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2011年3月11日に発生した東日本大震災から、14年目を迎えた。この未曾有の災害がもたらした、悲しみや苦しみ、心の傷は今も癒えることはない。

康太さん(64歳)も「当時、東北支社に勤務しており、東日本大震災に遭いました。あの経験で、僕の生き方の根幹のようなものが変わった」という。康太さんは定年退職後、小学生や親世代に向け防災意識を高めるボランティア活動を手伝っている。前編では、震災から数日後の体験を紹介している。

【これまでの経緯は前編で】

仕事を続けながら、誰かの力になるために奔走する

東日本大震災発生時、不動産関連会社の東北支社に勤務していた康太さんは、当時50歳。妻子を東京に残し、単身赴任していた。当時住んでいたマンションの被害は少なかった。

「3月11日から、被災した社員や家族のサポートに奔走し、震災後の初帰宅は3月14日でした。ホワイトデーだったから覚えています。僕が借りていたマンションは、築年数が浅く、1階で極端に物が少なかったので、本棚が倒れたくらいの被害でした。ただ、本棚は僕のベットの頭部に当たる部分を直撃していた。就寝時に地震が発生していたら、命が危なかった。被災から数日間、何百回も“生かされている”と思いましたが、家に帰ってきて、改めて思いました」

電気が復旧していたのでテレビをつけると、原発のニュースばかりが報道されていた。

「現地にいると、津波の被害や、どこで何が売っているかなどが気になるのに、そういう情報はどこもやっていない。石油コンビナートが燃えていることとか、不安を煽るような報道ばかりでした。すぐにテレビを消して、音楽をかけようとしたけれど、元気がいいポップスや派手なロックンロールしかない。心身が疲弊し切っていると、讃美歌とかゆったりとしたピアノ曲を求めるんですよ。当時、全くそっちの知識がなくて、よくわからないまま検索しヒットしたのがベートベンのピアノソナタ第8番『悲愴』の第二楽章。こればかり聞いていました」

康太さんは2011年以来、それまで好きだったロックをほとんど聞かなくなってしまったという。

「多分、ものすごく傷つき、疲れたからだと思います。何度も言いますけれども“生かされた”というか“生かされてしまった”という思いが強い。震災から5年くらい、楽しむことや喜ぶことに対しての罪悪感が激しく、妻に内緒で心療内科に通ったこともあったんです。そのくらい、激しい経験でした」

震災後の仕事は順調だったという。勤務していた住宅関連会社には、依頼や相談が増えていった。

「震災のときに、家はとても大切なのだけれど、その地域の繋がりや、近隣者の助け合いを作ることも必要だと感じました。被災した社員の中には、三世代同居も多かった。親族でまとまっている人の強さに触れたんです。核家族で生まれ育った僕は、それが羨ましかった」

康太さんは平日に仕事をし、土日は復旧作業を手伝う活動に没頭したという。

「津波の被害を受けた家の泥や砂の撤去。住宅内のガラス撤去、避難所の方の話の傾聴、駆けつけたボランティアの人たちへの仕事の割り振りなど、頼まれたことはなんでもやりました。ただ、この当時の記憶はあまりないんです」

生かされてしまったから、誰かのために奔走したい、何かをやらなければならないという使命感が原動力だった。疲れた体を引きずって帰宅すると、コップ1杯の焼酎を一気飲みし、『悲愴』の第二楽章を聞きながら眠る。

「4月末に東京―仙台間の新幹線が復旧し、久しぶりに東京本社に行ったんです。相変わらず猛スピードでビジネスが流れていて、僕のふるさとはここなんだと思ったことを覚えています。僕も妻も東京23区内で生まれ育ち、お互い実家から出ないまま結婚し、妻の実家の近くに家を買いましたからね」

【街のコニュニティ、シェアハウス事業の立ち上げメンバーになる……次のページに続きます】

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