夫の過去の浮気についても広められた
美子さんはそのサークルの中で、和子さんとその家族にまつわる根も葉もないうわさを広めた。
「私が卒業対策費用をネコババした、息子が万引きの常習だったという事実無根のことから、私がかつて美子さんに相談していた夫の浮気話についてまで。あの口調でリアリティをもって何度も話すから、周囲の人は信用してしまうんです。私はそれに全く気付かなかった。美子さんは私の悪口を言いふらしながらも、私の前では“和子さんだけが私のことをわかってくれる”とか“私のことを見捨てないでね”などと言っていた。それでつい、義両親の借金や介護の不平等で夫に対してモヤモヤを抱えていることを話してしまった。それを拡大してみんなに吹聴する……その繰り返しだったのです」
美子さんがそこまで話せば、さすがに参加者の態度も変わり、和子さん夫妻は「周囲の人が冷たい」と気付くようになる。
「その頃は後の祭り。私たちは金と女性に汚い一家という烙印を押されて、無視をする人も現れた。以前の私なら、それでも食い下がって付き合っていたと思いますが、仕事をしているとそういう空気が生まれたら、身を引くしかないことがわかっている。夫も同じ意見でした。しかし夫は“俺の話のネタ元はお前だよな”などと言い、それまでうまくいっていた夫婦関係がぎくしゃくし始めたんです」
それから、夫婦で相談して引っ越すことにしたという。噂の渦中にいるのも嫌だし、地元の集まりやイベントを見るたびに嫌な思い出が蘇る。それなら残された時間を別の街で過ごそうと決心した。
「思い出あふれる家を離れるのは辛いですが、仕方ありません。一連のストレスで円形脱毛症ができましたもの。不幸中の幸いだったのは、持ち家が高く売れたこと。私は不動産業界にいますが、なかなかここまで高くは売れない。そしてそのお金で都心のマンションを購入。夫は相変わらずムスッとしていますが、バリアフリーで最新設備の快適な環境で、彼の郷里に向かうアクセスもよくなり、ホッとしていることも伝わってきた。辛かったのは、息子に“実家がなくなる”と言われたことですが、これで良しとするしかない」
和子さんをそこまで追い込んだ美子さん。和子さんは「お互いに依存していたのではないか」と思っている。
「私と彼女が出会ったのは、夫に生活のすべてを委ねる専業主婦時代でした。小舟で大海を渡るような日々、励まし合う仲間は依存関係になりやすいですよね。私はそこから抜け、息子も“まとも”に育ったけれど、美子さんがそうはいかなかった。そういう思いのはけ口はぶつける場所がない。そこにたまたま私がいたんでしょうね」
孤独を癒し、人生を伴走する友人。友情が”病”になることを予防するには、適度な距離感が不可欠なのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。