文/一乗谷かおり
猫の歯周病――実はとっても怖いんです。人間なら歯磨きをしたり、自分で歯医者に行って自発的に予防したり治療したりすることが可能ですが、猫の場合はどうしたらいいのでしょうか。
同じように口に食べ物を入れて、歯で噛んで食べている愛猫さんは、歯磨きをしなくてもいいのでしょうか。
いえ、そんなことは決してなく、むしろ愛猫さんこそ、人間以上にしっかりと歯磨きをした方がいいのです。
歯周病を放置すると危ない!
人間の口の中は弱酸性~中性で、唾液にはデンプンを糖に分解するアミラーゼが含まれています。いっぽう、猫の口の中は弱アルカリ性。アミラーゼが含まれておらず、人間よりもずっと早いスピードで歯垢が歯石に変わってしまいます。
人間の場合はおよそ25日ほどで歯垢が歯石に変わりますが、猫ちゃんは1週間ほどで歯石化。人の約4倍弱のスピードです。(犬は更に早く、3~5日で歯石になります)
人間でも歯垢は歯ブラシで磨けばとれますが、歯石は歯医者さんに行ってとってもらわなければなりません。猫ちゃんの場合は動物病院に連れて行き、身体に負担の多い麻酔をして歯石をとってもらうことになります。
以前、筆者がボランティアをしていた保護猫シェルターにいた高齢猫さんが、ごはんを食べている時にいきなりボロっと歯が抜け落ちてしまったのを見たことがありました。シェルターにやってくる前から悪かったようですが、膿が出ていて、とても痛そうでした。すぐに治療してもらいましたが、もっと早く気づいてあげていればと後悔したものです。
つい最近、筆者の飼い猫も歯茎から血が出ているのを見つけたため、動物病院に連れていき、歯石除去手術をしました。膿が出るまで放ってはおけないと、過去の反省からです。本当は子供の頃から歯磨きをさせていればなお良かったのですが…。
歯石ができると、歯周病菌が増え、やがて歯周病になってしまいます。歯周病が進めば、歯が痛い、食べづらい、口が臭い、血が出るというだけではすまされません。歯の周りの骨が溶けてもろくなり、とても薄い顎の骨などを骨折してしまうこともあります。
また、猫の歯を支える骨は目のすぐ近くにあります。小さなお顔ですから、最も接近している部分で3ミリ程度しか離れていません。歯周病が悪化すると歯の周りが炎症し、目の下に穴が開いてしまうこともあります。脳にも非常に近く、歯肉炎でできた膿が脳に回ってしまう危険さえあるのです。
何より、食べられなくなるというのは、死にも直結する重要な問題です。愛猫さんと長く一緒に暮らすためにも、見落としがちな歯周病も充分気にかけてあげる必要がありそうですね。
人間でもそうですが、猫もやはり高齢化とともに歯周病になりやすいものです。7歳以上が高齢猫ですが、実は3歳以上の猫の約8割が歯周病予備軍といわれています。放置すればするほど歯石が増え、歯周病菌が繁殖し、ボロボロになってしまいます。
愛猫さんのステップバイステップ歯磨き
なってからでは遅いのもまた事実。できれば、今日からでも愛猫さんの歯磨き習慣を始めたいところです。
一番いいのは、まだいろんなことが未経験で、よくわかっていない子猫の頃から歯磨き癖をつけてしまうこと。当たり前の日課になれば、嫌がることもありません。
でも、成猫になってからうちに迎えたという猫ちゃんもいるでしょう。「今日から歯磨きしようね!」といったところで、すんなり聞いてくれるかどうか…。中には、普段はすごく甘えん坊なのに、ちょっとでも嫌なことをされると大好きな飼い主さんにさえもものすごい勢いで威嚇をしてしまう猫さんだっています。小さな生き物ですがさすが肉食獣、歯で噛まれて大けがを負わないとも限りません。
そこで、安心な歯磨き習慣導入方法をご紹介したいと思います。愛猫ちゃんが歯磨き猫になるまでのステップを紹介していきましょう。
(1)まずは口の周りを優しく触り、歯にも触れたりして徐々に口を触られることに慣れてもらいます。その際、おやつなどを与えて良い印象を植え付けます。そして、思いっきり褒めてあげます。「いい子だね、えらい!」「よく頑張ったね!」と声をかければ、これをすると飼い主さんは喜ぶし、自分もおやつがもらえて嬉しい、と思わせるのです。
おやつは、肥満が気になる子には低カロリーのものを与えるなど工夫をして下さいね。
(2)歯を触られても平気になってきたら、湿らせたガーゼや、ペットの歯磨き用シートを指に巻き付けて、少しずつ、歯を触ってみます。うまくできるようになったら、小刻みに指を動かして優しくこすります。徐々に奥の歯も磨くようにします。
(3)歯磨きという行為にすっかり慣れたら、ペット専用の歯ブラシで磨いてみます。歯垢をできるだけ取るように、1本1本丁寧に磨きます。
慣れるまで、とにかく愛猫さんのペースで辛抱強く磨けるよう慣れさせていくことが大切です。少しでも嫌そうな時は、すぐに中断。そして、お利口にできた時にはしっかり褒めてあげましょう。
基本は上記の3ステップですが、例えば(2)の代わり、あるいは(2)と(3)の間に使えるスポンジタイプの指サック歯ブラシなどもあります。シートよりも弾力があって歯の隙間に食い込むため、歯の隙間の汚れも取れるものです。
また、指にすっぽりはめることができるタイプのペット用歯ブラシもあります。樹脂製で指サックの先にブラシがついたタイプなら、柔軟性もあるので、指で磨いているような感覚で便利です。万が一磨いている途中でびっくりさせて噛まれたら怖いという方も、これなら安心して使えます。(3)の手前の段階でも使ってブラシに慣れてもらうのもいいかもしれません。
他にも、世の中には実にいろんな種類の猫用歯ブラシ用品があります。噛んでいるだけで歯磨き効果のある玩具もあれば、大き目のつぶつぶ粒子が入った歯磨きおやつもあります。猫ちゃんにとっておいしい味のする歯磨き粉もありますよ。
猫は気まぐれだし、言うことをきかない、なんて最初から無理だと諦めないで、オーラルケアにチャレンジしてみて下さい。大切な家族の愛猫さんに、健康的に、少しでも長く元気でい続けてもらいたいなら、お口のケアも大切に!
文/一乗谷かおり