冷え性
写真:photoAC(一部加工)

年中、足先までポカポカと温かい方だったら、冷えのつらさはピンとこないかもしれません。けれど、寒さが増すこれからの季節、冷えについて知ると、悩む人たちへ優しい心遣いを贈ることができます。多くの人が抱える冷えの原因を知り、日常ですぐに活かせる養生をご紹介します。

本連載では、国際中医専門員の志村幸枝先生が、中国伝統医学の知恵から、心と体の違和感のサインを読み解いていきます。

今日は、家族の健康について相談したいという男性が、訪れています。ちょっと、覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者|53歳 男性(設計士)、48歳 妻
相談内容|妻の冷え性を、どうケアしてあげればいいか知りたい。

リスト作成:もぱ

家族の冷え性が心配

スーツ姿の男性は、腰をかけて話しはじめました。

「今日は私のことじゃないんです。家内のことで相談が」

志村先生は、にこやかに頷きました。

「ご家族のことが気になって、という方はよくいらっしゃいますよ。どうされました?」

「冷え性なんです、うちの奥さんが。毎年、寒くなると、靴下は二枚重ねで履いていて、真冬には湯たんぽも使っています」

少し間があって、男性は続けます。

「寝ているときに、うちの奥さんの足が当たると、いつも冷たくて。まだ真冬でもないのに、氷かと思う。お風呂も、しっかり湯舟に浸かったはずなのに」

「それは気になりますよね」

「本人はいつものことらしく、気にしてないんですが…。じつは私、漢方には以前から興味があるんです。まだ馴染みがないですが。だから、まず聞くだけ聞いてみよう、と思って来ました。なにかいい漢方薬があれば、買って帰ろうと思いまして」

「お優しいですね。奥さまには、今日来ることは?」

男性は、少し照れたように頭をかきました。

「言ってません。まだ」

冷えの原因|3つの要素

志村先生は言います。

「冷えには、大きく3つの要素があります。このうち、1つだけの人もいれば、重なっている人もいます。奥さまの足が、お風呂のあとにまた冷える、ということでしたね。ここにもヒントがありますよ。まずは、順番に見ていきましょう」

エネルギー不足タイプ

「ひとつ目は、体を動かすエネルギーの『気』と、全身に栄養と温もりを届ける『血(けつ)』が、共に不足している状態です」

イラスト:illustAC

男性は、じっと耳を傾けています。

「『気・血』の働きは、川に例えるとわかりやすいです。川の流れに勢いがなく、水そのものも足りない状態を想像してみてください。このふたつはセットで考えるので、どちらかが不足すると、滞りが生まれてしまいます」

「勢いのない川か…。体の隅々まで流す力が弱そうですね。…だから足先が冷えるのか?」

「そうなんです。『気』の不足は、過労や睡眠不足など、充電が追いついていないタイプと、もともと『気』を作り出す力が弱いタイプがあります。これに特に影響するのは胃腸の働きです。

それに、女性には生理があるので、男性より、もともと『血』が不足しやすいです」

「そうか…。だから女性はよけいに冷えやすい、と。それは、つらいだろうな」

緊張・ストレスタイプ

「2つ目は、緊張やストレスによって『気』が滞り、『血』も巡りにくくなり、冷えを感じるタイプです。

じつは以前、男性のお悩みで、こんなケースがありました。

相談にこられたのは、自転車での通勤が習慣で、定期的な運動も欠かさない方でした。体つきは筋肉質で、見た目はとても健康的。『気・血』が足りない様子もなければ、腰まわりの冷えや、トイレが近いわけでもない。冷えるのは朝だけ、とおっしゃる。出勤してパソコンに向かうと、タイピングがしづらいほど冷える、とのことでした。

その後、詳しくお話を伺ううちに、仕事の緊張が続いていることがわかってきて。どうも、そこから『気』が滞り、『血』の巡りが悪くなっていたようなんです。

最初のタイプにも近いですが、このケースは、ストレスが冷えの背景にあったわけです。そこで、『気』を巡らせる処方を出したところ、すっきり改善しました」

「ストレスが、冷えに関係するんですか?」

「はい。緊張が続くと、『気』が巡りにくくなりますから。お風呂を沸かすイメージで例えましょう。ボイラーでお湯を沸かしても、かき混ぜなければ、上だけ熱くて、下は水のまま、という状態が起こりますよね。

イラスト:illustAC

体の中でも同じことが起きています。足先や手など、末端だけが冷えるんです。足は冷たいのに頭がのぼせる方もいますよ」

「あぁ、湯かき棒がないから、混ぜられない感じかな」

「そう、そうです。『気』の巡りは、湯かき棒の役目と同じ働きです。

デスクワークをしていて、足だけが冷える、という声も多いですが、少し動くことで温まるなら、『気』の巡り(湯かき棒)の問題かもしれません。これは性別、年齢に関わりなく、あることです」

