森の記憶を伝える保存鉄道

トロッコの語源はtruck(車輪つきの運搬具)といわれる。レールを敷いて、資材や材木を運んでいた産業用鉄道のほとんどが、線路幅も狭く、車両も簡易なトロッコ列車だった。昭和の頃、全国の山林には1000か所を超える森林鉄道があり、総延長は約8900㎞にも及んだという。全盛期の国鉄の総延長が約2万1000㎞だから、その伸長ぶりがわかるだろう。森林鉄道のトロッコ列車は、木材の搬出のみならず、山で働く人たちの生活も支えてきた。

やがて自動車輸送への切り替えが進み、1975年頃には全国でほとんど廃止になった森林鉄道だが、今、保存鉄道となって歴史を伝えている施設がある。

そのひとつが、小さな蒸気機関車「雨宮21号」がトロッコを牽引する丸瀬布森林公園いこいの森(北海道遠軽町)だ。また皇室の御用材を運んだ木曽山中の赤沢森林鉄道(長野県上松町)では、当時の線路を使った列車も運転されている。野趣あふれるトロッコ列車に乗ると、レールと車輪の振動が直に伝わってくる。

工事用軌道が観光鉄道に

トロッコが走る産業用の鉄道は電源開発のダム工事にも使われた。北アルプスを流れる日本屈指の急流、黒部川では1937年に宇奈月駅〜欅平駅間が開通。過酷なダム工事現場を支えた。

南アルプスでも大井川上流部のダム工事のために工事用鉄道が建設された。これが黒部峡谷鉄道本線と大井川鐵道井川線となり、南北のアルプス山脈の大渓谷に分け入る二大トロッコ鉄道になっている。

丸瀬布森林公園いこいの森(北海道遠軽町)
“北の大森林を小さな汽車が駆ける”

●森林鉄道雨宮21号 
1928年製で、全長5.2m、重さ11トン。かつてこの地で木材の運搬に活躍した、森林鉄道用では唯一の動態保存蒸気機関車。開園期間の土・日・祝日運行。 
問い合わせ先:丸瀬布総合支所
電話番号:0158・47・2211 
軌間:762㎜ 走行距離:約2㎞ 主な牽引車:蒸気機関車(雨宮21号) 運行開始年:1980年(保存運転開始)

赤沢森林鉄道(長野県上松町)
“尾張藩御用林に由来する森を訪ねる”

●赤沢森林鉄道 
森に残る1.1㎞の線路をディーゼル機関車の牽引で往復する。森林鉄道記念館もあり蒸気機関車なども展示。冬期間は運休。
問い合わせ先:上松町観光協会
電話番号:0264・52・1133 
軌間:762㎜ 走行距離:往復約2.2㎞ 主な牽引車:ディーゼル機関車(AFT形) 運行開始年:1987年(観光運行開始)

黒部峡谷鉄道(富山県)
“深き谷へと分け入る秘境の鉄路”

宇奈月駅を出たトロッコ列車は全長166mの新山彦橋を渡る。単線だが電化され、壁のない普通客車と密閉型車両を連結して走る。

●トロッコ電車〔黒部峡谷鉄道〕 
電気機関車は重連で運転し、黒部川のV字渓谷を時速20㎞ほどで進む。途中下車できるのは黒薙駅だけ、冬季は運休する。
軌間:762㎜ 走行距離:20.1㎞(宇奈月〜欅平。ただし2026年9月30日まで猫又〜欅平は運休) 主な牽引車:電気機関車 運行開始年:1926年

大井川鐵道井川線(静岡県)
“日本で唯一のアプト式鉄道に乗車”

アプトいちしろ駅〜長島ダム駅の区間は、歯形のレールに車両側の歯車を噛み合わせるアプト式の電気機関車を連結。

南アルプスあぷとライン〔大井川鐵道〕 
井川線のディーゼル機関車は千頭駅側に連結、井川駅寄りの先頭車は運転席つき。客車は全長11mとコンパクトで中央にドアがある。
軌間:1067㎜ 走行距離:25.5㎞(千頭〜井川) 主な牽引車:ディーゼル機関車・アプト式電気機関車 運行開始年:1935年

取材・文/杉𥔎行恭 写真/杉𥔎行恭、坪内政美

※『サライ』2026年9月号より

 

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