空前の猫ブームといわれる昨今。でも、猫の生活や行動パターンについては、意外と知られていないことが多いようです。人間や犬の行動に当てはめて考えて、まったく違う解釈をしてしまっていることも少なくありません。昔から猫を飼っているから猫の性格や習性を熟知していると思っていても、じつは勘違いしていたということが結構あるようです。

そこで、動物行動学の専門医・入交眞巳先生(日本獣医師生命科学大学)にお話を伺いながら、猫との暮らしで目の当たりにする行動や習性について、専門的な研究に基づいた猫の真相に迫っていきます。

猫が落ちている季節になりました。

猫が落ちている季節になりました。

人間が暑ければ、猫だって暑いと思っている

毎日暑いですね。梅雨開け以前から30度を超える日があったりして、暑い日が続いていますね。今年は日本のみならず、世界的な猛暑になるのだとか。人間も暑さでぐったりですが、寒がりといわる猫たちだって、こんな暑さはつらいと思います。

猫(イエネコ)のご先祖様はアフリカ出身のリビアヤマネコといわれていますから、遺伝的に暑さには強い生き物です。猫の平均体温は38度~39度くらいで、自分の体温に外気の温度が近くなればなるほど、暑いと感じるようになります。一般的には、気温が30度くらいになると、猫も暑いと感じ始めるようです。

人間なら水を飲んだり氷を食べたり、部屋のクーラーを入れたりして体温を下げるとか、塩分とるなどして熱中症を避ける工夫をすることができますが、人間が「暑い!」と思うような時には、飼い猫の管理もしっかりしてあげないといけないですね。人間の寒い暑いは、猫の適温を考える上である程度の基準になるかと思います。

「暑い!」と感じている時、猫はパンティングといって、舌を出してハァハァと激しく呼吸をします。でも、それは既にかなり危ない状況と思った方がいいです。犬はよくパンティングをして体温調整をしますが、猫は普段は肉球などから汗を蒸発させて体温調整しますので、あまりパンティングをしません。猫が犬のようにパンティングをしていたら、それは肉球での体温調整では間に合わないくらい暑いと感じている、ということです。

猫のパンティングを見たら、まずは涼しい場所に連れて行ってあげて下さい。体を冷やすことが第一ですが、猫に水をかけるわけにもいきませんから、とにかく涼しい場所に避難させて下さい。

それでも収まらない、ストレスからか食欲もない、水も飲まないといった状態でしたら、獣医さんに連れて行って、点滴を打ってもらうなりした方が良いでしょう。

人 間の子供だって同じですよね。熱があると思ったら、まずは頭や脇に氷枕などを入れて冷やし、それから病院へ行きます。それと同じで、猫も、パンティングしていたら、何よりまず涼しい場所へ。それから必要であれば動物病院に行く支度をして下さい。

でも、「パンティングをしたら暑いんだな」では本当は遅いのです。そこまで待つのではなく、事前回避することが大事です。人間が暑いなと思ったら、猫も当然暑いのだと思った方がいいでしょう。

動物病院に行くと高いからといって連れていかない人もいますが、まずいなと思ったらやはり動物病院へ連れて行くべきです。それが飼い主さんの責任ですし、獣医さんの診察料が高いから連れていかないという人は、動物を飼わない方がいいと思います。

わさびちゃんちで一番クールな一味ちゃん「北海道は涼しいっていったって、限度があるわよ」

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猫自身が逃げられない構造は危険

猫(イエネコ)は野生動物ではなく、人間と暮らす動物(家畜)ですから、人間が暮らせる温度で大丈夫なはずです。みなさんよくご存知のように、猫は寒い冬には家の中で一番暖かい場所を知っているし、暑い夏には家の中で一番涼しい場所を探してそこでじっとしていたりします。玄関の冷たい床の上にいたり、普段あまり日がささない廊下の隅の方にいたり。暑くなってくると、出してあげた氷を舐める猫もいますね。

暑 い夏、エアコンをガンガンきかせて室内を冷たくしたい人もいるかと思いますが、猫は寒いと感じたら、自分から布団に潜ったりして暖かい所に避難し、自分で体温調整をします。

でも、エアコンの下に置いたケージに閉じ込めるなど、寒くても逃げ場がない、なんて状態ですと、当然ながら風邪をひいてしまいます。

動物病院などに車で連れて行って、途中でちょっと買い物を、なんていって猫を車の中に閉じ込めておくとか、仕事などで家を出る際、家の中が密閉された状態で、なおかつ猫をケージに入れておくなどする場合も要注意です。

暑い時でも寒い時でも、猫が逃げられない状況を作ってしまうのは危険です。猫自身が暑いとか寒いとか思っても、逃げられない状況に置かれていたら、猫は体温調整ができなくなってしまいます。

家の構造にもよりますので一概にはいえませんが、窓の外に木があって木陰ができるような家でしたら少し窓を開けておくとか(もちろん、泥棒さんに入られないような窓や環境という前提です)、直射日光が入って室温がかなり高くなるようなマンションのお宅などでしたらカーテンを閉じて28度など高めに設定したクーラーを弱風でつけておくとか、エアコンのタイマーを活用するとかいった方法もあるでしょう。

何より、猫が自分の意志で場所選びができるようにしてあげることが大事です。

わさびちゃんちの保護猫だっこ&おんぶ「寒いのイヤ、暑いのイヤ、ちょうどいいのが好きです」

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犬や猫が体を冷やすことができるクールシートなども市販されていますので、そういったものも上手に活用するといいかと思います。涼しい場所にクールシートを置いておけば、猫は暑くなったらその上に乗って体を冷やすでしょう。

ただ、クールシートは、少ない空気を集めて冷やすものですので、室内の空気そのものが暑ければ、商品自体が冷えません。密閉された部屋や車内に閉じ込めておいて、クールシートを1枚置いておいても意味がありません。

とにかく、人間の赤ちゃんや高齢者が家や車の中にいる場合、どうするか。それと同じだと思って下さい。猫も大切な家族の一員です。しっかりと様子を見て、暑い夏でも猫が快適に過ごせるよう工夫をしてあげて下さいね。

入交眞巳さん

指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。

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累計21万部を突破した「わさびちゃんシリーズ」の 第1弾『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊)。

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

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