思わず男性は、湯かき棒を使ってお湯を上下にかき混ぜる様子を、思い浮かべました。

ボイラーの火力が弱いタイプ     

「3つ目は、体のボイラーの力が落ちた状態です。水は張ってあるのに、火力が弱くて、いつまでも湯が沸かない。そんなイメージですね。腰まわりが冷えたり、トイレが近いといった症状を併せ持つ方が多いです。

お風呂で温まったのに、また冷えてしまうという奥さまはこのタイプかもしれませんね」

耳を傾けていた男性が、小さく唸りました。

「沸かす力が弱いんですね。家のボイラーなら、業者を呼べば済むんですけどね」

「体のボイラーは、そうはいきませんね」と、志村先生は笑います。

「では、立て直し方をお話ししていきましょう」

今日から夫婦でできる養生

どのタイプにも通じるのは、冷やさないことと、体の巡りをよくすること。生活の中で、ご夫婦でできることがないか、考えてみましょう。

冷たいものを控えて、温める

「健康にいいと思って食べているヨーグルトや、野菜のスムージーが、体を冷やしてしまう場合もあります。奥さまはいかがですか?」

「そうだな…。サラダやフルーツは、好きです。冷蔵庫から出して、そのまま食べています」

「そういった方は、できるだけ温かいものを口にするように、意識してみてください。冷たいものを食べるときは、温かい汁物と一緒に召し上がるといいですよ。

当たり前にしている生活習慣の中に、冷えの原因が隠れていることも多いですから」

ふむ、と考え込む様子の男性に、志村先生は続けます。

「温める力が強い食材には、しょうが、にんにく、ネギなどがあります。これからの季節はスープやお鍋に加えるとポカポカメニューになります」

イラスト:illustAC(一部加工)

男性は、確かめるように深く頷きました。

巡らせて温める

「そして、『気・血』を巡らすことで、体を温める力を取り戻しましょう。先ほどの『湯かき棒』の役目を果たすのは、体を動かすことです。散歩、歩く習慣を少し意識するだけで、滞っていたものが流れていきますよ。巡りを意識しながら、足首を上下に上げ下げするだけでも、違います」

男性は、休日の過ごし方を思い返したようです。

「それぐらいでいいなら、休日の買い物を、散歩がてら一緒に歩いて行けばいいですか? つい、車で出かけてしまうけど…」

イラスト:illustAC

「はい。いいですね。ただ、これからの季節は、外の寒さも加わります。冷えやすい方にはこたえますから、無理は禁物ですよ。特に、『首』『手首』『足首』、この三首を冷やさないように。太い血管が通っているので、ここが冷えると、体全体が冷えてしまいます」

「真冬になったら、マフラー、手袋、タイツや靴下は、必須アイテムですね。じゃあ、本格的に寒くなる前に、ウォーキングのイベントにも誘ってみるか…」

志村先生は頷きながらも、もうひとつだけ、配慮する点を加えました。

「歩き過ぎて、疲れてしまわないことも、ぜひ意識してください。疲れは『気』が消耗した状態です。すると、連動して『血』も動きにくくなります。

だから、疲れない程度に動く、これが冷えのケアにつながります」

「そうか…。自分のペースで連れ回して嫌がられるのは、それかもしれない。妻のペースに合わせながら『気・血』を巡らせることを考えればいい、と。なるほどなぁ」

「はい。体力に合わせた、軽い運動が習慣になれば、冷えづらい体質に近づいていきますよ」

お風呂にプラス

「今日は、漢方薬をお持ち帰りになりたいとのことでしたね」

男性は、少し身を乗り出しました。

「はい。できれば」

「それなら、漢方生薬でできた入浴剤はいかがでしょう? 先ほど、入浴はすでに実践されているとおっしゃっていましたよね。冷え性の方にとても人気があって、リピーターも多いんですよ。冬支度の贈り物にもなるし。

体質に合わせた処方は、ご本人にお会いしたほうが組みやすいので、よかったら、次はご一緒にいらしてください。『気・血』を生み出すもとは、胃腸。ボイラーの立て直しにも、胃腸の土台が必要ですから、まずはそこからお話を伺いましょう」

男性は「はい。これを渡して、妻に話してみます」と、頭を下げました。

おわりに

「冷えが気になる奥さまに、漢方薬を贈る。すてきな気遣いですね」

奥さまへの入浴剤を手渡しながら、志村先生は声をかけます。

男性は、穏やかな表情で口にしました。

「妻の体調が良いと、家の中も明るくなりますから。今からこうして体をケアしながら、一緒に歳を重ねていけたらいいなと思いまして」

志村先生は、言いました。

「そうですね。そのお気持ちがなによりの薬です。奥さまも心強いと思いますよ」

志村先生はそう言って、部屋をあとにする男性を見送りました。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※漢方相談のご予約はこちらから
https://www.coco-bi-kanpou.com/online/

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

●アイキャッチ画像/photoAC(一部加工)

 

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