創意工夫に富んだ、新次元の味わい

(左)穂村 弘さん(歌人)
ほむら・ひろし 1962年生まれ。上智大学卒。歌集『シンジケート』でデビュー。現代短歌を牽引し、エッセイや評論など幅広い分野で活躍。著書に歌集『水中翼船炎上中』、エッセイ『本当はちがうんだ日記』、新著『短歌の話は長くなる』など。
(右)堀尾美穂さん (『あずきとこおり』店主)
ほりお・みほ 2022年1月、かき氷専門店をオープン。ミシュラン二ツ星レストランで6年間磨いたパティシエの技で、独創的なかき氷を生み出す。

長い歴史を持つかき氷が、旬のフルーツを贅沢に使ったり、シロップやクリームに意外な食材を合わせたりと、個性豊かに開花。その実態を穂村さんが探った。

かき氷のなかで迷子になっている
      苺を助け出しつつ食べる──穂村 弘

「子どもの頃からジュースのグラスに入っている“氷”をガリガリ噛むのが好きでした」と笑う歌人の穂村弘さんは、旅に出てはその土地のかき氷をよく食べたという。

「台湾の餅やピーナツが入ったものは日本では味わえないし、沖縄のフルーツ系や金時豆のぜんざいは記憶に残るおいしさでした」

見た目も味も豪華に進化した、注目のモダンかき氷はどうか。向かった先は『あずきとこおり』。日本のみならず、海外からの客も多い専門店だ。店主の堀尾美穂さんのかき氷はパティシエの技を用いていくつものパーツを積み重ね、豊かな香りと食感のアクセント、なめらかな口溶けを表現している。芸術的な美しさとおいしさだ。

モダンかき氷の新境地

苺とシブースト
トップはシブーストクリームと軽やかなパイ生地。食べ進むと生のいちご、ゼリー、メレンゲが顔を出す。すくうたびにいちごとミルクの味が変化し、楽しい共演が続く。3500円。

「温かい」

穂村さんが「苺とシブースト」を口にした瞬間にこぼれた言葉である。氷の冷たさと相反する感想だが、目の前のかき氷はまぎれもなく、ほのかに温かいのだ。

「冷たいかき氷は、香りが伝わりにくいのが課題でした。いちごの風味を存分に感じてもらうため、トップ部分はミルフィーユのように仕立てています」と堀尾さん。

「苺とシブースト」ができるまで

スタート!
器にいちごソース適量を注ぎ、氷をふわふわに削る。氷は長野県の天然水を凍らせた純氷を使用。
氷の表面を手で軽く押さえ、丸く成形する。ミルクソースといちごソースをたっぷりかける。
さらにマスカルポーネエスプーマをのせ、カットしたいちご3個分と砕いたメレンゲを散らす。
ソースといちごが見えなくなるまで、さらに氷をふわふわに削る。
氷を丸く成形し、ミルクソースといちごソースをかけて、いちごのビネガーゼリーをのせる。
氷部分を3層に!
中身が見えなくなるまで氷を削って丸く成形し、ミルクソースといちごソースをたっぷりかける。
カットしたいちごと砕いたパイ生地をのせ、シブーストクリームを絞り袋からこんもり盛る。
シブーストクリームに粉砂糖を均一にふりかけ、バーナーで一気に焼いて、香ばしさをつける。
完成!
トップ:シブーストクリーム(粉砂糖をキャラメリゼ)、砕いたパイ生地、いちご
中身:マスカルポーネエスプーマ、いちご、砕いたメレンゲクッキー、いちごのビネガーゼリー
氷のベース:氷+ミルクソース、いちごソース

トップのシブーストクリーム(※1)は粉砂糖をふり、キャラメリゼすることで香ばしく、クリームの下に隠れているパイ生地といちごの果実が、それぞれの個性を感じつつも見事に一体化。

ふわっと軽やかな氷は3層。ミルクソースといちごソースがたっぷりとかかり、いちごのビネガーゼリーと、メレンゲ、いちごの果実、マスカルポーネエスプーマ(※2)をサンドしている。さらにいちごは、果実として加えるものは濃厚な味の“紅ほっぺ”を、ソースやゼリーには果汁の多い“とちあいか”という具合に、どのパーツを食べてもいちごの風味が際立つように使い分けるという。

重ねる順番もトップ部分にインパクトのある味や香りのあるパーツ、中間部分は楽しい食感を与えてリフレッシュを。氷が溶けて味が薄まりがちなボトム部分は濃厚なクリームを盛り、最後まで飽きずに食べられるように計算ずくだ。

具だくさんのかき氷を食べ終えた穂村さんは、次のように語る。

「目の前のかき氷が燃えあがって驚きました。シブーストクリームの熱さと氷の冷たさ。マスカルポーネやミルクソースの甘さといちごの酸っぱさ。そのいちごも果実、ソース、ゼリーとさまざまな表情を見せてくれたうえに、アクセントとして出現するパイ生地やメレンゲクッキーの触感。さまざまな要素が混在しながらひとつの世界をつくり出していて衝撃的なおいしさでした」

※1:カスタードクリームにメレンゲとゼラチンを合わせたクリーム。 
※2:軽やかなムース状に仕上げたもの。

ケーキを食べたような満足感

あずきとメレンゲ
かき氷の定番“あずきミルク”を進化させた一皿。メレンゲはミルクの氷と合わさると、きな粉のような風味に。小豆と餅が加わり、もなかの趣に変化する。2900円。

パーツの多さに驚いていた穂村さんが、「昭和40年代の甘いソースをかけるだけのかき氷が、いろいろなパーツが混ざり合って、ケーキ的なものに進化していますね」と続ける。

店の看板である「あずきとメレンゲ」もそうだ。ミルク、小豆、餅という、なじみのある食材がパティシエの手にかかると、モダンな味に昇華。「かき氷には無限の可能性があります。氷をケーキの生地に見立てて、自由に組み合わせを考えるのが楽しくてたまりません」と堀尾さんが笑いながら言うと、穂村さんが「初めてかき氷を食べる外国の人は“これが日本のかき氷!”と感動するのでしょうね」と返す。夏の風物詩であるかき氷は今や、日本を超えて世界へと羽ばたいているのだ。

「苺とシブースト」の構成を尋ねる穂村さん。あまりのおいしさに氷をすくう手が止まらない。

あずきとこおり

東京都渋谷区代々木1-46-2 グランデュオ代々木1階 
電話:なし 
営業時間:11時〜18時(最終注文) 
定休日:水曜、不定休あり 
交通アクセス:JR代々木駅より徒歩約7分
要予約(https://azukitokouri.com/より)
※季節によってかき氷の内容は変わります。

取材・文/石出和香子 撮影/長野陽一

※『サライ』2026年8月号より

8月号特集は「本格焼酎」は風土で味わう

 

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