被災地で初めて知った「私も性の対象になること」

親たちがどのような行動をとっていたのかは知らないが、同じマンションの住人同士が集まり、見回りをすることもあったという。恭子さんは痴漢をされたことで「自分も性の対象になるんだ」と初めて認識することになる。

「当時の私はガリガリで、まったく女性らしい体つきもしていなかったこともあって、自分のことはまだ子どもだと思っていたし、まさか父親ぐらいの年齢の人から性の対象になるなんて思ってもいませんでした。その事実がなぜかショックで、痴漢に遭ったことは親にも言えませんでした。なんで言えなかったんでしょうか。悪いことをされた側なのに、自分もその一員になって悪いことをしてしまったと思ったのかもしれません」

しかし、「自分も女性として見られていると思うと、新たな恐怖もあったが自衛にもつながった」と振り返る。

「その後に自分の周りを意識してみると、避難所のトイレ近くにずっといるおじさんが目につくようになったり、いきなり馴れ馴れしく話しかけてくる大人に違和感を持つようになりましたね」

恭子さんは後にPTSDと診断を受けるが、被災直後から暗闇の中で眠れなくなるなど多数の症状があり、今もその状態が続いている。それでも穏やかに暮らせているのは当時の親の影響が大きいという。

「中学2年生で、当時は一人部屋を与えてもらって一人で寝ていたのに、しばらく一人で眠れなくなってしまって……。たとえ震度1の小さな揺れでも汗や動悸が止まらなくなりました。そんなときに落ち着く方法は自分以外の人の存在を感じることでした。だから、実は高校卒業まで母親と寝ていたんです。母親は暗闇で寝る人だったのに、私に合わせて電気をつけた状態で一緒に寝てくれていました。親からは『大丈夫1人じゃない』『絶対に親が助けてくれる』という安心感をずっともらっていました」

被災地の性被害がまったく報道されていないことは後に問題として取り上げられることはあるが、そのときに報道されていなければ自衛にはつながらない。災害が頻繁に起こる中、その現場で何が起こっているのか、報道されていないことに違和感を覚えた。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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