:日曜、祝日 交通アクセス:対馬やまねこ空港から車で約5分
「対馬産の米と、霊峰・白嶽の伏流水を使い、対馬島ならではの酒造りにこだわっています」と杜氏の伊藤真太郎さん(35歳)。

対馬の食文化を堪能し、国境の島を後にした。

取材・文/藪内成基 撮影/松隈直樹
※『サライ』2026年7月号より












