文/濱田浩一郎

丹羽長秀の子・長重の家中で起こった珍騒動とは?
大河ドラマ「豊臣兄弟!」において織田信長の重臣・丹羽長秀は池田鉄洋さんが演じています。その長秀の子が丹羽長重であり、江戸時代初期の寛永年間に陸奥白河藩(福島県)の藩主となりました(豊臣秀吉の時代には加賀国小松を領していました)。『武者物語』(明暦2年=1656年刊行。編者は松田秀任)という書物には、この加賀国小松城主・丹羽長重の家中にまつわる逸話が収録されています。
長重の家中に小笠原犬頭という「武勇の侍」がおりました。しかしこの犬頭には欠点があったのです。先述した如く、犬頭は武勇には優れていたのですが、世間のことについて疎く、しかも口下手だったのでした。よって主君の丹羽長重から高禄を与えられず、小身で甘んじていたのです。その頃、上方の浪人で江口三郎右衞という者がおりました。この三郎右衞は犬頭ほどではないにしても、それなりの武勇の侍でした。しかも犬頭にはない長所があったのです。弁舌の才があったのです。このため丹羽長重は、三郎右衞を高禄で召し抱えることにしたとのこと。その情報は犬頭にも入ります。
すると犬頭は「家中には犬頭という武勇の者がいることを日本国中で知らぬ者はあるまい。そうであるのに、いくらかの武勇があるからといって、他所から来た者を家中で高禄で召し抱えるなど思いもよらぬこと。だが、来るが良い。1つ問い質してやろう」と語ったと言います。
お目見えの日、三郎右衞は小松城にやって来ます。この日、犬頭は三郎右衞より先に登城。三郎右衞を待ち構えていたのです。三郎右衞が広間に座ったところで、犬頭は「さては江口の君の幽霊とは貴殿のことか」といきなり言葉をかけるのです。謡曲『江口』に登場する江口の里(大阪市東淀川区)の遊女が西行法師と歌の問答をしたとの説話に絡めて、犬頭は三郎右衞をからかったのです。
江口はそれに次のように返答します。「左様、拙者のことでござる。では内々に伺っていた犬の頭とは貴殿のことか」と。弁舌優れた三郎右衞は更に言葉を続けます。「さて犬頭殿は、武勇に優れた方ではあるが、不器用で口下手な侍である故、小身でおられるという。なぜかと言えば、武士たる者は武勇をたしなむのは、その本分であるから当然のことである。できることならば、貴殿が弁舌に優れていたならば、ますます良い武士と申せましょう。拙者の戦功は貴殿に比べたら遥かに劣る。しかし若い頃から渡り奉公をして、あちこちと回ってはその才能を人々に知られてきた。よってどなたもそれをご存知で拙者を高禄で召し抱えてくださる。貴殿も御家中のみで武勇を誇っておられず、他国への行き方も学ばれるならば、立派な身分となられるであろうに。惜しいことだ」と。
犬頭は三郎右衞に言い返すことができませんでした。それどころか、三郎右衞の話の内容を尤もと感じ、以後、三郎右衞に対し、丁寧に接するようになったということです。武勇のみならず、武士には弁舌の才も必要との逸話でした。
徳川家康の家臣・本多康俊は息子が槍の稽古をするのをなぜ叱ったのか?
また『武者物語』には、徳川家康の家臣・本多康俊に関する次のようなエピソードが載っています。
ある時、康俊の息子らが槍の稽古をしていたのですが、康俊はそれを見て大いに怒ったとのこと。武将にとって槍の稽古も必要と思うのですが、康俊はなぜ怒ったのでしょう。康俊は言います。「合戦の時に槍を取って戦うのは小身の武士のすることである」と。大身の者は部隊の采配こそ必要であり、槍の稽古は無用と言うのです。康俊は昔こそ槍の稽古に励んでいたが、主君から大身に取り立てられて以降は槍を用いることはしていない。采配を取って部隊を動かす工夫ばかりしておると言うのです。『武者物語』の作者も康俊の発言に賛同し、大将が槍をとって戦うことは良くないとしています。侍大将には采配こそ重要だと主張するのでした。
ちなみに織田信長などは、青年の頃から馬・弓・鉄砲の稽古に励んでいました(信長の家臣・太田牛一が著した信長の一代記『信長公記』)。そればかりか、桶狭間の戦いにおいても、馬から下り、今川方を突き伏せています。それを見た信長の家臣もまた負けじとばかり、今川方に乱れかかり、戦うのでした。そしてご存知のように今川義元に勝利しています。しかし『武者物語』の作者からしたら、そのような振る舞いは大将の取るべき行動ではないと非難されてしまうのでしょう。
文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。











