文/印南敦史

『在宅ひとり死のススメ』(上野千鶴子 著、文春新書)の著者といえば、ベストセラーとなった『おひとりさまの老後』で有名。それは「おひとりさま」シリーズとなって、より広く認知されることになった。

なお近年には、『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版、2015年/朝日文庫、2019年)が出版されている。一般的に考えて、「最期」とくればその先はないことになるだろう。

ところが72歳となったいま、「まだ死にそうな気はしない」のだという。そもそも生きているあいだのことにしか関心がないため、「終活」などにも興味がないのだそうだ。

そうでなくとも現代においては、もはや“百歳越え”の長寿者など珍しくなくなっている。すなわち多くの人が、かなりの高確率で長生きする可能性があるわけだ。だとすれば、最後のあり方について思いを巡らせることになったとしても、まったく不思議なことではない。

ひとり暮らしのわたしが、ひとり暮らしのまま下り坂を下っていって、ある日ひとり暮らしのまま在宅で死ねないだろうか……そう思いました。(中略)ひとり静かに死んで、ある日亡くなっているのを発見されたら、それを「孤独死」とは呼ばれたくない。それが本書の執筆動機です。(本書「おわりに」より引用)

たしかに、“その死”が孤独死であるかどうかは、その場に居合わせたわけでもない人に断定できるものではない。端的にいえば、本人が孤独感を味わっていたいのであれば、それは単なる「単独死」であり、孤独死とは意味合いの異なるものである。

つまりは自分の意識の問題で、そう考えれば必ずしも「孤独死して発見される」ことは不幸であるとは言い切れないことになる。

たとえば、もしも部屋でひとり、「ああ、自分はいま死んでいくんだな。いい人生だったな」と思いながら死んでいったのだとすれば、それを外側の人たちが孤独死だと騒ぎ立てるなど失礼千万。草葉の陰から「ふざけんな」と文句のひとつもいいたくなるわけである。

なお著者は、この問題について重要な指摘をしている。孤独死した人々は、生きているうちから孤立した生活を送っているものだというのである。つまり“孤立した生”が孤独死を招くので、生きているあいだに孤立していなければ、孤独死を怖れることもないということだ。

とくに「女おひとりさま」は「男おひとりさま」と違って友人ネットワークを確保している人が多いため、怖れる理由はなにもないという。なるほど男女差は多少なりともあるのだろうが、それを差し置いても強く共感できる話であはる。

ひとりで暮らしている年寄りがひとりで死んで何が悪い、それを「孤独死」とは呼ばれたくない、と思って、良くも悪くもなく、すっきりさっぱり「在宅ひとり死」ということばを創りました。今のところ、日本中でわたししか使っているひとがいないので、「コピーライト(著作権)上野千鶴子((C)ChizukoUeno)」を唱えていますが、いや、ほんの冗談です。コピーライトなんてけちくさいこともする気はありません、たくさんのひとに使って広めてもらいたいと思っています。(本書100ページより引用)

「孤独死」とは、考え方の問題なのである。なにをもって「孤独死」とするかは、各々の価値観に基づくものでしかない。そこには「定義」のようなものがあると思われているかもしれないが、その定義は当然ながら絶対的なものではない。

だとすれば、「孤独死」の定義を変えれば「孤独死」件数の統計は簡単に変わるはずだ。そのことについて著者は「政府の『不正統計』のように、調査方法や選択肢のカテゴリーを変えれば、統計データは変化します。要介護認定だって、要支援を要介護から外したことによって、要介護高齢者の数が減少するという効果をもたらしました」と述べている。

したがって、そのうち高齢者を「75歳以上」と定義変更しようという動きが出てくれば(日本老年学会が既に提言しているのだという)、高齢化率の数字も当然変わることになる。

「孤独死」をなくそうというキャンペーンは、死後の発見を早くしさえすれば達成することができます。だが、ほんとうに問題なのは、死後の発見よりも、生きているあいだの孤立だということは、忘れないようにしたいものです。(本書101ページより引用)

余談ながら、先日この話を同年代の友人にしてみた。納得できたので、考え方を共有したいと考えたのである。だが友人の反応は、こちらが期待するものではなかった。

「ひとりで納得して死んでいくのだとしても、それを見つけ、後始末をする人がいる以上、手間や迷惑をかけることになる。だから、それは自分本意な死だ」というのである。

私はその意見に反論した。なぜなら死んでいく以上は必ず、そのあとに人の助けを借りることになるからだ。それはすべての死について回るものなのだから、「孤独死だから」という問題ではないのだ。

とはいえ、まずはそうやって「孤独死」について考えることこそが大切なのだとも感じる。事実、私も本書を通じ、過去の自分がその問題を知らず知らずのうちに避けていたことに気づいた。

そして改めて、この問題と向き合ってみようと感じた。著者がいうように、それは決して不幸なものではないのだし。

『在宅ひとり死のススメ』
上野千鶴子 著
文春新書

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

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