文/倉田大輔

世界を震わすマラリアの恐怖!?

人間にとって怖い動物は何かと聞かれた時、熊やトラ、ライオン、サメなどを思い浮かべませんか?意外なことに大昔から現代まで、人間の命を最も奪っている動物は「蚊」です。
今回は蚊が媒介し、人間世界を震わせ続けている「マラリア」についてご紹介します。

世界保健機関(WHO)によれば、2015年2億1200万人が感染し、死亡者約42万人で、現代でも50秒に1人がマラリアで命を落としています。

マラリアは1種類だけではない?

1つの病気だと思われがちですがマラリアは、原虫の種類で「熱帯熱マラリア」、「三日熱マラリア」、「四日熱マラリア」、「卵形マラリア」の4つに分類されています。
重症化しやすく死亡率が高い「熱帯熱マラリア」は、アフリカやアジア太平洋の熱帯地域が流行の中心で、「三日熱マラリア」は韓国や中国など温帯地域でも問題になっています。

は運び屋? 虫が原因と分かったのはいつ?

多くの種類が存在する蚊のなかで「ハマダラ蚊」が、「運び屋(媒介者)」としてマラリア原虫を運び、人間を刺すことで身体に原虫を送り込みます。
現代では、原因:マラリア原虫と分かっていても、虫が病気を引き起こすと判明したのは約100年前と比較的最近です。

1880年フランスのシャルル・ルイ・アルフォンス・ラヴランが、アルジェリアで感染患者の赤血球で増殖しているマラリア原虫を見つけました。
1898年イギリス人医師ロナルド・ロスが、赴任先のインド(コルカタ)で、鳥に感染するマラリアの動きから、蚊によってマラリア原虫が人体に注入される病気と発表しました。
彼ら2人にはマラリア研究の成果として、それぞれノーベル賞が授与されています。

マラリアに罹ると何が起きる?

マラリアの語源は、イタリア語「mal-aria(悪い空気の場所に出かけてかかる病気)」です。

マラリア原虫が体内に入ると、赤血球が壊されて「貧血」、壊れた赤血球を処理するために脾臓に負担がかかり「脾腫(脾臓が腫大)」、発熱中枢を刺激して「高熱」が生じると考えられています。黄疸や肝機能障害、腎臓機能障害など全身にダメージを与えることもあります。現代では、主に血液を採り顕微鏡で原虫を確認する診断が行われています。

蚊に刺されてから約2週間程度、潜伏期間があって症状が出ることもあるので、注意が必要です。

「平清盛」はマラリアで死亡した?

平安時代に天皇の祖父になるなど栄華を極めた「平清盛」。死去に際してもドラマチックだったようです。古典「平家物語」で「清盛は、部屋が熱気で充満し、医師も近寄れないほどの高熱を出した。治療のために比叡山から汲んできた冷たい水の水風呂に入ったところ、たちまち水が沸き上がりお湯になった」と伝わります。高熱に悩まされた清盛は昏睡状態が続き、悶絶死したそうです。
清盛が住んでいた京都には、身体を冷やすために使われた井戸が遺されています。
東大寺や興福寺を焼き討ち(南都焼討)した神罰が起こした病とも考えられていたようです。「平家物語」は脚色が強く、清盛の病状がどこまで正確かは分かりません。

清盛は神戸港を開港、日宋貿易に力を入れていたことを考えると、輸入品などを介して、マラリアの中でも症状が強い「熱帯熱マラリア」に感染していた可能性は高そうです。

マラリアに悩まされた人々?

古代エジプトのミイラで有名な「ツタンカーメン」や東方遠征時に感染し、インド付近で命を落とした「アレキサンダー大王」。明治時代の台湾征討で、現地滞在中にマラリアに感染し、皇族として初めて外国で病死した「北白川宮能久親王(北の丸公園に銅像が現存)」など、身分の上下に関わらず蔓延していました。

「瘧(おこり)」と日本で呼ばれていたマラリアですが、「瘧」は中国医学用語で「2日に1度熱発作が起きる病気」を表わしています。
「源氏物語」、「今昔物語集」など、平安時代の文学や日記に数多く「マラリア(瘧)」が登場しています。江戸時代でもマラリアは存在していましたが、都市化や生活レベルの向上などにより軽症例が多かったようですが、鎖国政策で海外との往来が限られていたことも関係しているかもしれませんね。

マラリアと人類のたたかいの未来?

世界中で、殺虫剤処理蚊帳や屋内残留殺虫剤など「蚊の制御策」とマラリア感染者の早期診断・治療が功を奏し、マラリア流行の終息まであと一息とも言えます。ただし、現在でも年間2億人以上が感染、42万人以上が死亡し、90%以上がアフリカ地域に集中し、死亡者の6割は5歳未満の子どもです。殺虫剤や治療薬に抵抗(耐性)するマラリアや蚊も出現し、楽観視は出来ません。
「RTS,S/AS01」というマラリアワクチンをグラクソ・スミスクライン社が開発し、2019年にアフリカ3か国(ガーナ、ケニア、マラウイ)で大規模試験が始まる予定です。
日本でも、「DSM265(武田薬品工業)」や「SJ733(エーザイ)」という治療薬、ワクチン「BK-SE36/CpG(大阪大学)」などの研究が現在も進んでいます。

私自身、海外渡航外来で、アジアやアフリカ、中南米などのマラリア流行地に旅行や仕事で赴く人に「マラリア予防薬」を処方していますが、病気の怖さを理解していない人もいると痛感しています。たしかに日本国内でマラリアが問題になることはあまり多くはありません。2000年に154例が報告された後は減少して、最近は約50例前後で推移しています。注目すべきは、これらの報告例が日本国内ではなく国外で感染していることです。
マラリアは、「輸入感染症(病気を国外から国内に持ち込む)」として、日本を脅かす恐れがあります。

2018年に日本を訪れた訪日外国人は3119万1856人で、「東京2020オリンピック・パラリンピック」が開催される2020年には3600万人、2021年以降も増加が予想されています。海外との行き来が増える現代は、マラリアをはじめ海外から持ち込まれる病気にも目を光らせる必要があります。

池袋さくらクリニック 院長 倉田大輔

文/倉田大輔
池袋さくらクリニック院長。日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医、海洋安全医学・ヘルスツーリズム研究者、経営学修士(明治大学大学院経営学研究科)

2001年 日本大学医学部卒業後、形成外科・救急医療などを研鑚。
2006年 東京都保健医療公社(旧都立)大久保病院にて、
公的病院初の『若返り・アンチエイジング外来』を設立。
2007年 若返り医療や海外渡航医療を行う『池袋さくらクリニック』を開院。
「お肌や身体のアンチエイジング、歴史と健康」など講演活動、テレビやラジオ、雑誌などへのメディアに出演している。
医学的見地から『海上保安庁』海の安全啓発への執筆協力、「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く“美・食・宿”<国際観光施設協会>』を連載。自ら現場に赴き、取材執筆する医師。
東京商工会議所青年部理事
東京商工会議所 健康づくりスポーツ振興委員会委員
東京商工会議所 豊島支部観光分科会評議員

【クリニック情報】

池袋さくらクリニック
http://www.sakura-beauty.jp/
住所 東京都豊島区東池袋1-25-17-6F

【お問合せ】

03-5911-0809(完全電話予約制,月曜休診,10:00~19:00)

 

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