『仁義なき戦い』へのオマージュ?
A:さて、今週も気になる台詞が大岡弥四郎から発せられました。〈遅かれ早かれ死ぬのならば、ほんのひと時でも欲にまみれる夢を見た方がマシじゃ。飯をたらふく食って、酒を浴びるほど飲んで、いいおなごを抱いて。なあ、みんな!〉です。
I:周りの者が〈そうじゃ、そうじゃ〉と盛り上がっていました。
A:この台詞、勝頼役の眞栄田郷敦さんの父親千葉真一さんが『仁義なき戦い 広島死闘編』で発した台詞へのオマージュでは? と「瞬感」しました。
I:広島死闘編? どんな台詞なんですか?
A:広島極道の大友勝利が発した〈わしらうまいもん食うてよ、マブいスケ抱くために生まれてきとるんじゃないの〉です。
I:そうなんですか。オマージュですかね? 違うような気もしますが……。ところで私が気になったのは、石川数正の〈今は誰が寝返っても不思議はござらん。弥四郎が武田に通じていたとすれば、こちらの打つ手が読まれていたのも合点がいく〉です。
A:ああ、なるほど。確かに松平家は家康の祖父・清康、父・広忠ともに家臣に裏切られて殺害されていますものね。ただ同じことは武田軍にも言えるのですよね。前半でお話ししたように遠江に攻め入り、三河にも攻め込んでいる。兵たちの立場からすれば、大岡弥四郎がいった台詞はすべてブーメランとなって武田側にも跳ね返っていくかと思います。
I:五徳(演・久保史緒里)と瀬名の嫁姑ドラマのようなやり取りも、戦国時代にそんなやり取りがあり得るのか? ということも含めて興味深くみていました。やっぱり嫁姑問題は鉄板ですよね。
A:『おんな太閤記』(1981年)や『利家とまつ』(2002年)『功名が辻』(2006年)『江 姫たちの戦国』(2011年)の「戦国ホームドラマ路線」に連なっているとするとわかりやすいですよね。
家康はいつになったら強くなるのか?
I:ところで、武田勢力との合戦に際して、家康が〈引けー、引けー〉と号令を発していました。三方ヶ原合戦の際にも同様のシーンがありました。これでは家康がいつも引いている感じがしませんか?
A:そういう演出なのでしょう。きっといつか変貌して「強い家康」になる日が来るのだと思いますが……。そして、ラストで、瀬名と千代が〈お友だちになりましょう〉というやり取りを交わしました。前半戦のクライマックスが近づいている気配がします。
I:どういう展開になるのか、まったく想像がつきません。大河史に刻まれる名解釈になるのか? それとも大河史の汚点になるのか? それをしっかりと見届けたいと思います。
A:どっちに転ぶかわかりませんが、私は、名解釈になる予感がしています(笑)。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり