「美容に2千万円は使っている」
自己嫌悪になっても、鏡を見れば、容姿の自己ベストを維持している自分がいる安心感。初対面の人から「もっと若い年齢だと思った」「美しい」と言われるのは、心を満たしたという。
「見た目は、自分の内面が表に出たものなのです。最も自分を表現する看板のようなもの。これは、家具やジュエリーのバイヤーとして、フリーランスの仕事をしてきたからだと思います。外見をきれいにしていると、いい仕事との出会いがある」
更年期で最も辛かったことは、体調の悪さもあったが「勝手に自己嫌悪になること」だったという。
「SNSで友達の食事会に呼ばれないことがわかったり、友人が私をすっ飛ばして私が紹介した人と会っている様子を見ると“嫌われたかな。何かしちゃったな”と悩む。そして、猛烈な怒りが湧いてきて、怒りのメールをしてしまう。その後にまた自己嫌悪になるという悪循環の中で数年過ごしました」
それを少しだけ救ってくれたのが美容外科の施術だった。無痛と謳っているが、実際は顔に針を刺したり、レーザーで焼いたりするのだ。それには当然、痛みを伴う。
「当時、メンタルも揺らいでいたので、“この痛みはあんなことをした私が受ける正当な罰だ。我慢すれば、きれいになれる。頑張れ私!”と励ましながら、施術を受けていました。皮膚の下に特殊な糸を埋め込む糸リフトも、ずいぶん早くから施術を受けていました。麻酔をすると言っても、顔は効きにくい。施術中も終わっても痛いんですよ。今は数年前に比べ、ずいぶん楽になりました」
由紀代さんは、美容は好きだが、依存ではないという。
「私の知り合いには、常にダウンタイム(施術後のダメージを回復する期間)という人もいます。私と彼女たちとの違いは、自分の顔が好きかどうか。私は、私の顔が大好きで、顔を変えたくない。だから、いい感じに美容と付き合えているのかもしれません。これまで使ったお金は、2千万円くらいかな? 子供を育てると思えば、安いもの」
今、世間の美容感が“その人らしく”という風潮になっていった。2000年代まではマスメディアが美意識を牽引していたが、今はBodyPositivity(ボディポジティビティ・均整の取れた顔や体が理想といった画一的な美の基準から脱却し、自分の体を愛すること)やグレイヘア(白髪を染めないこと)などが定着している。
とはいえ、健康的で若々しいことは、美しいとされる価値観が残っているようにも感じる人は多いはずだ。老いとともに起こる“揺らぎ”とどう付き合うか、それは私たちに委ねられている。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。
