中央が蔵の看板『朝日』30度900㎖、1749円。豊かなコクとキレのある後味で、島民に愛される日常の酒。お湯割りがお勧め。左は『壱乃醸朝日』25度720㎖、1980円は、通常の倍量の黒糖を使用。とろりと濃密な黒糖感をロックで。右は『陽出る國の銘酒2001』44度360㎖、4092円。自社畑で有機栽培・製造した黒糖のみを使う長期熟成酒。化学肥料に頼らないサトウキビの清々しい風味。ストレートで堪能したい。

珊瑚の島でサトウキビ畑を耕す

横なぐりの雨と風に、一面のサトウキビ畑は波打ってしなり、緑の葉が茂る穂先は今にも地面に倒れ込みそうだ。色とりどりの雨合羽に身を包んだ3人の男女が、小さな斧を片手に文字通りキビキビと動き、3〜4mはあろうかという細長い茎をするすると引っ張り出すように収穫していく。

「このくらいの風ならば、収穫は休まないんです。島の風は虫を吹き飛ばしてくれますし、島は平坦なので、太陽が出れば満遍なく陽が当たるんですよ」

並んで見ていた喜禎浩之さんが教えてくれた。鹿児島から南に380㎞、奄美群島・喜界島の「朝日酒造」は、四半世紀ほど前にサトウキビの自社栽培を始めた。蔵は創業110年。浩之さんは2011年に4代目に就任、’15年にはサトウキビ畑と黒糖の有機JAS認証も取得した。

雨に濡れてなおふかふかと弾力のある畑の土を踏みしめながら、浩之さんが続ける。

「切り落とした葉、キビの搾りカス。それに焼酎カスから米の磨ぎ汁までぜんぶ畑に戻しています。だんだんいい土に育って、キビの細胞壁も強くなった気がします。今では虫もあまりつきません」

喜禎浩之さん・ルミさん

きてい・ひろゆき 
1971年生まれ、54歳。東京農業大学醸造学科を卒業後、鹿児島の小鹿酒造で3年修業し、2000年に蔵に戻る。’11年に代表就任。食好きで、酒質設計は鮨、中華、カレーなど具体的な食事シーンをイメージして行なう。妻のルミさんとは1997年に結婚、SNSはルミさんが担当。
高台のガジュマルと、純白の野生の島百合の前で。「島には信号がひとつだけで、リゾート感もないですが、それがいいところです」

サトウキビの青い風味

暴風雨から一夜明けた朝、収穫したサトウキビは劣化する前に製糖する。まずはサトウキビを圧搾して、ジュースを取る。勧められて搾りたてを口に含むと、淡い緑のノートが広がった。可憐な甘み、ほのかな酸味、柔らかな舌触りの液体がしっとりと喉を滑り落ちていく。サトウキビとは本来こんな味わいなのか。ベトベトと粘着するような質感はみじんもない。

「化学肥料由来のエグみがありません。それに、極力酸化しないように手刈りにし、苦みのある穂先は落としているので、味わいが違うんです。いい意味でのサトウキビの青さを表現できたらいいなと、それをテーマにしています」

浩之さんが社是として掲げるのは「黒糖焼酎を通して、喜界島を伝える」こと。テーマパークもリゾートホテルもない、でもそれが島のいいところ。あるがままの喜界島を知ってほしいという浩之さんの言葉に、溌剌とした美しさがあるサトウキビの味わいが重なる。

サトウキビはアクを取りながら煮詰めていく。黒糖のみも購入可能。「陽出る國の黒いダイヤ」648円。焼酎のアテにもいい。

キビジュースはその後、石灰でpH調整をして、2時間ほど煮詰めたら型に流し入れる。固まる寸前に手早くダイス状にカットしたら完成だ。熟練の腕を要する一連の作業に携わるのは、昨日、雨ニモマケズと収穫をしていた農業部の3人だ。この道20年の萩原和香子さんと賀るみ子さん、黒一点の幸得進也さん。

10か所に点在する畑を3人で飛び回る日々だが、それでも自社黒糖には限りがある。今のところ、全量自社で醸すのはヴィンテージ焼酎『陽出る國の銘酒』と『神喜の目醒め』のみ。だが、すべての銘柄に必ず自分たちが手ずから作った喜界島の黒糖を、少量加えているのだという。

サトウキビ畑と黒糖作りは農業部の3人が担当。この道10〜25年のベテラン揃い。サトウキビの茎が黒いのは糖度が上がっている証。

米のニュアンスとラム酒と

黒糖焼酎は、本来そのままアルコール発酵することができる黒糖を、あえて米麹と合わせて醪を造るという、特殊な成り立ちを持つ酒だ。古くは江戸時代にも文献が残るが、現代に繋がる原型ができたのは戦後だ。アメリカ占領下の奄美で黒糖焼酎が造られ始め、返還後に奄美地域限定の特別措置として、米麹を使うことを条件に黒糖焼酎の製造が許可された。

貯蔵庫ではホーロータンクをメインに、大正〜昭和に蔵で使っていた和甕も使用。和甕では古酒を熟成中だ。

「でも、米麹のお陰で、黒糖焼酎は食中酒として楽しめます。穀類のニュアンスがあって、ラム酒の要素もある。鮨からスイーツまで幅広い食に合わせることができる珍しい蒸留酒なんです」

唯一無二の原料の魅力を最大限に伝えるべく、酒造りで目指すのは「濃いコクのある焼酎」だ。
「発酵が進んだ黒糖の醪は赤ワインの入った味噌みたいな複雑な味になります。まずは醪でしっかり狙った成分を出すことが大切です」

蒸留は、常圧蒸留が基本。「蒸留器のつる首の高低や角度、さらに米袋を巻いて水蒸気を戻し、より多くの香りを引き出したり」などの工夫も重ねて、黒糖ならではのふくよかな味わいを表現する。

喜界島は隆起珊瑚礁の島で、今でも年間平均2㎜のペースで大地が隆起しているのだという。島は生きているのだ。透明のエキスに封じ込められたこの島の息吹を、ぜひ感じてみてほしい。

左から、ソーダ割り向きの減圧蒸留焼酎『たかたろう』25度900㎖、1595円。2種の島みかんが香るボタニカルスピリッツ『yon yōri』シリーズは各500㎖、5500円。

朝日酒造

住所:鹿児島県大島郡喜界町湾41-1 
電話番号:0997・65・1531
ホームページ:https://www.kokuto-asahi.co.jp/

小さな島の豊かな食文化に驚く、料理上手な女将の一軒

島育ちのヤギ刺し、サクナーの天ぷら、夜光貝の刺身、油ぞうめん、田いもなど、喜界島は知られざる食材の宝庫。
店主の野間タヨコさんの料理は自然で優しい味わいで、黒糖焼酎が進む。予算は、ひとり3000円が目安。

海の幸 花のれん

住所:鹿児島県大島郡喜界町湾445-38 
電話番号:0997・65・3435 
営業時間:18時~22時 
定休日:日曜 
交通アクセス:喜界空港から車で約1分

取材・文/渡辺菜々緒 撮影/宮濱祐美子

※『サライ』2026年8月号より

8月号特集は「本格焼酎」は風土で味わう

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
10月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Youtube
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店