八丈小島を望む大坂トンネル展望台付近を走る八丈町営バス。
2日間バス乗り放題、3か所の温泉施設入り放題のチケット「バスパ(BU・S・PA)」1000円。モバイル版もあり。バス路線は循環路線(日曜運休)と坂上・坂下行き。

バスで気軽に温泉巡り

東京・羽田空港から飛行機で1時間弱。瓢箪のような形をした八丈島は、北西に八丈富士(西山)、南東に三原山(東山)というふたつの海底火山からなり、海上には無人島の八丈小島が浮かぶ。

噴火活動は慶長10年(1605)以来途絶えているが、火山の恵みである温泉が豊富で、バス路線沿いに町営の温泉施設が点在している。島では「バスパ(BU・S・PA)」という2日間バス乗り放題、温泉入り放題(3か所)のチケットが販売され、バスパを使って気軽に温泉巡りを楽しめる。

旅の初日、八丈島空港からバスを乗り継ぎ、まず目指したのは末吉温泉「みはらしの湯」。八丈ブルーと形容される美しい群青の大海原を一望する露天風呂と内風呂を備える。温泉名の通り、島最南端の小岩戸ヶ鼻や八丈島灯台も見晴らせ、なんともいえぬ開放感だ。次は市街地に一番近い温泉、樫立向里温泉「ふれあいの湯」に向かう。地元民が毎日のように通い、総檜造りの内湯と露天風呂には塩分濃度が高い温泉が満ち、よく温まる。

末吉温泉「みはらしの湯」
末吉温泉10:11着 太平洋の水平線が広がる露天風呂。偶数日と奇数日で男女入れ替え。泉質は含よう素─ナトリウム─塩化物強塩泉。11月〜4月は外洋を泳ぐザトウクジラの姿も。●住所:東京都八丈島八丈町末吉581-1 電話:04996・8・1933 営業時間:10時30分〜21時30分(入館は21時まで) 定休日:火曜 料金:500円 交通アクセス:バス停末吉温泉前下車後すぐ
樫立向里温泉「ふれあいの湯」
樫立温泉入口13:05着 東屋風の露天風呂からはちょうど椰子の木が見え、南国ムードが漂う。敷地内の源泉井戸から源泉が注がれ、緑色がかった湯が気持ちいい。●住所:東京都八丈島八丈町樫立1812-3 電話:04996・7・0788 営業時間:10時〜22時(入館は21時30分まで) 定休日:月曜 料金:300円 交通アクセス:バス停樫立温泉入口から徒歩約2分

八丈島は関ヶ原の合戦で敗れた宇喜多秀家が流されたのを最初に、幕末まで約1900人の流人を受け入れた。江戸時代に陣屋がおかれた大里地区には、流人が一日の糧を得るために、約1㎞離れた海岸から運び上げた玉石を積んだ玉石垣が残る。この玉石垣は暴風雨の多い八丈島の防風・防潮の役割を担い、さらに島の政治的中心としての威厳を示すものだった。今に残る美しい景観は、流人の過酷な暮らしを偲ばせる。

陣屋跡
大里14:56着 玉石垣が続き、遠く海上には八丈小島が聳える大里地区。玉石垣は、ひとつの石の周囲を6つの石が取り囲む六方積みという手法で築かれている。近くには伝統工法の民家や高床式倉庫などが保存されているふるさと村(無料)がある。●住所:東京都八丈島八丈町大賀郷1098-1 電話:04996・2・1377(八丈島観光協会) 交通アクセス:バス停大里からすぐ

明日葉を用いたチャーハン

夕食は島の居酒屋で料理と島焼酎に舌鼓を打ちたい。『瑚庵』は約20年前に都内から移住した日吉健さん(53歳)が開業。島の複数の漁港で水揚げされた鮮魚を巧みな技で供してくれる。
「赤ハタやスマガツオなどの魚は数日寝かせて旨味を引き出し、個性を際立たせます。お刺身の盛り合わせはもちろんですが、自家製の明日葉の佃煮を用いたチャーハンにも自信があります」

島焼酎は現存の4蔵と、蔵を閉じてしまった磯崎酒造のほか、青ヶ島の焼酎も揃える。飲み比べてお気に入りを見つけたい。

瑚庵
刺身盛り合わせ2780円、トビウオのレンコンはさみ揚げ680円、金目鯛のカマ塩焼き1080円。焼酎お試し3銘柄は1200円〜。●住所:東京都八丈島八丈町大賀郷2403-4 電話:04996・2・0965 営業時間:17時30分〜21時30分 定休日:月曜、木曜 予約推奨(yoyaku@goan8jo.com) 交通アクセス:八丈島空港から車で約5分
飲んだ後の締めにちょうどいい明日葉チャーハン860円は、島焼酎や醤油などで作った明日葉の佃煮入り。アラの味噌汁(2〜3人前)750円。

