集中して仕事を終えたあと、ずっしり重たく感じる、肩のこり。ガチガチに固まったような痛みが続くと、本当につらいものです。

50代ともなれば、かつてのような軽さを取り戻すことは、もう叶わないのでしょうか? 日々の暮らしから見直すことで、根本的な原因を改善できるなら、嬉しいですよね。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中国伝統医学の知恵から、心と体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。

今回ご相談に訪れたのは、52歳の男性。趣味の山登りのおかげで、体格もしっかりと引き締まっていますが、いくつか気になる不調を抱えているようです。

ちょっと、覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者|52歳/営業部課長(デスクワーク中心)
症状|慢性的な肩こり、目の疲れ、鼻づまり、関節の痛み、最近増えてきた白髪

マッサージをしてもすぐ戻る、肩こり

「最近、目の疲れや、鼻づまり、関節がギシギシする感覚に悩まされていて…。50代になって、なんとなく感じる不調が増えてきました。中医学なら、いい対策があるのではと思い、やってきました」

苦笑いを浮かべながら、男性は言葉を続けます。

「やっぱり歳のせいですかね。白髪が急に増えた。あとは肩こり。マッサージでほぐしてもらっても、すぐにまた戻ってしまう…。何度も繰り返しているうちに、ケアに限界を感じるようになってきまして。もっと根本的な、体質改善が必要なのかもしれません」

静かに耳を傾けていた志村先生は、語りかけました。

「慢性的な肩こりがあるようですね。もしかしたら、その肩こりこそが、ほかの不調を引き起こしている大もとの原因かもしれませんよ」

「肩こりがほかの不調にも影響していると?」

「はい。たかが肩こり、されど肩こり。中医学では、一つの症状を整えていくことで、全身のさまざまな不調が連鎖的に和らいでいくことが、実際にあります。肩こりは、まさにその典型的な入り口のひとつです」

肩こりは、「血」の渋滞を知らせるサイン

中医学では、体の不調は「気血水(き、けつ、すい)」、この3つの要素がスムーズに巡ることで、健康を保つことができていると考えています。

「中でも肩こりは、全身に栄養を運ぶ役割を持つ『血(けつ)』の巡りが滞る『瘀血(おけつ)』が関係していることが多いです」

そう言って、志村先生は説明を始めました。

「血」の巡りの大渋滞

「『瘀血』とは、血の巡りが滞った状態のこと。道路が渋滞すると必要な物資が届かないように、『血』が滞ると栄養や酸素が十分に運ばれず、老廃物も回収されにくくなりがち。その結果、痛む、しこる、黒ずむ、といった不調が表れます。頭痛、肩こり、シミなどはその代表ですね。

そういった日常的な不調に留まれば、まだいいのです。でも、さらに『瘀血』の状態が続くと、血流が要である脳、心臓、腎臓などの健康寿命を脅かすことにも、つながってきます。だから、肩こりは侮れません

中医学では不調の原因を、ひとつの部分ではなく、全身の巡りから考え、『血』の流れを整えることを大切にしています」

首から上の不調に、肩こりあり

さらに志村先生によると、首から上に現れる不調を、肩こりとセットとして捉えるケースが非常に多いそうです。

「わかりやすいのは、肩こりが引き金になっておこる頭痛。ご経験はないでしょうか?」

「それは、よくあります。もしかして、最近悩んでいる目の疲れや、鼻づまりも、肩こりからきていると?」

「おっしゃる通りです。イメージとしては、首元を真綿でじわじわと締め付けられているような状態と言えば、わかりやすいでしょうか? 『首から上』の共通項でいうと、耳鳴りにも関係することがあります」

肩こりは、頭皮にも影響

相談者は、ハッと思い出したように尋ねます。

「肩から上の不調といえば、もしかして白髪の増加も…?」

「はい。大いに関係あります。よく、頭皮をトントンと優しく叩いて刺激するヘアケアの方法がありますよね。あれは頭皮の血流を促すためのものですが、頭皮だけをケアしても、その手前にある肩や首のルートが『瘀血』で滞っていれば、栄養は髪まで十分に届きません

「そうか…。あちこちに不調があるように感じていたけど、全部つながっている。では、肩こりの原因『瘀血』のケアができれば、どれもスッキリする、と…?」

「その通りです。まずは、『瘀血』を招いてしまった原因、これを探っていきましょう」

肩こりの「同病異治」2つの原因

「中医学には、同じ症状でも一人ひとりの体質や原因に合わせて治療法を変える同病異治(どうびょういち)という考え方があります。肩こりというひとつの症状でも、その背景に目を向けると、人によって千差万別。生まれ持った体質や、日々のライフスタイルなど、さまざまな要因が絡み合っています」

志村先生は、現代の50代男性に多く見られる、異なる2つの原因を教えてくれました。

ストレスや緊張による「気」の詰まり

「ひとつめは、生命エネルギーである『気』が詰まっているタイプです。日々のプレッシャーや緊張によって『気』の巡りが悪くなると、連動して『血』の巡りも滞る。やがて、全身に栄養を届ける力が弱まってしまう」

「ストレスが原因の肩こり。よくありますね」

「ええ。また、デスクワークで目を酷使したり、長時間同じ姿勢を続けたりする生活も、原因になります。力が入り過ぎていることにご自身で気がついていないと、緩めることも忘れてしまう。就寝中の食いしばりを伴うことも多いですよ。思い当たる節はありませんか?」

