息子が勤務していた飲食店から、100万円を請求され支払った
そこまで彰人さんが息子を憎々しげに語るには、直近に“やらかされた”からだという。
「息子が勤務していた飲食店のオーナーから連絡があって、“オタクの息子さん、ホントにやらかしてくれたんですけどね。オタクはお嬢さんもいますよね”と連絡が来た。聞けば、ヤバい飲食店で働いており、そこの売り上げを持ち逃げしたのだという」
オーナーはすぐに家に来て、息子がいかにヤバいことをしたかという証拠を突き付けてきた。
「会社貸与のパソコンのメールとその内容のすべてをけして、音信不通になった。息子が持ち逃げしたのは200万円。オーナーは100万円で落とし前をつけてくれるという。息子ならそのくらいはするし、息子のことは全く信じられないので、それは払いましたよ」
引きこもりになってくれた方が、楽だったのではないか。
「まさにそう。人と関わると、余計ないざこざを生む。息子は見栄っ張りで弱く、コンプレックスを抱えている。だから、実力以上に自分を大きく見せて自滅する。人間関係がそこまで深くなければ、ここまで悪くなることもなかったと思うんです」
彰人さんも妻も、思慮深く賢い。なぜ息子だけがそうなってしまったのか。
「それは妻が甘やかしたからだと思うんです。私が厳しく育てていれば、こんなことにはならなかった。息子とはこの1カ月間音信不通です。ここまで迷惑をかけられても、彼のことを心配してしまう。ホントに親と言うのは因果な商売だと思います」
彰人さんの老後資金は枯渇しているという。
「だから働き始めました。この私が、駅の清掃をしているんです。働くと収入はバカにならず、向こう10年くらいは大丈夫だと思っていますが、息子が何かやらかしたらアウト。毎日が綱渡りです。公務員になれば、安定した老後があると思っていたら、それは幻想だった。もう腹を括って、金が亡くなったら死ぬしかないと考えています。今更だけど、僕は村いちばんの神童だった。それなのに駄馬を生み育て、この年になって人生が真っ暗になっている。どこに落とし穴があるかわからないですよね」
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。