文/中村康宏

前回お話したように、生活習慣病やがんを含む加齢関連疾患に共通するメカニズムとして注目されているのが「慢性炎症」です。その特徴として、「老化」に伴って慢性炎症が起きやすくなることが挙げられます。

近年の研究で、この老化と炎症をつなぐメカニズムが明らかになってきました。今回は慢性炎症の原因と特徴、その予防について解説します。

*  *  *

老化に伴って慢性炎症が起きやすくなる背景として、(1)免疫の変化(2)細胞の老化(3)全身的な要因、の3つの要因が寄与していると考えられています。

(1)免疫力の変化:死んだ細胞の「食べ残し」が増える

老化に伴って、死んでしまう細胞が増えます。死んだ細胞は免疫細胞の1種類である「マクロファージ」と呼ばれる細胞によって迅速に処理されます。

ここで言う「処理」とは、マクロファージには異物を掃除する役割があり、死んだ細胞を食べてその場から消してしまうことを指します。しかし、加齢に伴ってマクロファージの機能が低下すると、死んだ細胞の「食べ残し」が生じてしまうのです。

死んだ細胞のカスは免疫細胞が働く刺激となり、炎症が収束しなくなります。その結果、慢性的に炎症が続く状態になるのです(※1)

(2)細胞の老化:老化した細胞が蓄積される

老化した細胞は、「細胞老化関連分泌因子(SASP因子)」と呼ばれる炎症シグナルや老化シグナルを分泌するようになります。これらによって、マクロファージなどの免疫細胞が呼び寄せられ不要な老化細胞は、カラダからキレイに消えてしまいます。

しかし、この老化した細胞がそのまま長期に生体内に生存し蓄積すると、SASP によって炎症シグナルが分泌され続けます。するとその周囲の組織に炎症反応や発がんの促進を引き起こす生体にとっては、好ましくない環境を作ってしまうのです(※2)

(3)全身の変化:蓄積した脂肪が炎症を誘導する

加齢に伴う全身的な代謝や内分泌系の変化も、炎症を促進する可能性があります。例えば、閉経などによるホルモン濃度の変化によって慢性炎症が誘導されることがわかっています(※3)

また、肥満は内臓脂肪組織を始めとして様々な組織に炎症を誘導することがわかっています。加齢により、本来脂肪をためておく場所である「皮下脂肪」の機能が低下し、皮下脂肪の量が減ると、行き場所を失った脂肪組織は内臓脂肪や本来脂肪が蓄積しない組織(肝臓、筋肉、骨髄など)に蓄積するようになります。すると、皮下脂肪以外の場所に蓄積した脂肪は、その組織で炎症を誘導することが明らかとなっています(※4)

このように、加齢に伴う様々な要因が、慢性炎症を引き起こしているのです。40代後半から50代にかけて急激に病気が増え始める背景には、症状として現れない慢性炎症が関与していたのです。

慢性炎症が起きると老化が慢性炎症を起こし、慢性炎症がさらに老化を加速させるという負の連鎖に陥ってしまいます。これも慢性炎症の厄介なポイントです。

慢性炎症は細胞レベルの老化を促進する

慢性炎症はDNAの損傷をもたらし、遺伝子レベルでの細胞老化をもたらします。すると、細胞老化が始まり、生きた細胞の成長と分裂が止まるため、体内の組織が再生したり自己修復する能力が制限されてしまいます。

細胞老化が進むと、組織の機能は低下していき、さらに上述のSASP因子の分泌も増えることになり、さらに老化が加速し慢性炎症も増悪する、という悪循環に陥ります(※2)

慢性炎症は全身に飛び火する

ある場所に慢性炎症があったとしましょう。例えば「歯周病」は、歯周組織における歯周病菌の感染で発生する慢性炎症です。そこで産生された「炎症性サイトカイン」と呼ばれる炎症シグナルは、血液や血管を介して他の臓器へと影響します。

具体的に、歯周病による炎症は、血管の炎症を引き起こし、動脈硬化を促進すると言われています(※5)

このように慢性炎症は、炎症のある組織に留まらず、血液や血管を介して、実にさまざまな全身の臓器へ影響を及ぼすことが分かってきました。

気長に慢性炎症を抑える努力が健康長寿に直結する

20〜30代では周りはみんな同じような体型・肌のつや・健康状態をしていますが、80歳になると元気な人から寝たきりの人まで病気の有無・認知レベル・活動範囲などのどれをとっても個人差はとんでもなく広がります。これは、慢性炎症をはじめとする体を蝕む反応を日々どれだけ抑えてきたかによって、長い年月をへて大きな差として現れるからです。

何にでも当てはまることですが、小さな努力は、すぐに実感できるような大きな変化をもたらしません。しかし、大きな変化とは、あくまでも結果であり、その結果に至るまでの毎日の地道な努力の積み重ねが、将来の自分を変えていけるのです。このことを認識して気長に慢性炎症に取り組む必要があります。

慢性炎症を防ぐためには

これまでの説明のように、カラダのどこかに炎症があれば、それは全身に飛び火する可能性があります。加齢による機能低下は避けようがない部分ではありますが、肥満、歯周病、喫煙習慣など炎症の元となるものを改善することで、慢性炎症の悪循環を軽減することができます。

また、慢性炎症と酸化ストレスはニワトリと卵のような関係ですので、ポリフェノールやビタミンC等を多く含む抗酸化物質・食品を積極的にとるようにしましょう。

炎症を抑えるものとして注目を浴びているのが「ω-3(オメガスリー)多価不飽和脂肪酸」です。脂肪酸はその形態から「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分類されます。魚油に豊富に含まれる「EPA」や「DHA」などのω-3多価不飽和脂肪酸は、抗糖尿病・抗動脈硬化作用を有するホルモンの産生促進作用や免疫細胞への作用などを有し、炎症を抑制する効果が明らかになっています(※6)。明確なメカニズムは研究段階ですが、心臓病の発症を抑制したりリウマチ症状を改善することなどが証明されており、その効果が期待されています(※7)

*  *  *

以上、今回は慢性炎症を起こす原因、特徴、そして予防について解説しました。

その原因からもわかるように、慢性炎症は年齢とともに起こりやすくなるため、生きている限り細胞機能・臓器機能の低下はまぬがれません。しかし、それを軽減することはできますし、小さな努力が後の大きな変化を生むことになります。

目に見える成果がすぐに見えないのが難点ではありますが、気長に努力を続けていくことが健康長寿の最大のポイントです。

【参考文献】
※1.J Immunol 2014; 193: 4235—44
※2.Proc Natl Acad Sci U S A 2007: 104; 15034-9
※3.J Immunol 2009; 183: 1393-402
※4.J Clin Invest 2011; 121: 2111-7
※5.J Periodontol 2001: 72; 774-8
※6.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2007: 27; 1918-25
※7.糖尿病 2011: 54; 480-2

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

 

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