文/鈴木拓也
COPD(慢性閉塞性肺疾患)と呼ばれる病気がある。
病名自体は、まだあまり知られていないが、日本国内だけでも約530万人もの患者がいると推定されている。世界的にも患者数は増加中で、2020年には死因の第3位になると予測されている。
これは、かつては肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていた。肺に慢性的な炎症が起こり、肺胞がダメになっていくもので、症状としては咳や痰が続き、重症化するとちょっと歩いただけで息切れするようになる。しまいには、携帯用酸素ボンベなしでは外出すらままならない状態に陥るという恐ろしい病気だ。
東京女子医科大学八千代医療センターの呼吸器内科に勤務する桂秀樹教授は、COPDの患者数が増えていることに懸念を抱いている専門家の一人。監修した書籍『COPDのことがよくわかる本 長引くせき、たん、息切れで悩む人に』で、COPDの基礎情報や治療法などをまとめているが、関心のある方にはとても参考になる1冊。
今回は本書をもとに、COPDの特徴やセルフケアを紹介しよう。
■病因は圧倒的にタバコの吸い過ぎ
COPDはある意味、非常に分かりやすい病気だ。というのも、病気になる原因は、ほぼタバコと言ってよいため。
ご存知の通り、タバコには、肺胞や気管支にダメージを与える有害物質が多種類含まれている。長年にわたり喫煙を続けると、有害物質の刺激で起こる肺の炎症が慢性化し、酸素を体内に取り込むという、肺の重要な機能が低下してしまう。
ただ20代で喫煙を始めても、初期症状の咳や痰に悩まされるようになるのは40代から。この症状も軽く見られることが多く、加齢とともに症状は深刻になっていき、ちょっとした動作でも息切れするようになって初めて受診という人は少なくない。
重症化しても放置すると、最悪の場合、呼吸困難から寝たきりになるという。
それゆえ、桂教授は「手遅れにならないようにするには症状が軽いうちに、一刻も早く受診することにつきます」と警告する。
■COPDの治療の流れ
COPDのせいで、いったん破壊された肺胞は元には戻らないが、適切な治療によって「息苦しさを改善して動ける体をつくる」ことは可能だ。
治療の目標は「症状を改善する」、「動ける体をつくる」、「悪化を防ぐ」の3本柱。これらを達成するために、医療機関では気管支拡張薬の吸入薬を処方され、症状に応じて吸入ステロイド薬や去痰薬が追加されることもある。また、理学療法士の指導のもと、ウォーキングや筋力トレーニングといった運動療法も行う。
だが、何と言っても最初の段階でやっておくべきなのは、禁煙だ。禁煙は、肺の炎症を抑え、COPDの進行を食い止めてくれる、最も効果的な治療法となる。「喫煙したままでは治療の意味がない」というくらい重要なので、自力の禁煙が難しい場合、医師と連携して禁煙補助薬を利用するなどして喫煙ゼロ本を目指そう。
■COPD対策のセルフケア
本書には、主として呼吸法と食事(栄養)面でのセルフケアが掲載されている。例えば、息切れの悪化を防ぎ、楽に呼吸できるようなる「口すぼめ呼吸」。これは、仰向けになって、鼻から吸い、軽く口をすぼめてゆっくり息を吐き、徐々に強くして吐き切るというもの。このとき、腹はへこませる。
一方、見落とされやすいのが食事だ。COPDにかかると、呼吸に多大なエネルギーが使われるのに、息切れなどで食事が不足しがちになってしまう。低栄養から全身が衰弱しかねないため、適正な栄養を摂取する栄養療法が必要となる。おおまかに言えば、肉・魚・大豆・卵といった形でたんぱく質の摂取は増やし、脂肪分も増やす。主食の米は、「チャーハンにする、味付け油揚げを刻んで酢飯に混ぜる」などして、摂取エネルギーが増えるように工夫する。少量でエネルギーやたんぱく質を摂れる栄養補助食品も積極活用し、「高エネルギー・高たんぱく質」を確保できるよう心がける。また、背すじを伸ばし少量ずつ口に運ぶなど、食べ方についてもアドバイスがある。
* * *
本書を読むと、COPDの治療は生活全体に及ぶため、自己管理(セルフマネジメント)の重要性がよくわかる。医療機関の受診はもちろん大事だが、医者任せにせず、本書を参考にしながら症状の改善をはかるのが、最良の筋道になるだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『COPDのことがよくわかる本 長引くせき、たん、息切れで悩む人に』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000326851
(桂秀樹監修、本体1400円+税、講談社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。