
ライターI(以下I):6月14日に『豊臣兄弟!』で主人公小一郎(羽柴長秀、後に秀長)を演じている仲野太賀さんが、兵庫県朝来市で開催されたトークライブに登場しました。
編集者A(以下A):朝来市といえば、『豊臣兄弟!』劇中で登場した竹田城のある自治体です。仲野太賀さんの実父中野英雄さんが城主太田垣輝延を演じて「親子共演」が実現した印象深い場所でもあります。大河ドラマの主演ともなれば、撮影スケジュールでいっぱいいっぱいのはずですが、仲野さんは時間の許す限り、ゆかりの地をめぐって視聴者の方と触れ合っています。それも含めて「大河ドラマの主人公の仕事」といえばそれまでですが、なかなかできることではありません。
I:朝来市は人口2万6000人ほどの市なのですが、750席ほどのキャパに1万2000人もの応募があったそうです。当選された方にはもちろん大きな喜びだったと思われますが、仲野さんのトークが、当日参加された方だけのものにするのはもったいない感じだったので、当欄でも紹介したいと思います。仲野さんは、トークライブが行なわれる前に、竹田城跡にも「登城」していたということです。まずは、『豊臣兄弟!』の座長としての「思い」について語ってくれました。
大変は大変でした。やっぱり大変なことはたくさんあったし、日々の撮影だけでも毎週のように戦国の時代を描いているので。この演じる感情の振れ幅がすごく大きいんですね。「斬る斬られる」「生きる死ぬ」という感覚がすごく近くにある。そういう状況でのお芝居が続いていくので、精神的な感情の揺れっていうのはやっぱ大きかったです。
大人数のスタッフとキャストと共に行なっていく撮影っていうのは、本当に毎日目まぐるしくて大変でした。でもその分、その大変さをどんどん凌駕するぐらい落ち込んでる時は、いろんな人に励ましてもらったりしています。
もちろん人並みにうまくいかなかったな、と感じるようなこともありますが、そういう時もスタッフさんや共演しているキャストの仲間たちなど、本当いろんな人に支えてもらっています。大丈夫、大丈夫、頑張れ、頑張れ、と言ってもらって、みんなに支えてもらいながら1年経ったな、と。気づけば早かったな、という感じですね。
僕はわかりやすく落ち込むタイプなんですよね。ひとりでセットの陰で体育座りして三角形になっている時もありましたし。
A:仲野さん、そういうところがあるんですね。意外です。
そういう時は竹中半兵衛役の菅田将暉が近づいてきて、「大丈夫か」とか声をかけてくれた時もありました。まあでも本当に、思い返してみるといろんな思い出でいっぱいですね。
I:『豊臣兄弟!』は中盤に差し掛かるころですが、ここまできて、仲野さんが座長やってよかったと感じたのは、どんな時だったのでしょうか。
座長をやってよかったと感じた瞬間は、ありすぎるというか……ずっと不思議な感じがしているんですよね。自分が主人公として『豊臣兄弟!』の真ん中にいることが本当に不思議で、周りには秀吉役の池松壮亮君がいて、信長役の小栗旬さんもいて、将暉もそうだし、お市役の宮崎あおいさんもそうですが、ずっと憧れてやまない、尊敬してやまない最高に素敵なキャスト陣がいて、本当にたくさんのスタッフの方々が必死になって物語を紡いでくれていて、この場所にいるということ自体が、日々夢のようです。後年、振り返った時に、この1年半のことは自分の人生の中でも本当にキラキラした1年半になるんだろうなと感じています。寂しいですよ。終わるのが。気が早いですけど。まだ半年くらい撮影は残っているんですけど、早くも寂しいんですよね。
A:もし時計の針を巻き戻して、クランクインの前の自分に現在の自分がアドバイスできるとしたら、どんなアドバイスをしますか、という司会者からの質問にも丁寧に応えてくれていました。
まずは「お前、思いのほかセリフうまく言えねえから、ちゃんともっとセリフ練習しろよ」と言いたいですね。もうね、うまく編集してくれているんですけど、本番では信じられないぐらい噛んでるんですよ。噛み倒して噛み倒して、あまりにも噛むから、旬さんから「お前、次噛んだら切腹な」とまで言われたこともあります。「すみませんでしたっ!」て感じで。やっぱり時代劇のセリフというのはすごく難しくて、なかなか馴染むのに時間がかかるんですよ。だから、今まで通りの準備で、「よし、これ完璧だ」と思って臨んでも、口の筋肉と時代劇のセリフというのが噛み合わない時があったりして、なかなかうまく言えないことが結構あるんですよね。タイムスリップできるなら、もっと練習していけ、と言いたいですね。
小一郎はまくしたてるように話すことも多く、セリフ量が多いので、テンパったりして、頭が真っ白になってしまったりすることもあります。僕が噛み倒してる時に、お兄ちゃん(秀吉)の壮亮がそっと近づいてきて、僕の膝にこう手をのせて、トントンと押してくれるんですよ。「大丈夫、大丈夫」と言いながら(笑)。そういう風に支えていただいて、なんとか序盤を乗り切った思い出がありますね。
越前から学芸員が参加した理由
I:実はこのトークライブ、福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館の学芸員、石川美咲さんも登場していました。私たちの過去の一乗谷取材でもお世話になった方です。でも、一乗谷の石川さんがどうして、朝来市にこられたのでしょうか?
