文/鈴木拓也
定年後は外部との交流が激減し、会話の相手は奥さんくらいしかいないというシニア男性は非常に多い。図書館で本を読んだり、スマホをいじったりして時間はつぶせるかもしれないが、話す機会が減ることで、一気に老けるのが「声」だ。
普段は意識されないが、声を出すには声帯、のど、肺、舌、顔にある筋肉を使う。声を出さないで暮らしていると、そうした筋肉は衰えてゆき、加齢と相まって、いかにも「年寄りじみた」声へと変わってゆく。
「声の老化は(のどを含めた)呼吸器系が老化してきたサイン」だとも言うのは、池袋大谷クリニックで呼吸器系を専門とする大谷義夫院長だ。
大谷院長が、会話の少ないシニア男性について危惧するのは、誤嚥性肺炎のリスク。発声と嚥下は共通した筋肉を使うため、発声能力の低下イコール嚥下能力の低下となり、食べ物を飲み込む力が衰えて、誤嚥性肺炎にかかりやすくなる。
肺炎は、今も日本人の死亡原因の上位を占めるが、肺炎で亡くなった高齢者の7割以上は誤嚥性肺炎。大谷院長は「のどが老け込んでいると早死にします」と、著書『医師が教える「1日3分音読」で若くなる!』で書いているが、あながち大袈裟な話ではない。
一方、本書の中で大谷院長は、のどの老化は防げるとも述べている。その対策が、文章を声に出して読む音読トレーニングだ。以下、このトレーニングを少し詳しく紹介しよう。
■音読トレーニングの基本
大谷院長がすすめる音読トレーニングとは、朝昼晩に1分ずつ、1日3分文章を読むだけという、いたってハードルの低い方法。
毎日行うのが大事なため、できるだけ無理なく容易にできるようにした結果、たった3分しか要しないトレーニングにしたという。
「簡単すぎると思われても、毎日朝昼晩、コツコツと続けることで、着実にのどや肺が鍛えられ、声が若返って、誤嚥することも減っていきます」(本書119pより)
ならば、長時間やればより早く効果が出るかと思いきや「のどを傷め、トレーニングどころか逆効果です」とNG。毎日少しずつを心がけよう。
■よい姿勢で行う
音読トレーニングは、立っても座っていても行えるが、姿勢について注意点がある。それが、「まっすぐ、いい姿勢」。
立って行う場合、「耳、肩、太ももの付け根の骨張った部分(大転子)、くるぶしが一直線になるように」、座って行う場合、「椅子に深く腰かけ、背中をまっすぐ起こし、胸を張って」読むように指示している。言い換えれば、猫背はダメ。この姿勢だと、呼吸筋が十分に動かせず、深く呼吸できない。
■腹式呼吸で行う
音読の際は、(胸が膨らむ胸式でなく)お腹を膨らませる腹式呼吸をする。息継ぎの際に、お腹が膨らむのを感じながら読むのが、発声に関係する筋肉を鍛えるのに大事だという(うまくできない場合、本書に腹式呼吸の手引きがある)。
■滑舌に気をつけ、ゆっくりと大きな声で行う
意外と見落とされがちなのが、トレーニングの最中の読み方。高齢者の会話に多いボソボソとした感じでなく、「滑舌よく、口を大きく動かして、のどや舌、顔の表情筋まで使って」声を出す。これで、喉頭筋、舌筋、表情筋もまんべんなく鍛えることができる。
■どんな文章を読むべきか
本書にはサンプル的に、夏目漱石の「坊ちゃん」や「草枕」のような文豪の小説、「平家物語」や「方丈記」といった古典などから、読めば1分程度の分量の文章が掲載されている。
名文にこだわる必要はなく、自身のお気に入りの1冊を少しずつ読み進めるなど、続けやすいやり方でよいという。
■「呼吸筋ストレッチ」も行って効果を増強
音読とは別に、呼吸筋を鍛えるメソッドもいくつか載っているが、その1つが「呼吸筋ストレッチ」
これにはタオル1枚あればよく、2週間くらいで効果が現れるという。音読トレーニングにプラスして行えば、より早く肺年齢の若返りが期待できそうだ。やり方は以下のとおり。
1. 両足を肩幅に開き、タオルを肩幅の広さで両手に持ち、横隔膜を意識して、ゆっくりと息を吸いながら腕を持ち上げる。
2. 横隔膜を意識して、息を吐きながら腕を下す。
3. 息を吸って腕が上がった状態から、息を吐きながら、体を右にゆっくり倒し、左わきを伸ばす。
反対側も同様に行い、2分間ほど繰り返す。
* * *
大谷院長は、「いまさら何をやっても、どうせ変わりばえしないだろう」と諦めるのが一番良くないと諭す。本書に掲載の方法に難しいものはないので、声の老け具合が気になる方は実践してみよう。
【今日の健康に良い1冊】
『医師が教える「1日3分音読」で若くなる!』
(大谷義夫著、本体1,400円+税、さくら舎)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。