文/鈴木拓也

「暑くて体力が続かない」「トシのせいか体力が落ちた」といった、日常会話で何気なく登場する「体力」という言葉。
ふだん、これを口に出すときは、「仕事や活動を続ける力」という、ふんわりした定義だろう。もう少し解像度を高めるなら、スタミナ、持久力、集中力、ストレス耐性といった能力を一括りに表現したものといえる。そのせいか体力は、どちらかといえば生来の資質であり、後天的には向上しにくいと捉えられている。
しかし、正しい知識と実践をベースに、今からでも体力はアップさせられるという。そう説くのは、ハワイのThe Queen’s Medical Centerに勤務する医師、有好信博さんだ。
有好さんは、著書『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて―医学的根拠であなたのパフォーマンスを最大化する方法』(ダイヤモンド社 https://www.diamond.co.jp/book/9784478123768.html)のなかで、体力向上の秘訣を記している。
今回は、その一部を紹介しよう。
体力には3種類ある
有好さんは、体力の概念を、「最大体力」「実効体力」「余力」の3要素に分け、スマートフォンにたとえて解説する。
最大体力は、バッテリー容量だ。容量が大きければ、1日を通してパフォーマンスを維持できるし、頑張りもききやすい。
実効体力は、充電状況にあたる。基本的に、健康的な生活をしているか否かによって、実効体力は上下する。
余力は、実効体力からその日に受けた負荷を差し引いたバッテリー残量である。通常、夜が近づくにつれ、その日の余力は乏しくなっていく。余力が尽きかけると、仕事のミスが増え、判断力も鈍り、帰宅しても何もする気が起きない状態に陥ってしまう。
ここから見えてくるのは、最大体力のキャパシティを向上させるとともに、実効体力を無駄に削る負荷をコントロールすることの重要性だ。どちらも一朝一夕に実現はできず、地道な努力を必要とする。
運動、睡眠、栄養摂取で最大体力を向上
有好さんは、最大体力を高める習慣の1つに運動を挙げる。具体的には、有酸素運動は1週間あたり計150分、筋トレと(片脚立ちといった)バランス練習が週2~3日、柔軟体操が週2日以上となる。
有酸素運動は、「会話はできるが歌うのは難しい」レベルの低~中強度でいい。一度にかける時間は、「50分×3回でも、15分を1日2回×週5日でも」よく、合計で150分になるよう努める。詳細は本書に譲るが、そのほかの運動も、過大な時間は要せず、多少忙しくても無理なく継続できるものとなっている。
運動とワンセットで忘れてはならないのが、十分な睡眠。眠っている間は、日中に受けた様々な負荷からの回復メカニズムが働く。睡眠時間が短いと、回復が不十分なまま翌朝を迎えることになるし、肥満や感染症のリスクも上がる。
そして、目覚めている間も、適宜休憩やストレッチを行って、体力を細かく立て直す。
くわえて、最大体力を支えるのに不可欠なのが、適切な栄養摂取。本書では、多くの人が「見落としがち」なポイントの1つに、脂質の摂り方を挙げる。基本原則は、「飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸の摂取を増やす」。加工肉などに含まれる飽和脂肪酸は、心血管リスクの観点から好ましくない。他方、ナッツなどに含まれる不飽和脂肪酸は、そのリスクを下げてくれるので、多めにとることが推奨されている。
水や茶をこまめに飲む
1日の間に引き出せる実効体力も、運動、睡眠、栄養がかかわってくる。有好さんは、それぞれについてより細かく、何をどうすればいいのか記している。
くわえて、水分の摂り方にも言及がある。水分がわずかに不足するだけでも、実効体力にはダメージとなるからだ。飲み物は、ただの水か無糖の茶をメインとし、牛乳やコーヒーはほどほどに抑える。砂糖を多く含むものは、一時的に元気になったように感じるが、その後にだるさや眠気が出やすいので要注意。飲む頻度は、1日を通してこまめに少しずつとアドバイスされている。
もう1つ大きなファクターが心理的ストレス。これは、集中を高めることもあり、一概に悪いものではない。そもそも、同じ出来事に対して、良いストレスとなることもあれば、悪いストレスとなることもあり、それは本人の受け止め方によるところが大きいという。例えば、難しい仕事を振られたとき、「自力でできそう」と思えば、それは挑戦であり良いストレスとなる。逆に、「無理だ」と思えば、それは脅威となり、実効体力は削られてゆく。
もっとも、実社会に生きれば、脅威は常に避けられるものではないだろう。有好さんは、「これは挑戦の機会だ。まずはいまできる範囲から始めよう」などと言い換えをすすめている。これを「再評価」と呼ぶ。これは単なるごまかしでなく、心血管反応のパターンがより安定し、パフォーマンスの改善につながるものだ。
再評価のコツは、前向きな言葉を選ぶだけでなく、深い呼吸を繰り返し、着手すべき「最初の一手」を決める。場数を踏めば、同じ場面でも脅威に飲み込まれなくなるという、長期的なメリットもある。
中断の負荷を抑えて余力を確保
余力は、日中降りかかる負荷によって削られた実効体力の残り火である。
帰宅する頃にこれが残っていないと、「きつい1日だった」という気持ちに陥りやすい。多少は残せるようにするのが肝要となる。
余力を保つポイントは、いつの間にか体力を削る負荷を減らすことだ。その1つに、「中断の負荷」がある。例えば、急ぎの電話やメールが来て、仕事が一時的にストップした場合がこれにあたる。これで集中力が途切れる上に、元の状態に戻るまでの時間とエネルギーも奪われてしまう。ある研究では、割り込みから再開まで平均25分かかったというから、その負荷の大きさは侮れない。
その解決策は、復帰しやすい仕組みを用意することだ。有好さんは、割り込みの前に、復帰時にする内容を1行でメモしておくことをすすめる。また、そもそも中断の絶対数を減らすことが重要だとも。これに関しては、メールの通知に都度対応せず、あとでまとめて処理するなど、やれることはいくらでもありそうだ。
本書を読み通すと、日々100点満点で頑張ろうとする働き方は、実は非効率であることがよくわかる。大事なのは、調子が乗らない日は60点くらいで良しとし、余力を残せる体力づくりだ。そうすれば、仕事も生活の質も変わってくる。体力に自信のない方なら、読んでほしい1冊である。
【今日の健康に良い1冊】
『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて―医学的根拠であなたのパフォーマンスを最大化する方法』

定価1870円
ダイヤモンド社
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