A:これには実は深い話がありまして、劇中でも登場した朝倉義景(演・鶴見辰吾)の朝倉氏のルーツは播磨の日下部一族で、竹田城の太田垣氏とはもともと同根だったというのです。石川美咲さんは、「戦国時代の但馬の国には山名氏という守護のもと、太田垣、八木、垣屋、田結庄という4人の山名四天王と呼ばれる重臣たちが治めていました」などとわかりやすく解説をしていました。仲野さんも学識深い石川さんのことはかなり頼りにしているようですね。
石川さんは「二度目まして」なんですけど、なんかもう常に現場で横にいてほしいぐらい、勉強になるんですよ。寄り添ってほしいぐらい。ここで実は秀長はこうだったんですよ、みたいに側にいて教えて欲しいぐらい、すごく学びが多かったですね。
アドリブで「川落ち」の秘話
I:ドラマの話に戻るのですが、興味深いお話がありました。第7回の話です。この回では、墨俣に砦を築くために川並衆と称される蜂須賀小六(演・高橋努)を調略しようという回でした。
A:秀吉、小一郎に加えて、前野長康(演・渋谷謙人)、弥助(演・上川周作)や甚助(演・前原瑞樹)も同行していましたね。もともと蜂須賀小六と親しかった前野長康を連れていけばどうにかなるだろうということだったのですが、どうも前野長康のことを蜂須賀小六はよく思っていない。
I:なんと秀吉らの前で、斬り合いを始めてしまうという展開になりました。それを見た秀吉が、前野長康に対して飛び蹴り(ライダーキックのようだという指摘あり)をして川に落とした場面です。仲野太賀さんは、「そこまでやるか、みたいな。結構寒い時期の撮影だったんですよ。川に入るような気温ではない」と解説してくれました。
視聴者の方もお気づきかどうかわからないんですけど、あえて長康を川に突き落とすことによって「敵じゃない」ということをアピールしたわけですが、どさくさに紛れて甚助も川に落とされているんですよ。お兄ちゃん(秀吉のこと)が長康にライダーキックして、長康を川に落とした後、「大丈夫か」といって甚助たちが駆け寄ってきたら、そのまま甚助のこともバコーンって川に落としてるんです。
現場で、前野長康役の渋谷謙人君が「川に落ちんのかー、やだなー」みたいなことを言っていたので、皆で「頑張ってくださいね」とか言っていたんです。その時、みんなで立ち話してる時に、「どさくさに紛れて甚助も落ちたら面白くない?」という話になったんです。甚助(前原瑞樹さんのこと)が「え? 僕すか?」みたいにびっくりしていて。監督や美術さんも含めみんなで「どうする、どうする?」なんて言いあっていたんですね。衣装も濡れちゃうし、どうしよう、という協議の結果、確かにこれはどさくさに紛れて甚助が落ちたら面白いかもな、ということになりまして。それでいよいよ本番です。ジョークのラインは本番一発勝負なんで。そうはいってもさすがにやらんやろ、みたいな空気の中、結局、やっぱり甚助が川に落ちてるから、現場でめちゃくちゃ盛り上がったんですよ。
その時点ではまだ敵の立場の蜂須賀小六こと高橋努さんも、相当キャリアも長い大ベテランですけど、これまでの撮影で一番笑いこらえるのが必死だったって言っていました。甚助もなんかすごくやりきったような爽やかな笑顔で帰っていきましたけど。そういうちょっとした工夫で、このシーンをどう盛り上げるか、どう台本以上のことをするか、というのはチーム豊臣の中ではあって、足せるものは足していこうみたいなノリがあります。みんな超前のめりになって、ああしよう、こうしようという会話が結構多いんですよね。
I:こんな裏話が聞けるなんて、当日来られた朝来市の方々はすごくラッキーでしたね。当欄は2020年の『麒麟がくる』から連載していますが、主役からこんな裏話が聞ける機会というのはなかなかにレアです。
A:仲野太賀さんのサービス精神の発露であり、「会場で視聴者の方々と接すると元気になれる、パワーをいただける」と会場でも強調して開陳していましたから、よっぽど気持ちが乗っていたのでしょう。私は、この話を聞いて、第7回を見返してみたのですが、確かに甚助が川に落とされている。それもものすごく自然な感じでです。
I:私も見返しました。裏話を聞いたあとに視聴すると、笑っちゃいますね。もっと早く教えてほしかったなぁ(笑)。
A:ということで、朝来市でのトークイベントでは、さらに裏話が語られました。それは次回またご紹介させてください。
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
大河ドラマ『豊臣兄弟!』
NHK総合 日曜 20時00分~ 他
【作】八津弘幸 【音楽】木村秀彬 【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀 池松壮亮 ほか
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











