文/柿川鮎子
万が一被災した時、ペットのために何が必要なのでしょうか。飼い主さんは普段からどう備えるべきでしょうか。いま改めて、おさらいしてみましょう。
ノア動物病院グループ院長の林文明先生の著書『愛犬を長生きさせる食事』(小学館)をもとに、犬と一緒の災害対策について、ご紹介します。
同書で林先生は、災害準備のために「住まいの安全確保」「同行避難の備え」「非常食の準備」の3つが犬の命を守ると書いています。
とくに「住まいの安全確保」では、人が室内で被災した際にケガをしないように備えることが、犬のためにもなるとしています。窓ガラスが割れて飛び散らないように専用シートを貼ったり、家具の転倒を防ぐ突っ張り棒や固定器具は、犬にとっても効果的な災害対策になりますね。
■同行避難で大切な予防接種としつけ
家が倒壊して避難所で生活する際、犬と一緒の同行避難を希望する場合、自治体によってはワクチン接種をしていない犬は避難施設に入れない決まりがあります。感染力の強い病気が蔓延しないために、また、自分の犬の命を守るためにもワクチンは定期的に摂取した方が良いでしょう。もちろん、犬の飼い主の義務である狂犬病予防接種は必須です。
もうひとつ、災害に備えて日ごろからマテとお座り、そして無駄吠えをしないしつけをしておきましょう。犬が吠えるのは習性だから止められないと思っている飼い主さんも多いのですが、無駄吠えはそれを許す飼い主さんの責任でもあります。
犬はたいへん知的で利口な生き物です。どうすれば自分にとって有利にはたらくか、瞬時に判断して行動します。吠えると自分のわがままを受け入れてくれると知っているから吠えるのです。吠えても何も変化がない、むしろ状況は自分にとって悪化すると犬が認識できるまで、飼い主さんが何回も繰り返し教え込むことが大切です。
「しつけができていない犬は周りに大きな迷惑をかけるので、白い目で見られて飼い主も犬も居づらくなります。犬の社会適合やしつけなどは、いざというときにも大切になってきます。こればかりはそのときに何とかできるものではないので、常日頃から訓練しておきます」と林先生はアドバイスしています。
■ケージやクレートに慣れさせておく
林先生は東日本大震災のボランティアとして気仙沼などのシェルターで活動されていました。飼い主とはぐれてしまったり、保護された犬たちのケガの治療などの健康管理などを行っていましたが、こうしたシェルターでは、特別な場合を除き、犬はケージやクレートの中で過ごさなければなりません。ケージに慣れていない犬はストレスが大きく、普段からケージやクレートに慣れておく必要性を感じたと同書に記しています。
ケージやクレートに閉じ込めたらかわいそう、そんな風に思う人もいるかもしれませんが、もともと犬は洞窟などの穴倉で生活していた生き物です。暗くて狭いところに寝ていたので、慣れれば犬にとってクレートやケージは安心できるねぐらとなります。最初は怖がるかもしれませんが、根気よく、ケージやクレートにいると落ち着けると理解できるように訓練しましょう。いざというとき、ケージの中にいてもストレスをためずに過ごせるようになります。
■水や非常食の用意は一週間をめやすに
同書の中で、災害用に必要なものとして林先生があげているのが、
□ ドッグフードと水
□ 薬や療法食
□ 名札やマイクロチップ
□ 移送用具
□ 写真や飼育メモ
です。
食べ物と薬に関してはだいたい一週間を目安に用意しておくことをすすめています。2011年の東日本大震災でも、一週間を過ぎると、最低限の物資は流通するようになりました。ただし、療法食は災害後1か月以上たたないと手に入らないことが多かったので、なるべく普段から多めにストックしておくようにしましょう。
その他、あれば便利な物としてリード、タオル、ペットシーツ、古新聞などを林先生はあげています。また、行方不明になった犬を探す場合、写真があると説明しやすいので、ぜひ被災用荷物の中に入れておいてください。
行方不明になった犬に関して、林先生は「阪神淡路大震災時に、マイクロチップを入れていた犬は、ほぼ100%飼い主のもとに帰ることができました」とその効果について書いています。
マイクロチップはその番号と飼い主の名前、住所、連絡先などのデータを「動物ID普及推進会議(AIPO)」のデータベースに登録してはじめて機能するものです。
最近、マイクロチップを入れただけで登録を忘れたり、引っ越して移転した住所に変えていないケースが見られます。正しく使われているかどうかの確認も、ぜひこの機会に行ってみてはいかがでしょうか。
【参考図書】
『愛犬を長生きさせる食事』
(林文明著、小学館)
監修/林文明
日本動物医療コンシェルジュ協会代表理事。ノア動物病院グループ院長。北里大学獣医学修士課程修了。獣医師として実践を積みながら、1998年にはアメリカ コロラド州立大付属獣医学教育病院に留学し、欧米の先進動物医療を学ぶ。現在は、山梨、東京、ベトナムで5つの動物病院を経営。24時間診療、猫専門病院、動物用CT導入による高度医療などの先進的取り組みを行っている。日本動物医療コンシェルジュ協会の代表理事として、ペットの健康と食事に関する食育指導をはじめ、しつけ関連の指導などに力を注いでいる。
■ノア動物病院:http://www.noah-vet.co.jp/
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。