今の若手社員は出世欲が低下しているという。特に日本は顕著だという結果が出ているという。リーダーシップとマネジメントに悩む、マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、なぜそうなのか、その理由を知ろう。
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「出世」というニンジンは、何のモチベーションにもならない
今の若い世代は「出世欲」がない、とよく言われます。
仕事に関しては「成果を認められたい」という気持ちは強くあるようですが、必ずしも出世という形に繋がらなくても良いようです。
一般論としてよく言われる、このような「今の若者」の仕事観ですが、本当なのでしょうか。各種統計から探ってみましょう。
出世欲はアジア最低
パーソル総合研究所が、アジア太平洋地域(APAC)14の国、地域の主要都市で働く人の実態や意識などについてのアンケート調査結果を発表しています[1]。
対象は、
1.中国(北京、上海、広州)、2.韓国(ソウル)、3.台湾(台北)、4.香港、5.タイ(バンコク)、6.フィリピン(メトロマニラ)、7.インドネシア(ジャカルタ)、8.マレーシア(クアラルンプール)、9.シンガポール、10.ベトナム(ハノイ、ホーチミンシティ)、11.インド(デリー、ムンバイ)、12.オーストラリア(シドニー、メルボルン)、13.ニュージーランド、14.日本(東京・大阪・愛知)
の国と地域です。
この中で、日本の際立った特徴が現れました。
管理職志向・出世意欲の低さです。
日本は「管理職になりたい」人が全体の21.4%で、これは調査対象14の国・地域の中で最下位でした。
裏を返せば、残りの78.6%は、積極的な管理職志向がないということです。
現在の管理職の姿を見て、羨ましさや憧れを抱く若者は非常に少ないとも言えます。
役職にも興味なし
役職への興味のなさは、深刻なようです。
こちらは日本生産性本部が新入社員を対象に、働くことの意識調査をおこなったものです[2]。
「どのポストまで昇進したいか」という質問に対する答えは、10年前と大きく様変わりしています。
最も多かったのは「専門職<スペシャリスト>」が17.3%でトップでしたが、次に多いのが「どうでもよい」の16.0%というものです。
そして下の2つの回答が、10年前(平成21年度)から大きくポイントを伸ばしているのです。
・役職にはつきたくない 4.5% → 6.9%
・どうでもよい 11.7% → 16.0%
昭和の世界では、「出世コース」は羨まれたものです。
しかし今、彼らは、仕事をするにあたって何を求めているのでしょうか。
このアンケートの他の設問を見ていきます。
・働く目的は、「楽しい生活をしたい」が最多で39.6%。年々増加傾向にあります。
・人並み以上に働きたいか、という質問に対しては「人並みでじゅうぶん」が最多で63.5%。これは過去最高を更新しています。
そして、
「若いうちは自ら進んで苦労するぐらいの気持ちがなくてはならないと思いますか。それとも何も好んで苦労することはないと思いますか」
という問いに対しては、
「何も好んで苦労することはない」が37.3%でこちらも過去最高を更新しています。こちらは、平成23年度から急激に上昇しており、同時に「進んで苦労すべき」という回答数は急減しています(図1)。
一方、会社の選択理由として上昇傾向にあるのが、「能力・個性を活かせる」(29.6%)で最多です。
こちらも、昔なら、「能力・個性を活かせる」=「出世」と考えてしまうかもしれません。
しかし、「苦労」や「出世」といったとき、それらの言葉の定義や捉え方が、マネジメント側と若者では大きく違う、と認識しておいた方が良いでしょう。
「苦労」とは何なのか
「苦労」とは何なのか、ということについて考えてみましょう。
バブル世代のいう仕事での苦労は、「不眠不休」と「上司の機嫌取り」が「苦労の証」であり、ストレス発散のために同僚と深夜まで飲む、さらに不眠になる、という生活です。
そんな自慢話をしてしまうのではないでしょうか。
しかし、彼らからすれば「大間違い」です。
彼らにとっての苦労は、そもそも「上司に合わせること」「怒られないこと」なのです。
上司とは「接すること」そのものを避けたいのだと言い換えても良いでしょう。
必要な時だけ話をしたく、あとはできればメールで。仕事外となるとなおさら関わりたくない。
上司との距離については、ご機嫌取り以前の段階にいるのです。
もちろん、長時間労働を嫌います。
「楽しく生活するため」に働いているからです。
次元が違うと考えた方が良いでしょう。
かつては、「良い大学にいって良い会社に入る」という考え方を誰も疑うことなく、そのために、志望大学の座席も「勝ち取る」ものでした。
よって、会社でのポストも「争い、勝ち取る」ものでした。
しかし、今や大学全入時代です。「みんなが行くから」大学に行っている節もあります。
会社でも、「何かを勝ち取る」というよりは、「周囲に置いて行かれない程度に無事に過ごす」ことが最優先なのです。
「居残り上司」が空気を澱ませる
筆者も若くはありませんが、会社員時代に、ある光景を見て「おぞましい」と思ったことがあります。
