取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
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子供の幼稚園で知り合ったママ友との30年間
和子さん(64歳)は、最近、あるママ友と絶縁した。ママ友の言動により、住み慣れた我が家も引っ越さねばならず、夫との関係もぎくしゃくしている。一体どんなことがあったのだろうか。
「問題の発端となったママ友・美子さん(65歳)とは、息子の幼稚園で知り合いました。当時、PTA役員として卒園対策委員会に属しており、卒園を祝う会や記念品、アルバムの仕様について密接に話し合う機会が多く、自然に仲良くなっていったのです」
その幼稚園は中流以上の家庭の子弟が通うミッション系の名門。夫の収入が高く、多くが専業主婦だった。
「当時、夫は仕事人間で、子育てのことを話しても“お前に任せている”とか、息子の身長が思うように伸びないことや、リズム感が悪いことなどを相談しても“医師に聞け。俺に聞かれてもわからない”などと言われ、毎日孤独を感じていました。しかし、役員になって他のお母さんたちとそういう悩みをぽつりぽつりと話すようになると、“わかるわ、心配よね”などと共感してもらえた。仲間がいるというのは心強く、その中でも他のママよりも出産が少し遅かった美子さんとは気が合いました。互いに心の奧を開いて、語り合ってくれる実感がありました」
ママ友というのは、子供を介した期間限定の関係で、卒業したら疎遠になるのがほとんどだ。
「でも美子さんはそうならなかった。美子さんの息子は公立小学校に進学したウチの子と違い優秀だったんです。名門大学付属の小学校に合格しましたし、利発で優しくて“令息”という感じでした。美子さんも華族の血を引くという噂通りの優しく優雅な女性で、卒業してからも、家が近かったこともあり、月に1回くらい会っていました」
和子さんと美子さんの息子が小学校を卒業するまでの6年間は互いの人生の激動期だった。
「私が35歳から41歳までの間はいろいろありました。夫の浮気、私の病気、息子の中学受験、親の借金問題、義両親の離婚……その都度、美子さんに応援してもらった気がします。特に夫の浮気の時は離婚も考えたのですが、“和子さん、ここは辛抱よ”と言ってくれたから、こらえることができました」
【関係が変わったのは我が子が名門大学に合格したこと……次のページに続きます】