チャールズ３世国王と、ジェームズ・ボンドのスーツに共通する仕様とは【英国紳士の基礎知識】

ナポレオンがジャケットの袖ボタンをつけた!?

ジャケットの袖ボタンは、かのナポレオン・ボナパルトがつけさせたという定説があります。
1812年、ナポレオンがロシア帝国を侵攻した際、極寒の山中を越える際、兵隊達が鼻水をジャケットの袖で拭いていたそうです。軍服の袖が鼻水で汚れていた為ナポレオンが袖で鼻を拭けないように金属ボタンをつけたのが始まりといわれています。
真意の程はわかりませんが、スーツが軍服由来であることを表す逸話です。
さて、このボタンですが、英国では数にも意味があります。
英国陸軍といえば、大きな帽子をかぶった赤い軍服の近衛師団の歩兵連隊がよく知られています。あの軍服、どれも同じように見えていますが、軍服規定によりボタンの配列が決められているのです。

・グレナディアガーズ（近衛歩兵第一連隊）
1850年代に行われた陸軍の服装改訂の際にグレナディアガーズの上着の前ボタンは等間隔に８個、袖ボタンは等間隔に４個ですと決められています。

・コールドストリームガーズ
ピューリタン革命後1650年に創設した部隊で、継続して任務に就いている部隊としては世界最古です。この部隊は、上着の前ボタンが２個ずつ４組で計８個、袖ボタンは２個ずつ２組で計４個と決められています。

まだまだありますよ。「スコッツガーズ」（スコットランド）は正装の上着の前ボタンは３個ずつ３組で計９個、袖ボタンは等間隔に３個です。「アイリッシュガーズ」（北アイルランド）の正装の上着の前ボタンは４個ずつ２組で計８個、袖ボタンは等間隔に4個です。そして「ウェルシュガーズ」（ウエールズ）の正装の上着の前ボタンは５個ずつ２組で計10個、袖ボタンは等間隔に５個です。

英国のアッパークラスの人々は、ジャケットの袖ボタンを「近衛師団の歩兵連隊」を踏まえて誂えています。
私は２on２の袖ボタンのスーツを着用することが多いのですが、それを着ていると「君はイングランドが好きなんだね」と会話が始まることもあるんです。スパイの暗号のようで、面白いですね。

自分の好きな国、好きなサッカーチームの本拠地などで、袖ボタンの配列をオーダーするのもいいですね。この「自分だけのこだわり」を表現できるのも、スーツの魅力です。

●Sloane Ranger Tokyo　オーナー　大西　慎哉

1965年生まれ　大学卒業後、レナウンに入社し、「アクアスキュータム」など英国ブランドを担当。2007年から「ハケットロンドン」日本支社立ち上げに参画。2020年に退社後、 テーラーサロン「Sloane Ranger Tokyo」を立ち上げる。 アパレル業界歴30年のファッション通で、「おしゃれ番長」の異名をとる。
Sloane Ranger Tokyo　オーダースーツの他、20世紀初頭から現代までのヴィンテージスーツや英国の軍服、トップブランドのヴィンテージアイテムも扱う。紳士服の博物館的な要素も。展示品は購入もでき、ファッションアドバイスも行う。

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