昔ながらの昭和の香りが漂う喫茶店、若者に人気の瀟洒(しょうしゃ)なカフェ、低価格のコーヒーショップ。いずれの店でも高確率で出会える洋菓子、それが「チーズケーキ」です。
老若男女、幅広い世代に好まれる洋菓子。オーブンで焼いたベークドチーズケーキもいいですし、ゼラチンでかためたレアチーズケーキも冷たくて滑らかで、舌にやさしい。食事の合間にいただけば、ほどよく空腹も満たしてくれます。
時代を遡(さかのぼ)れば、世界で最初にチーズケーキが誕生したのは、紀元前の古代ギリシャという説があって、驚きです。歴史が古いだけに、チーズケーキの仲間は、世界でも広く愛されています。
フランスでは、「ガトー・オ・フロマージュ・ブラン」と呼ばれる、日本のベークドチーズケーキに近いタイプのほか、地域ごとに様々な名品があります。タルト生地が下に敷かれるのはアルザス地方のもの。ポワトゥ・シャラント地方の「トゥルトゥ・フロマジェ」は、石窯(いしがま)で真っ黒に焼かれる珍しいチーズケーキです。
イタリアでは、チーズの生成過程で出た「ホエー」を煮つめてつくるリコッタチーズを使う菓子が多いです。なかでもナポリ地方の名物「スフォリアテッレ」は、貝殻の形をした絶品のチーズパイ。定番の「ティラミス」にも、マスカルポーネという生クリームのようなフレッシュチーズが用いられています。
ロシアには「パスハ」というレアチーズケーキがあるほか、「ブリヌイ」というパンケーキにも、チーズを入れて焼きます。
さて、日本のチーズケーキはというと、1969年、洋菓子メーカー「モロゾフ」が発売したものが最初という説が有力です。そのことから、日本のベークドチーズケーキの原形は、ドイツの「ケーゼ・クーヘン」だといわれています。
たった半世紀ほどの間にここまで市民権を得た菓子の背景には、世界中の人に愛されてきた歴史があったのですね。
文/大沼聡子