
ヒカゲヘゴ
シダの仲間で常緑性。茎は直立し先端にゼンマイ状の新芽をつける。この新芽を食用する地域も。新葉は放射状に展開。古い葉は茎の生長とともに脱落し痕が魚の鱗のように見える。
令和3年、奄美大島は徳之島、沖縄島北部、西表島とともに世界自然遺産に登録された。鹿児島県と沖縄県の中間に位置する奄美大島は、手つかずの深い森と「アマミブルー」と称される美しい海が特徴的だ。中でも島の中心部にある金作原は、奄美大島の自然な森の姿が色濃く残る地区。奄美大島や徳之島では、国立公園の特別保護区に入山する場合、認定エコツアーガイドの同行が義務付けられており、今回は鳥飼久裕さん(66歳)に案内してもらった。
金作原の林道を歩き始めて気がついたのは、森の植生が意外と本州に似ていることだ。
「亜熱帯性気候の島のため、南国の植生を期待して来られる方も多いですが、構成樹種の7割くらいはスダジイのような本州でも目にできる常緑広葉樹です。それでもこの地域特有の植生はたくさんあります。林床を見てください。大きな艶のある葉を広げているのはクワズイモです。サトイモ科ですが有名な毒草です。もうちょっと歩くと面白い景色に出会えますよ」
鳥飼さんが足を止めて見上げた先にあったのは、恐竜が闊歩した時代の地球を思わせる、ヒカゲヘゴという巨大なシダだった。

金作原
金作原林道の中でも明るい場所で見られるヒカゲヘゴ。オーバーツーリズム防止のため金作原エリアへの入山は認定エコツアーガイドの同行が条件(※)。●住所:鹿児島県奄美市名瀬大字朝戸金作原 電話:0997・69・2281(奄美大島世界遺産センター) 交通アクセス:奄美空港から車で約30分(直接乗り入れ不可) ※電話:0997・52・1111(奄美市役所)
「この幹は厳密には木質ではなく根のような組織が集まったものです。上へ上へと光を求めた結果、10m以上の高さになりました」
暗く湿度が高い奄美の森には、カクチョウランなどラン科植物の固有種も多い。鳥の囀りも本州とは印象が違う。とにかく賑やかだ。奄美大島では340種ほどの野鳥が確認されており、ここでしか見られない固有種も多数いる。

屋久島以南に分布する高さ1m近くになる大型のラン。花の外側が白で内側が赤、唇弁部分が赤紫色の印象的な花を春から初夏に咲かせる。乱獲により数が減っている。
マングローブの森の中へ
太古の雰囲気を残す森を後にして向かったのは、黒潮の森マングローブパーク。カヌーで身近に森の中を散策できる観光スポットながら、奄美の自然の奥深さを実感できる要所だ。
マングローブとは、熱帯~亜熱帯性地域の汽水域に展開する樹林帯で、塩分耐性を持つ植物で構成される。川が運んできた森の栄養と、マングローブの落ち葉の栄養、そして満潮が押し上げた海の栄養。この3つの栄養源が浅く温かい泥の河口を行きつ戻りつするなかで、夥しい数のプランクトンが発生する。つまり沿岸域の生物多様性の要になっているのである。

奄美大島のマングローブを代表する樹木。細長い実が枝下の泥に落下して刺さったり、水に流されたりして漂着すると、中の種が発芽する。樹皮にはタンニンが多く含まれ、布の染色に使われることもある。

黒潮の森マングローブパーク
住用川と役勝川の合流点に広がる約70ヘクタールのマングローブの森。全景を一望できる展望台もあるが、レンタル・カヌーを利用すれば林内の散策もできる。●住所:鹿児島県奄美市住用町石原478 電話:0997・69・2281(奄美大島世界遺産センター) 交通アクセス:奄美空港から車で約60分
特別天然記念物のアマミノクロウサギを見る

近年、人家や海岸近くにも出てくるようになってきた。
奄美大島で近年注目されているエコツアーが、夜行性の動物を車から観察するナイトツアーだ。
「奄美の固有種といえば特別天然記念物のアマミノクロウサギが有名です。肉食外来種のマングースの影響で危機的な状況が続いていましたが、地道な駆除活動が功を奏し、一昨年、環境省が根絶宣言を出しました。この前後からクロウサギがよく見られるようになっています」(前出・鳥飼さん)
ナイトツアーでは、クロウサギ以外にもアマミヤマシギやリュウキュウコノハズクといった夜行性の鳥を見ることができる。朝には花が散ってしまうサガリバナの観察も夜のツアーならではだろう。
夜の森で希少な生きものに出会う
三太郎線周辺

奄美群島と沖縄島の固有種。夜間に地上で餌を探す。環境省のレッドデータリストでは絶滅危惧II類だったが、回復基調にあることから今年の改訂で準絶滅危惧種に。

日本最小級のフクロウの仲間。

河畔や湿地に分布し、夏の夜に美しい花を咲かせる。開花は一夜限り。
ただし、利用ルールがある。世界自然遺産地域を通過する道路は夜間通行を自粛。自然遺産の緩衝帯を通る三太郎線(全長約10kmの市道)は通行台数と時間が制限され、予約制となっている。制限区域以外も走行速度を10km以下にするなどの申し合わせがある(※)。
※0997・55・8620(環境省奄美群島国立公園管理事務所)
アマミノクロウサギの生態をより詳しく知りたいなら、行動観察できるアマミノクロウサギミュージアムQuruGuruを訪ねるとよい。

アマミノクロウサギミュージアムQuru Guru
交通事故などで負傷したアマミノクロウサギの保護施設。治療しても野生復帰が難しい個体を飼育展示している。●住所:鹿児島県大島郡大和村思勝502-1 電話:0997・57・1196 営業時間:9時30分~16時30分(最終入館16時) 定休日:月曜、年末年始 料金:1000円 交通アクセス:奄美空港から車で約70分

街中に宿を取るならば、奄美群島最古で最大の繁華街・屋仁川界隈の散策をおすすめしたい。たとえば、『郷土料理かずみ』。奄美民謡の唄者でもある西和美さん(84歳)が切り盛りする店だ。最近は供する店も少なくなった昔ながらの家庭料理を、名産の黒糖焼酎とともに味わうことができる。

郷土料理かずみ
コース料理1人前3500円より。右上から時計回りに、赤うるめの唐揚げ、苦瓜味噌、とびんにゃ(マガキガイ)、もずく酢、たなが(テナガエビ)素揚げ、油ぞうめん。中央は塩豚と季節の山菜の炊き合わせ。●住所:鹿児島県奄美市名瀬末広町15-16 電話:0997・52・5414 要予約。営業時間:18時頃~終了時間不定 定休日:不定 交通アクセス:奄美空港から車で約50分

取材・文/鹿熊 勤 撮影/浜田 太
※『サライ』2026年7月号より












