夫のメンタル不調をきっかけに、お互いの役割に変化が起こる
夫の会社は新型コロナの影響で経営が傾き、人員を整理。そのしわ寄せが残った社員に降りかかった。会社に残った夫には様々な仕事を本人の意思に関係なく任されるようになり、その結果、メンタル不調に陥ってしまったという。
「リモートワークになったものの、週に1~2度は出勤して、疲弊して帰って来ていました。それにリモートのときもひっきりなしにかかってくる電話に追われていて、電話では何かの謝罪をしていることも多かった。そんな日々がしばらく続くと、夫は食欲がなくなり、顔にはクマがくっきりわかるようになりました。
そして、出勤時に体が震えて、吐き気もあってトイレから出てこなくなったんです。その後に病院に連れて行き、適応障害の診断を受けました」
そのときにひかりさんは夫の弱音を初めて聞いたという。夫の弱った姿を見て、心配する気持ちとともに嬉しさがあったと当時を振り返る。
「弱った夫に対して、自分のほうが優位に立てたという嬉しさと、頼られたことの嬉しさと、もちろんこのままだったらどうしようという心配する気持ちが入り混じっていました。でも、そこにざまあみろと夫を切り離してやるといった気持ちはなかったんです。私の中に夫に対する情があったことに気づきました」
夫は仕事を辞め、フリーランスとして自宅で仕事をすることを選択し、逆にひかりさんは正社員として就職し、週の半分は職場で仕事をしている。家事は分担するようになり、ようやく家族として機能するように。「一番嬉しいのは、子どもが夫に懐くようになったこと」とひかりさんは笑顔で言う。
ひかりさんの家族は妻として家事をやる、夫としてお金を稼ぐといったように役割が分かれていた。完全に役割を分けるのではなく、子どもの親としての役割や家族に安心を与える役割など、それぞれの役割に重なる部分がなければ家族として機能することは難しくなるのだ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。
