総画数79の「漢字」誕生秘話

吉原の様子をよく表す創作文字「おおいちざ」。(C)NHK

I:往来物の『小野篁歌字盡(おののたかむらうたじづくし)』という書物も登場しました。小野篁は平安時代の遣唐副使にも選ばれた公卿で歌人。遣唐副使に選ばれたということは眉目秀麗だったのでしょう。

A:嵯峨天皇から「子子子子子子子子子子子子」の読み方を尋ねられて「猫の子子猫、獅子の子子獅子」と読み解いたという逸話の主になります。『べらぼう』の時代からは900年以上前の人物。こうした人物を冠にした往来物を刊行するというセンスが面白いですね。

I:その内容ですが、「春椿、夏は榎に秋楸(ひさぎ)、冬は柊(ひいらぎ)、同じくは桐」というように言葉遊び感覚で漢字を学ぶ、なかなか赴き深いものです。

A:その『小野篁歌字盡』を下敷にして蔦重らが編み出したのが『廓𦽳費字尽(さとのばかむらむだじづくし)』。完全パロディという感じですが、それをおおまじめにつくるから面白いんだと思います。劇中でも、「恋を失うで未練」「川を失うで枯れる」「春を失うははずす」「町を失うで不人気」など、次々と「言葉遊び」が浮かんできます。

I:その究極が、彼らが「創作」した「おおいちざ」と読ませる漢字。なんと総画数が79画。敵の字は「敵娼(あいかた)」のこと、「客」「吐」が入り混じって、その場の雰囲気を如実に表した漢字です。

A:いや、ほんとうに楽しい人たちですよね。そして、重要なのが、こうした和気あいあいの集いに、暗雲がたちこめることになるのです。今の私たちにも決して無縁ではありません。天変地異、経済の悪化、政権交代……。時代の空気が一変する前の「夢」のようなひととき……。

I:風の前の塵って感じなのでしょうか。

琥珀の腕輪をつけている松前廣年(演・ひょうろく)の手をとる誰袖。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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