自分の上司は、基本的に残業を強いる人ではありませんでしたが、忘れ物を取りに会社に戻った時、部屋に入ってとても嫌な気持ちになりました。
「おじさんたち」がわんさか会社にいるのです。
期末でもなければ、株主総会が近い訳でもないのに。
「何となく」いるのです。しかも、残業代の出ない立場の人ばかりが。
何をしているかというと、何となく新聞を読んでいたり、テレビを見ていたり、週刊誌をめくっていたり。
疲れ切った人たちが放つ、独特の空気が部屋にあふれていて、見たくないものを見せられた気分になってしまいました。
「仕事大好き」「会社大好き」の世代の習性なのかもしれません。
しかし、「この人たち、家に帰りたくないのかなあ。奥さん怖いのかなあ」「毎日楽しくなさそうだなあ」とまで感じてしまいました。
現代の若者であれば、こんな思いに加えて、
「しょうもないことでダラダラ居残りされているせいで、帰りづらい無駄な時間を過ごしている」という気持ちも湧きます。
まさに「余計な苦労」なのです。
「業務外だから、今こそ積極的に話しかけよう」ともなりません。
そういう空気ではないですし、残業を頼まれたくもないからです。
部下に見せるべき上司の姿
逆に、別の部署では、上からも下からも愛される部長がいました。
彼の面白さは、「まず自分を開く」ことから始まっているところにあります。
当時、部員の予定を共有するために、部署内ではGoogleカレンダーを使っていたのですが、その使い方がまた独特でした。
熱烈な阪神ファンの彼は、このカレンダーに阪神戦の全日程を書き込んであるのです。
そして、直接観戦に行く日は定時と同時にユニホームを着てスタコラサッサと出て行ってしまいます。
部員にとっては、「今日は部長、神宮の日だから、要件は早めに伝えておこう」と合理的な判断ができるメリットがあります。
ただ、最大の特徴は、彼自身が私生活を大事にしていることがよく伝わってくることでしょう。
こういう姿を見せられると、周囲も、ちょっと早めに帰りたい、昼休みに病院に行きたい、と行ったことを伝えやすく、私生活と溶け込む時間の使い方ができます。
そして、彼のもう一つの心がけは、定時になると「解散!」と宣言することです。
もちろん、自分の仕事が残っていれば、居残りしても何も言いません。
家に帰っていたら間に合わない、という理由で自分が会社のテレビで野球を見るために残る時は、定時をすぎるとユニホームに着替えてしまいます。
実は彼は、これを「わざと」やっているのです。
「定時」と「残業」の間に、明確な区切りをつけるためです。
すると、「定時」の間に集中して仕事を済ませ、気分良く帰ろう、という気持ちも出てきます。
そして、部下を飲みに誘ったりもしない人でした。
帰れる日は帰り、家族と夕食を共にしているのです。
その代わり、彼は毎日弁当持参だったので、昼休みは間違いなく席に着いていることを皆が知っています。
何か話したいことがあれば、昼休みに必ず捕まえることができる、というところまでハッキリしているのです。
ところで、朝日生命が、経営者にもいくつか質問を用意したアンケート調査をおこなっています[3]。
その結果の一つが、経営者の半数近くは、平日に4~5日、家族と夕食を共にしている、というものです。
具体的には、
・週4~5日 45.5%
・週2~3日 35.1%
・週0~1日 19.5%
となっています。
あなたはどうでしょうか?
この数字を見て驚いてしまったマネジメントは、かなり時代に置いて行かれているかもしれません。
社員のモチベーションを高め、仕事に前向きに取り組むためにマネジメントは何をなすべきなのか。
その一つの意外な答えが、読み取れるデータであると言えそうです。
[1]「パーソル総合研究所、日本の「はたらく意識」の特徴を国際比較調査で明らかに」(パーソル総合研究所、2019年8月)
https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001.html
[2]「 平成31年度 新入社員働くことの意識調査結果」(日本生産性本部、2019年6月)
https://activity.jpc-net.jp/detail/add/activity001566.html
https://activity.jpc-net.jp/detail/add/activity001566/attached.pdf
[3]「働き方意識調査アンケート」調査結果(朝日生命保険相互会社、2017年10月)
https://www.asahi-life.co.jp/company/newsrelease/20171030.pdf
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いかがだっただろうか。会社のために粉骨砕身をモットーに働くような上司のいる会社はブラックとされる時代。そんな上司になるのは嫌だ、と思う若手社員がいるのもむべなるかな、である。公私を分けて、自分の生活を充実させるような仕事をするような上司の多い会社こそ、若手が育ち、未来の明るい会社、といえるのではないだろうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/