10年間、恋愛するかしないか揺らいだまま
典子さんは同世代の男性と恋をして、尊敬し、いたわりあう関係を求めている。しかし、40代後半から50代前半の男性の多くは結婚している。さらに、彼らは“女らしい外見”かどうかを重視する。
「私は『ベルサイユのばら』の主人公・オスカルへの憧れと、自分の美意識もあり、男に媚びるような格好をしたくないんです。ショートカットでパンツスーツが好きだし、それが似合うようにジムにも行っていますしね。このままの私を受け入れてくれる人が欲しいと思っていた48歳のときに、別の同級生から食事に誘われました」
その男性は、東京で起業し成功している。高校の後輩である妻と別居していることもわかっていた。
「彼は昔からモテており、サシで女性と会わない人。ただ、私とは時々飲みに行き、私を好きなようなそぶりもしていた。当日、すごくワクワクしながら待ち合わせ場所に行ったら、安い居酒屋に入るんです。そして私に“付き合っている30歳の社員が妊娠した。カミさんが離婚に応じてくれない。相談に乗ってくれないか”と言うんですよ。私が企業間のトラブルや賠償などの経験が豊富だから、声をかけたんでしょうね」
彼は相談もそこそこに、30歳の彼女の魅力を語った。彼は「女っぽい女が苦手だ」と言ったので、典子さんは「じゃ、私ともする?」と言ってみた。「絶対無理でしょ(笑)。お前は女じゃないし、大事な友人だし」と返ってきた。
「一世一代の下ネタがスルーされました。そのあと、中高年向けの結婚相談所に行ったら、“女らしくない!”と相談員の人からダメ出しをされて落ち込み、友達に相談したら“頑張りな”と流され……。仕事でもSNSの仲間でも出会いは多いのに、恋愛まで進まない。切実ではないけれど、恋愛問題はこの10年間揺らいだまま」
そんな典子さんには、今、気になる人がいる。相手は同じ年齢で消防士をしているという。
「森林保全のボランティアで会う人なのですが、背が高く筋肉質で男らしくてかっこいい。今のところ遠くから見ているだけです。もしかしたら、恋愛に発展するかもしれない。彼に出会ってから、恋愛の可能性について考える“ゆらぎ”の扉が閉まりかけたというか、彼の近くにいられればいいと思うようになったんです」
時々、「このままではいいのか」と揺らぐこともあるが、以前に比べて気持ちが安定しており、幸せだという。典子さんたちの世代は、性別や社会的立場で判断される時代を生きてきた。その常識の中には「恋愛は若い頃に経験するもの」という項目も含まれているだろう。そこをどう乗り越えていくのか、その答えを決めるのは、自分だけではなく、相手の中にもある。それが恋愛の厳しさであり、奥深さなのだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。
