母猫が教えるハンティング能力
おそらく、どの調査も正しいのでしょう。人間にも住む地域や育った環境によって食べ物の好みがあるように、猫にだって好みはあります。そもそも野生の子猫は、母親からハンティングを教えてもらいます。最初、母親は死んだ餌(捕らえて殺した野ネズミや小鳥など)を持ってきて子猫に与えます。次に、息絶える前の状態の餌を持ってきて与えます。そして次に生きた状態の獲物を持って来て、子猫に模擬ハンティングをさせます。そうやって、段階的にハンティングを教えていくのです。
ハンティングの方法を教わると同時に、母猫が持ってきてくれる餌がその子猫にとっての“おふくろの味”ということになります。母親が鳥を捕まえるのが上手だったら、鳥を主に捕まえて持ってきてくれるので、子猫も鳥を食べて育ち、自分でも鳥を捕まえるようになります。食べ物の好みは、”おふくろの味”がなんなのかによって違ってくるというわけです。
猫だって毎日同じ食事はイヤ!
毎日3食、味噌汁とご飯と漬け物の食事を食べ続けていて、ある日ステーキを食べたとしたら、ステーキが魔法の国の食べ物みたいに思うかもしれません。私自身、子供の頃、はじめてハンバーガーを食べた時、「こんな美味しい食べ物がこの世にあるなんて!」と衝撃を受け、祖父に「おじいちゃん、近所にすっごく美味しい5つ星レストランができたんだよ!」と報告したほどです。でも、毎日ステーキやハンバーガーでいいかというと、そうでもなくて、やはり日本人は味噌汁とご飯よね、と思ったりもするわけです。
猫も同じで、珍しいものを食べたら、そのときは「美味しい!」と思うでしょうけれど、すぐに飽きてしまって、またいつもの食事に戻るといったことは往々にしてあるのかもしれません。
この連載記事に写真を提供してくれている北海道在住の「わさびちゃんち」(本文下に解説あり)の母さんも、猫たちの「これ飽きた~」にはいつも頭を抱えているとおっしゃっていました。現在、6匹の猫家族がいるわさびちゃんちでは、大袋でフードを買うことが多いのですが、数日間同じフードを与えていると、そのうち猫たちは「他にないの?」という顔をするそうです。「お願いだから、もうちょっとこれで我慢して~!」と思ってしまう母さんです。
特に偏食がちなのが、つゆちゃん。ちょっとだけ食べると、すぐに食べるのをやめてしまいます。体重もなかなか増えなくて、心配した母さんは、あの手この手でつゆちゃんに食べてもらおうと努力しました。つゆちゃんだけ隔離して食事の時間を設けてみたり、お気に入りのフードをあげたり。毎日同じフードは飽きてしまうというのはなんとなくわかるけど、こんなに気まぐれだと、飼い主さんにとっては悩ましいですね。
誕生日や家族になった記念日などに、ちょっとした贅沢をさせてあげるのも、愛猫を喜ばせることになるかと思います。でも、毎日脂肪分の多い贅沢なものばかりあげていたら、それはそれで健康が心配になってしまいます。猫も人間も、グルメはほどほどがちょうどいいのかもしれません。
《入交眞巳(いりまじり・まみ)さん プロフィール》
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。
《わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)》
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻、父さんと母さん。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。
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