取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

* * *

年齢を重ねた女性の友情の歪み……和子さん(64歳)は、最近、30年来のママ友・美子さん(65歳)と絶縁した。ママ友の言動により、住み慣れた我が家も引っ越さねばならず、夫との関係もぎくしゃくしているという。

【これまでの経緯は前編で】

夫が定年になり、かつてのママ友や近所の人と密接になった

和子さんが13年間も親しくしていた美子さんと疎遠になったのは、48歳から現在までの約15年間。きっかけは、息子の進学先に優劣が生まれたからだ。

「それに、私自身が45歳のときに宅地建物取引士の資格をとって働き始めてから、仕事で魅力的な人に会うようになって、それまで憧れていた美子さんを“退屈な人”と思うようになったこともあると思います。“女の友情はハムより薄い”と言われていますが、今ではその意味が分かります。やはり、環境が違う人とは友人関係を築くことが難しい。同じような人生を歩んでいない人に共感されても、感覚がズレるんですよね」

美子さんと疎遠になってから、夫との仲が徐々に良好になっていった。

「仕事を介して互いの考えがわかるようになった。夫に新人育成の相談をしたり、夫からは不動産業界の構造について聞かれるようになりました。30~40代は浮気を何度かしていた夫も、老いて落ち着いていい感じになりました。夫は2年前に65歳で定年を迎え、地元の人間関係にボチボチ参加するようになったんです」

それはコロナ禍とかぶっている。オンラインから対面に変わり、美子さんとの再会も果たした。

「夫が参加している地元活性化の集まりに美子さんがいたのです。夫が会合に参加すると、美子さんが“もしかして、和子さんのご主人ですか? 私、奥様にはお世話になりまして、またお会いしたいです”と言ってきた。私もその言葉に嬉しくなって再会し、“あなたとお会いしていないこの15年間、寂しかったわ”と言ってきた。めっきり老けたとはいえ、美貌と気品が溢れる彼女にそういわれるのはうれしかった」

それから、何度か会った。互いの息子は結婚して独立している。

「でもこの15年間で、ずいぶん悪口を言う人になっていると思いました。“あの会の佐藤さんはゴテゴテのネイルをしていて下品よね。鈴木さんが派手な服を着ているのは夫婦仲が悪いから。あなたのご主人も狙われるかもしれないわね”って。私は肯定も否定もしなかったのですが、あるとき、その悪口を“私が言っていた”ということで、広まって行ったんです」

息子が名門大学に進学した嫉妬があった……次のページへ続きます】

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