
年齢を重ねるほど、真正面から本音で助言してくれる人は少なくなります。職場でも家庭でも、立場ができるほど「言ってもらえない」ことが増えるもの。気づかないうちに視野が狭くなったり、考え方が固くなったりするのは、誰にでも起こり得ます。
変化の速い社会をしなやかに生きるには、頭の「可動域」を保つことが大切です。温故知新という言葉のとおり、先人の言葉に触れることで、自分の考えを点検し直すきっかけにもなります。
今回の座右の銘にしたい言葉は「雄弁は銀、沈黙は金」 です。
「雄弁は銀、沈黙は金」の意味
「雄弁は銀、沈黙は金」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「雄弁は大事だが、沈黙すべきときを心得ていることはもっと大事だということ」とあります。
「銀」も「金」も、どちらも貴重なものです。つまりこの言葉は、「話すな」と否定しているのではありません。
人間関係において、私たちはつい「自分の意見を相手に伝えたい」「わかってほしい」という思いから、言葉を尽くして語ろうとしてしまいます。もちろん、適切な場面で自分の考えを筋道立てて話す「雄弁さ」は、銀のように輝かしい価値を持っています。
しかし、言葉には時に刃となって人を傷つけたり、誤解を生んでしまったりする危うさも潜んでいます。相手の話に静かに耳を傾けること、あるいは、あえて何も言わずに見守ること。その「沈黙」には、雄弁さを凌駕するほどの重みと、金のような尊い価値があるのだと、この言葉は教えてくれているのです。

「雄弁は銀、沈黙は金」の由来
この言葉は、英語のことわざ “Speech is silver, silence is golden.” に由来するとされています。19世紀のイギリスの思想家であり歴史家でもあるトーマス・カーライルが、自身の著書『衣装哲学』の中で用いたとされています。
ただし、カーライル自身もこの表現を「古いドイツの格言」(またはスイスともいわれています)として引用したとされており、もともとはヨーロッパに広く根付いていた民間の知恵が、カーライルの著作を通じて広く知られるようになったと考えられています。
ちなみに旧約聖書「コヘレトの言葉(伝道の書)」3章7節には「語るべき時と沈黙すべき時がある」という趣旨の表現が登場します。「沈黙の価値」は、東西を問わず人類が長い歴史の中で共有してきた普遍的なテーマなのです。
「雄弁は銀、沈黙は金」を座右の銘としてスピーチするなら
座右の銘として「雄弁は銀、沈黙は金」をスピーチで紹介する場合、「黙っていればいい」という受け身の教訓に聞こえないように注意しましょう。以下に「雄弁は銀、沈黙は金」を取り入れたスピーチの例をあげます。
「語ること」と「黙ること」のバランスの重要性を語るスピーチ例
私の座右の銘は、「雄弁は銀、沈黙は金」です。
この言葉は、上手に話すことにも価値があるけれど、時には黙っていることのほうが、もっと大きな価値を持つ、という意味だと受け止めています。
若い頃の私は、正しいと思ったことはすぐに口に出すほうでした。仕事でも家庭でも、自分の考えを伝えることが大事だと思っていたのです。もちろん、それでうまくいったこともありました。けれども、年齢を重ねるにつれて、言葉は便利である一方、とても扱いの難しいものだと感じるようになりました。
相手がまだ気持ちを整理できていない時に、こちらが正論を言ってしまう。励ますつもりのひと言が、かえって負担になる。
そんな経験をするたびに、黙って聞くことの大切さを教えられました。沈黙というと、何もしないことのように思われるかもしれません。しかし本当の沈黙は、相手を無視することではありません。相手の言葉を待つこと、気持ちを受け止めること、そして今は言わないほうがいいと判断することです。
もちろん、言うべきことを言わないのがよいわけではありません。大切なのは、語るべき時には誠実に語り、黙るべき時には静かに黙ること。その見極めを忘れずにいたいと思っています。これからも私は、「雄弁は銀、沈黙は金」を胸に、言葉を大切にしながら、人の話をよく聞ける人でありたいと思います。
最後に
人生の後半戦を迎え、さまざまな経験を積んできた世代にとって、この言葉はとりわけ腑に落ちるのではないでしょうか。若い頃は「もっと話せばよかった」と思うことが多かったかもしれません。でも今は逆に、「あのとき黙っておいてよかった」と思い当たる場面の方が多い、そんな方もいらっしゃるかもしれません。
「雄弁は銀、沈黙は金」は、単なる「話すな」という戒めではありません。言葉の力を認めながら、それを超える「沈黙の知恵」を説いた、奥深いメッセージです。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











