親が子どもに接するとき、「怒ってはいけない」と思っても、つい感情的に怒鳴ってしまうことがあるものです。こういった行動の背景には、親自身に原因があることがあります。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『怒鳴り親 止まらない怒りの原因としずめ方』から、親自身が自分でできるアンガーコントロールと、怒鳴らない子育ての知恵をご紹介します。
文/土井髙德
発達の凸凹の悩みを1人で抱え込まない
親子間のトラブルは子どもの「発達」の節目で起こりやすいものですが、もうひとつ忘れてはいけないのは、子どもが「発達の偏り、遅れ、歪み」を有している場合、いわゆる「発達の凸凹ちゃん」である場合です。
たとえば、小さい頃からまったく視線が合わない。抱っこをするとのけぞって嫌がる。外出すると一気に駆け出して姿が見えなくなる……。「発達の凸凹」が親にとって「育てにくい要因」となり、うまく親子関係を育めない場合が多々あります。
子どもの反応は育児の報酬です。しかし、「発達の凸凹」によって育てにくさばかりを感じる場合、育児の報酬がないどころか負債を抱えるような苦痛を感じるでしょう。いくら注意しても意図が伝わらないため、つい大声をあげた、手をあげてしまった、という結果になってしまうのは目に見えています。
「発達の凸凹」について理解し、その指導方法を学ぶと、定型発達の子どものしつけや指導も楽になります。発達障害の子どもにとって過ごしやすい環境づくり「ユニバーサルデザイン」に基づいた取り組みは、すでに公共施設に広く取り入れられています。発達の凸凹の有無に関係なく誰もが暮らしやすく、生きやすくなるような発想を、子育てにも取り入れていきたいものです。
大事なのは、親身になって話を聞いてくれる人の存在
わが子の「発達の凸凹」とうまく向き合えず、つい怒鳴ってしまう。この悩みを1人で抱え込んで追い詰められる人が年々増えているように感じます。孤立は人を追い込んでいく現代の病です。どうしたらいいかわからなくなったとき、耳を傾ける人がいるだけでも、どれだけ救いになることでしょうか。事態の解決よりも、まず大事なのは、親身になって話を聞いてくれる人の存在。困難に立ち向かう勇気を与えてくれるはずです。
私は「発達の凸凹」を抱えている子どもの親御さんのもとに出かけるとき、いつもこう声をかけています。「お母さん、ご苦労が多かったでしょ」と。そして、たとえば「お預かりしたお子さんと接していると、言葉は流ちょうに話しますが、言葉を表面的に受け止めて、文脈や行間、背後の意味を考えない、『コミュニケーションの質的な障害』を有しているように感じました。いろいろお困りがあったのではないですか」と、具体的に子どもの特徴に話を向けます。すると、ほとんどのお母さんは「初めてそう言ってくれる人がいた」とホッとした顔をなさいます。こうして波長を合わせてくれる人に話を聞いてもらうだけで、気持ちは穏やかになります。
じっと聞いてくれるだけでいいのです。そして一言。「応援していますよ」「見守っていますよ」「大丈夫、心配ないですよ」。このように傾聴し、寄り添ってくれる人の存在は何よりの財産です。日頃からそうした財産を育てましょう。信頼関係という利息があなたの人生をより豊かにしてくれます。
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『怒鳴り親 止まらない怒りの原因としずめ方』(土井髙德 著)
小学館 9月29日発売
土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。一般社団法人おかえり基金理事長。学術博士。福岡県青少年課講師、産業医科大学治験審査委員。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。実家庭や児童福祉施設で「養育困難」と判断された子どもたちとともに暮らし、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。その活動はNHK「九州沖縄インサイド」、「福祉ネットワーク」、「クローズアップ現代」で特集されたほか、テレビ東京、読売新聞、西日本新聞などで紹介されるなど全国的に注目を集めている。ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞、福岡キワニスクラブから第24回キワニス社会公益賞、北九州市表彰(社会福祉功労)を受賞。著書に『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(小学館新書)など。