文/鈴木拓也
「疲れがとれず、意欲がわかない」、「白髪が増えた」、「夜起きて2回はトイレに行く」といった、加齢に伴い多くの人たちが経験する心身の変化。
不可抗力の面もあるが、中国の伝統医学の「抗衰老」(老化を食い止める)の考えでは、こうした望ましくない変化は遅らせることができるという。
特に「腎」をケアすることで、抗衰老ができると説くのは、日本中医薬大学講師で薬膳料理家の阪口珠未さんだ。
ここで言う腎とは、中国医学の五臓(肺、心、脾、肝、腎)の1つで、腎臓とは異なる。阪口さんは著書の『老いない体をつくる中国医学入門』の中 で、腎は先天的な生命エネルギー、すなわち「腎精」を蓄えている所だと説明する。
この腎精は日々使われていき、枯渇してくると、耳が遠くなり、骨がもろくなり、物忘れがひどくなるなど、典型的な老化の兆候が出始める。そして、腎精が残りゼロになったら死が訪れる。
黙っていれば減ってゆく腎精を「チャージしていけるかどうかが、体を若々しく保つ決め手」になると、阪口さんは力説する。そして、腎精は、特定の食材によってチャージできるという。
どのような食材が腎精をチャージしてくれるのだろうか。本書で紹介されているものから、幾つか取り上げてみよう。
■山芋(長芋)
古来日本では、山芋は「精をつける」食べ物として扱われてきたが、中国の薬膳でも腎精をチャージする食材として重宝されている。そして、「腎の消耗による疲労感や冷え、更年期の不定愁訴のほか、胃腸の働きが低下し食欲がない、下痢しやすい、細かいことが気になる、睡眠の質が悪い」などのトラブルに効くと、阪口さんは述べている。
歴史上の人物としては、ストレスと加齢による諸症状に苦しめられていた西太后が、山芋の入った蒸しケーキを食べて、劇的に改善したという例が引き合いに出されている。
本書では、山芋を使ったレシピが幾つか掲載されている。例えば、輪切りにした山芋とみじん切りにしたニンニクをオリーブオイルで炒めて、酒・醤油で味付けした「山芋ステーキ」など、誰でも作れるシンプルなもの。
■海藻(昆布、ワカメ、モズクなど)
阪口さんは、海藻も腎精をチャージする食材として「40歳を過ぎたらぜひ1日1皿の海藻を」とすすめている。
漢方では海藻は、「利尿作用・しこりを柔らかくする作用があるとされ、むくみをとったり、腫瘍やできものの治療」に用いられ、秦の始皇帝は昆布を不老不死の薬の材料とみなしていたという。
食べ方としては、野菜サラダに加えるなどシンプルな方法でよいそう。
■ナッツ(クルミ、アーモンドなど)
現代医学・栄養学でもその効用が見直されているナッツ。阪口さんは、複数種のナッツを毎日少量摂ることで腎精がチャージされ、抗衰老が期待できると大いに推奨する。
また、(厳密にはナッツではないが)薄皮付きピーナッツや黒ゴマも、抗衰老食材として紹介されている。
■魚介類
魚、貝、イカ、タコ、エビは、いずれも腎精をチャージする働きがあるという。中でも阪口さんが「最強」と呼ぶのが牡蠣。次いで、ホタテやシジミを挙げる。そのほか、干しエビや天然のサケが勧められている。サケは缶詰でもかまわないが、養殖モノは効果が乏しいので注意が必要とのこと。
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『老いない体をつくる中国医学入門』ではこのほか、キノコや骨つき肉などスーパーで買える食材がいろいろと登場して、実践は容易。ただし、腎精を増やそうとドカ食いするのは禁物だとする。阪口さんは、「食べすぎて消化しきれなかったものは、体に溜まり、血を汚し、エネルギーの流れをせき止める毒」にしかならないと戒める。やはり、腹八分目は中国の伝統医学においても、守るべき原則なのは変わらない。この点をふまえて、腎精チャージにトライしてみよう。
【今日の健康に良い1冊】
『老いない体をつくる中国医学入門』
https://www.gentosha.co.jp/book/b11952.html
(阪口珠未著、本体800円+税、幻冬舎)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。