「小枝にちょこんととまるつぶらな瞳のめんふくろうに見つめられてキュンとなってしまいました」(20代女性)、「みどりの河童に思わず釘付けになりました。これどうなってるの?」(30代女性)、「猫がリアル! かわいい~」(30代女性)
などなど、かわいさが絶賛されているのが、「おにぎり劇場」さんが作るおにぎりたちだ。猫や河童のみならず、ろくろ首や秋刀魚の塩焼き、はたまた坂本龍馬……そう、ぜ~んぶ炊いたお米でできた本物のおにぎりなのだ。
美術講師を経て、現在は独創的な作品を手掛けるアーティストとして活動する作者のおにぎり劇場さん。初となる著書『OH!ざわつくおにぎり』が刊行された。タイトル通り、発売前からおにぎり劇場さんの作品は世間をざわつかせている。
バタートーストなのに甘くない!?
使用するお米は、自身が住む三重県のブランド米「伊賀米」で、試食係は高校生の息子さんだ。
「試食係といっても、学校帰りなんかに私がおにぎりを作っているのを見て、ちょっと食べては辛口コメントを残して去っていく、みたいな感じです」
息子さんのコメントはなかなか核心をついていることが多く、参考になるというおにぎり劇場さんだが、一番多い息子からのクレーム? は、見た目と味のギャップが半端ないということ。
例えば、あんバタートーストのような見た目のおにぎり。決して甘くなく、あんこの代わりのあさりしぐれが、パンではなくごはんの具として最高においしいおにぎりなのだが、見た目からは甘いものを連想してしまうというのだ。
確かに、なんでこんなおにぎりを作ったのか、謎が多い。
そもそも、こんな不思議なおにぎりアートを作り出すおにぎり劇場さんにとって、おにぎりとはなんなのだろうか。
「おにぎりは私にとって、笑顔を生み出すもの、かな? おにぎりはどんなものでも美味しくて、腹ペコも味覚も満たしてくれて自然と笑顔になります」
家族をはじめ、見た人が「OH!」と驚くようなおにぎりを作るよう心掛けているというおにぎり劇場さんだが、本人にとってはおにぎり作りは挑戦であり、自分との闘いでもあるという。
「まず作ろうとするモチーフに向き合い、それを形にするという挑戦、自分との闘いがあります。それを乗り越え完成した時の喜びと安堵感とそのあとのみんなの反応を想像して吉とでるか凶とでるか、などと思いに耽ったりします。おにぎりを世に出すと、想定外な沢山の方からメッセージを受け取ったり海外へも届いたりします。メッセージからクスッとしていただけていることが伝わると私も嬉しくなります」
反応がいいと、頑張って良かったと、おにぎり劇場さん自身も大きな幸せを感じることができ、笑顔になれるという。
実際、初となる著書『OH!ざわつくおにぎり』のタイトル通り、世間はおにぎり劇場さんの不思議なおにぎりにざわつき、二度見し、最後には笑顔になっているようだ。
おにぎり劇場さんがツイッターとインスタグラムでとったおにぎりタイプ別のアンケートによると、以下のような結果が出ている。
【かわいいベスト3】 メンフクロウ、箒をもったネコ(ハロウィン仕様)、コアラ
【面白いベスト3】 ソースカツ丼、露天風呂、河童
【似ている歴史的人物ベスト3】 武田信玄、織田信長、坂本龍馬
いずれにしても、甲乙つけがたくかわいかったり、似ていたり、面白かったりする。不思議なおにぎりたちが、SNSで話題と笑顔の中心になっていく様子を見ていると、おにぎり劇場さんの作品が果たす役割は案外大きいのかもしれないと思えてくる。
で、このおにぎりはアートなのかグルメなのか? 担当編集者がいう。
「具材はすべて食べておいしいものをチョイス。例えば黒ゴマや鰹節、佃煮、鮭など、おにぎりの具としてなんの違和感もないものばかりです。作った作品は全部家族でおいしくいただいているそうです。ですから一見アートに見えてグルメ。おいしいアートなんです。子どものころワクワクしたお菓子でできたおうちのおにぎりバージョンですね」
かわいくってキュンとしたり、爆笑したり、うなったり。いろんな気持ちで楽しめるおにぎりワールドは意外に奥が深いようだ。
【プロフィール】
おにぎり劇場
美術講師を経て、現在はフリーのアーティストとして活動。おにぎり劇場の名では本書が初の著書となる。おにぎり以外にも多彩なアート作品を生み出しているがここではナイショ。本書内のイラストも手掛けている。ときどき試食係兼母のおにぎり評論家の高校生の息子にディスられながら、日々、個性的なおにぎり作りに邁進。愛用のお米は伊賀米。