温泉から山と海の絶景に触れる

旅の2日目は、島南部の温泉が集中する中之郷地区へ向かう。

まずはバス停中田商店前で下車し、徒歩10分ほどの裏見ヶ滝の入口へ。木生シダ(ヘゴ)が密集する遊歩道を歩くと、やがてスダジイやタブノキなどが生い茂り森の密度が濃くなるのを感じる。

裏見ヶ滝は、亜熱帯の植物が茂る遊歩道を7分ほど歩くと見えてくる。遊歩道は階段状のところもあるので、歩きやすい靴で。

滝は三原山の南面を流れる三原川が水田用水路と交差するときにできたもの。滝の裏側から見ることができるために名付けられたが、昨年10月に襲来した台風22号の影響で、現在は裏側へは回れない。それでも爽快な水しぶきを全身で受け止めることができる。

この滝の近くにあるのが裏見ヶ滝温泉だ。川音が響く野趣あふれる温泉は、水着着用の無料の混浴風呂。岩の間から源泉が惜しみなく流れ、周囲の自然との一体感に魅了される。夏は海水浴帰りの客で賑わうという。

中田商店前10:01着 まるでジャングルの中で湯浴みをするような豪快な体験ができる。泉質はナトリウム─塩化物強塩泉。石鹸やシャンプーは使用できない。●住所:東京都八丈島八丈町中之郷1313 電話:04996・2・1377(八丈島観光協会) 営業時間:9時〜21時 定休日:無休 料金:無料 要水着着用。交通アクセス:バス停中田商店前から徒歩約10分

島民の生活に触れられる温泉

裏見ヶ滝温泉から藍ヶ江港方面へ下っていくと、中之郷温泉「やすらぎの湯」が見えてくる。

内湯のみのこぢんまりした施設の穴場的な存在だが、窓からは黒潮の海が見晴らせ、天気の良い日には青ヶ島も望める。泉質はナトリウム-塩化物泉。これまでに巡った多くの湯が、刺激の強い強塩温泉だっただけに、のんびりゆっくりと浸かることができる。

中之郷温泉「やすらぎの湯」
中田商店前 徒歩20分 窓の外には太陽の光を受けてきらめく水面が見え、海風が心地いい。よく温まる無色透明の温泉に浸かり、島民との会話も楽しみたい。●住所:東京都八丈島八丈町中之郷1442 電話:04996・7・0779 営業時間:10時〜21時(入館は20時30分まで) 定休日:木曜 料金:300円 交通アクセス:バス停中田商店前から徒歩約20分

島民の利用が多いため、生活感があふれる和やかな会話があちこちから聞こえる。島の穏やかな日常をとくに感じられる温泉だ。

さらに道を下ると、藍ヶ江港を見下ろすように位置する「足湯きらめき」がある。藍ヶ江港は湾内の海水が藍を流したように青いことから名付けられた。本来は漁港だったが、現在は釣りの名所、夏は海水浴場として人気である。藍ヶ江港の眺めは、八丈八景のひとつ「藍ヶ江落雁」に選ばれている。八丈八景は幕末に鹿島神宮の神職で流人の鹿島則文らが中国の「瀟湘八景」になぞらえて選定した島の名勝で、大坂トンネル展望台付近の「大坂夕照」、八丈富士の「西山暮雪」などがある。

足湯きらめき
中田商店前 徒歩20分 中之郷温泉「やすらぎの湯」と同じ源泉を利用する足湯。きらめきの名は藍ヶ江のキラキラした海のイメージから命名。10分ほど足を浸けると体がポカポカしてくる。●住所:東京都八丈島八丈町中之郷1523-14 電話:04996・2・1377(八丈島観光協会) 営業時間:11時〜17時 定休日:無休 料金:無料 交通アクセス:バス停中田商店前から徒歩約23分 

足湯に浸かり、果てしなく続く大海原を眺め、島の暮らしを余儀なくされた古の人々を追想する。そんな時を遡るようなひとときを与えてくれるのも、八丈島の大きな魅力のひとつだ。

羽田空港から飛行機で約55分。東京・竹芝桟橋から底土港または八重根港へ大型客船で約10時間20分。

取材・文/関屋淳子 撮影/藤田修平 写真協力/八丈島観光協会(「やすらぎの湯」)

※『サライ』2026年7月号より

7月号特集は『日本の原風景に出会う「離島」へ』

 

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