「…朝起きた時にすでに、肩まわりがガチガチです」

男性は肩をさすりながら、苦笑いするしかありません。

「解消されなければ、より頑固な肩こりへとつながることもありますよ」

柔軟性がすり減る、枯渇タイプ

志村先生は続けて語ります。

「さきほど、マッサージを受けても、なかなか楽にならない、とお悩みでしたよね。これは、潤いを失ったことから、こわばってしまった結果の肩こりかもしれません。イメージするなら、乾燥して硬くなったビーフジャーキーです」

「ビーフジャーキー⁉ でも、わかる気がします。年齢を重ねるごとに、節々がギシギシときしむような、油を差したくなるようなこわばりを感じることが、増えてきました。

マッサージしてもスッキリしないのは、そのせいか…」

「ええ、こういう方は本当に多いです。このタイプは、『血』の不足も関わりますが、50代以降になると、さらに『腎』の弱りがないかも、同時に目を向けます。

中医学でいう『腎』とは、発育、成長、生殖を司る『生命力の源』です。逆を返せば、『老化』の進行に関わりが深いもの。さらに、『腎』には、『潤い』の素のようなものが蓄えられています。でも悲しいかな、これは年齢と共に少しずつ減ってしまいます。肌の弾力や潤いが減ってくるのもそのせいです。

こうなると、関節の違和感や、節々の固さ、それだけでなく、老眼や、物忘れといった症状も現れてきます。これらはどれも、加齢による老化現象として捉えているものばかりですよね。でも中医学では、『腎』を中心に、地続きのものとしてみています」

男性はつぶやきます。

「『腎』の衰え…。これは知りませんでした。では、『腎』の力を取り戻すために、なにができるのでしょうか?」

「誰しも、老いから逃れることはできません。それと同じように、『腎』の衰えを止めることは、自然の道理に反しています。私たちにできるのは、日々の生活習慣を見直し、衰えを緩やかにするための生活を重ねることです。

例えば、十分な睡眠をとること。とてもシンプルな養生ですが、『腎』のエネルギーは、眠っている間に蓄えられます。ごく基本的なことが、じつは大きく影響します。

あとは、老いていく坂道をゆるやかにするような処方もあります。肩こりは、未病をケアするきっかけとしては、とてもいい入口なので、ぜひ、気軽に相談して欲しいと思っています」

話に耳を傾けていた男性が、言いました。

「人間も自然の一部ですからね。健康を軽んじて、不摂生を続ければ、体が消耗していくのは当たり前か…。中医学は、全体の調和を取り戻すことで、症状への対処ができる。そんなイメージがあります」

今日からできる養生|肩こりは巡らせて治す

では、ここからは体の巡りを、どうすれば循環させることができるのか、考えていきましょう。

「気血」を巡らせる養生

「『瘀血』によって引き起こされる様々な不調にとって、肝心なのは『気血』の巡りです。

・こまめなリフレッシュを心がける
・ハーブティや香味野菜を摂る
・心地よく感じる程度の散歩

大切なのは、体の中で滞っている『気』を動かすこと。短くてもいいので、ストレッチをしたり、ほんの1回、肩回しするだけでも違います。優しくなでるだけでも、『血』の巡りも促され、緊張がほどけていくでしょう。

あなたの場合、山登りが趣味ということですが、山にいるときは、不調を感じることが少なくありませんか?」

「そういえば、そうですね」

「体を動かしているときは、『気血』がよく巡っているから楽になります。山で過ごすときと同じように、日常の中でも巡らすことができれば、もっと心地いい過ごし方ができますよ」

「たしかに、日々忙しくしていると、感情が平坦になっている自分に気がつくことがある。心がのびやかに広がる感覚が生活の中にもあるなら、それはいいな」

「ええ。山登りによって心身のリフレッシュは万全です。それに、基本的な体力もしっかりと備わっていらっしゃいます。無理に追い込むような運動は必要ありませんよ。『あぁ、気持ちいいな』と感じる強度の運動を続けてください。

にこりとして、男性は返します。

「できるだけ長く山に登りたいから、体調管理には気をつけているつもりです」

急性の冷えからくる肩こりには「温める」養生

「最後に、冷房など、外側から冷やされたことに起因する肩こり。これには、まず温めることが先決です。

使い捨てカイロを貼ったり、湯舟に浸かって温めたり。すでに試されている方も多いと思います。

漢方薬でいうと、『葛根湯(かっこんとう)』がこのタイプに向いています。風邪のひき始めに飲むイメージが強いですが、体の表面を温めて発汗を促す力があるため、冷えからくる肩こりや、頭痛にも力を発揮してくれます。

ただし、ストレスや緊張が続くことで起こる慢性的な肩こりには向いていません。お馴染みの漢方薬こそ誤解も多いので、ご自身の肩こりのタイプを見極めることが大切です」

男性は深く納得したように頷きました。

「50代ともなれば、何のメンテナンスもせずに元気でいられる人は、多くないでしょう。自身の体の声を聴き、必要なメンテナンスを重ねていきたい。ぜひ、これからも相談させてください」

相談室をあとにした彼の表情には、風が通り抜けるような、さわやかな笑みが浮かんでいました。

おわりに

肩こりは、体からあなたに届けられる大切なサインです。

「たかが肩こり」と見過ごさず、それを入り口にして体全体の巡りを整えていけば、目や耳、鼻の不調、あるいは髪の悩みまでが和らぎ、さらに健やかな体へとつながる道筋が見えてきます。

少しずつでも自分の体を労わってあげること。それこそが、年齢を重ねてもなお、毎日を長く元気に過ごすための秘訣かもしれません。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

 

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