「甘やかしてもらって、当たり前」
康平さんには離婚歴がある。28歳の時に3歳年下の女性と結婚したが、40歳の時に離婚している。
「妻はどうしても子供が欲しかったと言っていました。僕は無理することはないと思っていたので、すれ違った。妻は僕と離婚後に10歳年下の男性と結婚し、2人の子供を産んだと聞いています。妻から“あんたが子供だったのよ。甘やかしてもらって当たり前という態度についていけない”と言われ、妙に納得してしまった」
康平さんは社交的なので、ワインやギターなど趣味のサークルで知り合った女性とデートを重ねるようになる。
「でも、40歳から結婚となると、色々めんどくさい。一人で自由になったのに、また一から結婚生活の構築を始めるのかと思うと、うんざりしちゃって。あの時、結婚まで行きかけた女性がいたのですが、勢いで一緒になってしまえばよかった」
60歳で定年となった後は、「自由で楽しいけれど、何かを消費しているだけ」だと語る。
「仕事をしている時は、旅行をしても映画を観ても“これを仕事に使おう”というヒントが得られました。食事会で誰かが気の利いた受け答えをしたことを営業トークに生かし、受注したことも。経験が仕事に応用できるという楽しみが、定年後にはない」
そして、40年のキャリアで築いた知識や経験はどんどん錆びついていく。
「建築資材メーカーで、僕は買い付けから海外の取引先との契約調整などあらゆる業務をやっていました。それほど大きな会社ではなかったので、仕入れしながら営業し、仕事のために身につけた英語もわからなくなる。自分の能力が風化していくのは、侘しいものですよ」
康平さんは、2007年からSNSを積極的に始めており、年齢を問わず多くの友人知人がいる。
「町中華で飲む会、コの字型カウンター居酒屋で飲む会、遊郭に泊まる旅行など、同好の士が男女問わず集まって、ワイワイと出かける。そういうことが楽しかったんですよ。定年後は、そういう活動に心置きなく参加していました。そんな交流の中で出会った30代の男性と知り合ったのです。彼は“康平さん、一緒に事業を起こしませんか”と話を持ちかけてきた。2年前の私は、もう一度自分で仕事をしたい、父のような事業家になりたいと焦っていたこともあり、それに乗ってしまった。被害額は500万円。詐欺ではないと思いますが、勉強代と言うには大きな額です」
SNSは共通の知人が可視化される。その男性は、著名な酒の専門家がプライベートで開催する試飲会で出会ったという。
「そこに行けるだけでも、信頼があるということ。だからころっと信じてしまった。後で聞いたら、そいつはメンバーのキャンセル代打だったんです。予約困難店やお酒の会は、キャンセルと遅刻をしてしまうと2度とそこに誘われなくなる。そこで代打を派遣して、自分の代わりに楽しんでもらう。代打に次回の予約を入れてもらったり、メンバー同士の人間関係を維持してもらったりするのです」
代打として選ばれるにも、社交的で空気が読め、経済力がある人物でなければならない。
「その男が、まさにそういう人物像。シュッとしていて、おしゃれで人当たりがよく野心も感じられた。名門私立大学を卒業しており、SNSのアカウントを見ると、共通の知人が38人もいた。運命を感じたのです」
【SNSの人間関係は薄い。共通の知人は誰でも友達になる“なんちゃって有名人”だった……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。