
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』が「夏休み」ということで、8月2日は大河ドラマの放送がありません。流れとしては「清須会議」という歴史的にも重要な会議が描かれるはずなのですが、1週おあずけです。毎週楽しみにしている視聴者としてはやきもきする日曜日になっていると思います。
編集者A(以下A):そのお休みの回に、当欄では次の「大河ドラマ女性主人公」を予想したいと思います。直近で女性主人公といえば2024年の『光る君へ』の紫式部(演・吉高由里子)ですが、65作の大河ドラマのうち女性が主人公の作品は15作に及びます。まずは、その15作を振り返りたいと思います。
I:大河ドラマで初めて女性が主人公となった作品は、1967年の『三姉妹』。大河ドラマ5作目という黎明期の作品で、映像も第19回と総集編の一部のみしか残っていないそうです。原作は大佛次郎さん。時代は幕末で、旗本の家に生まれた姉妹が主人公の物語。岡田茉莉子さん、藤村志保さん、栗原小巻さんが三姉妹を演じたようです。女性が主人公も初。架空の人物が主人公というのも初という「意欲作」だったと伝えられています。
A:当時は、明治維新から100年の節目ということで、1967年に『三姉妹』、1968年に『竜馬がゆく』と、幕末維新の作品が連続しました。ということを考えると、昭和100年で昭和史の大河ドラマが議論されてもおかしくなかったと思いますが、かすりもしなかったのでしょうか……? さて、大河ドラマの女性主人公ですが、実在の女性で初めて主人公になったのが1979年『草燃える』の北条政子(演・岩下志麻)です。それまで「悪女」といわれることが多かった北条政子の人間味あふれる姿が描かれました。私が初めて通しですべて視聴した大河ドラマでもあります。後年、岩下志麻さんにインタビューする機会に恵まれましたが、感慨深いものがありました。ただし、『草燃える』は政子の夫である源頼朝(演・石坂浩二)が亡くなるまでは「W主人公」という体でした。
I:『草燃える』の2年後に、豊臣秀吉の正室ねね(演・佐久間良子)を主人公とする『おんな太閤記』が制作されました。こちらは年間通してねねが主人公。秀吉による「おかか」という呼称が流行語になりました。脚本は橋田壽賀子さんです。太閤記ものということで、今年の『豊臣兄弟!』と時代も登場人物もほぼかぶっている作品です。秀吉は西田敏行さん、秀長は中村雅俊さんが演じました。
A:大河ドラマは、1983年の『徳川家康』を区切りとして、1984年から1986年まで「近代史大河ドラマ」が展開されました。そのうち1985年の『春の波涛』は川上貞奴(演・松坂慶子)が、1986年は第1回から戦後の日本が舞台となった『いのち』で、津軽生まれの女性医師高原未希(のちに岩田未希/演・三田佳子)が主人公ということで、3作品のうち2作で女性が主人公になりました。『いのち』は、全編を通じて実在の人物が登場しないという異色の作品でした。同作も脚本担当は橋田壽賀子さんです。
I:80年代の大河ドラマは『おんな太閤記』と『いのち』で橋田壽賀子さんの脚本による作品が注目を集めましたが、1989年の『春日局』も橋田壽賀子さんによる女性主人公の大河ドラマとなりました。主人公は、江戸幕府3代将軍徳川家光(演・江口洋介)の乳母を務めた春日局。大原麗子さんが春日局を演じました。春日局の父親は明智光秀(演・五木ひろし)の重臣斎藤利三(演・江守徹)。そのため第1回で「本能寺の変」が描かれました。
A:第1回で「本能寺の変」を描くことで、春日局が光秀重臣の娘であることが強調されました。なぜ、家康(演・丹波哲郎)がわざわざ斎藤利三の娘を嫡孫の乳母にしたのか、戦国史の謎がいっそう深まった感があります。
秀吉まわりの女性主人公
I:さて、大河ドラマの女性主人公ですが、1994年には室町幕府第8代将軍足利義政の正室日野富子を主人公とする『花の乱』が登場しました。日野富子役は三田佳子さん。同作は、1994年の4月スタートで全37回という作品なのですが、子役に加えて、将軍義政(演・十二代目市川團十郎)・日野富子夫婦の若いころを市川新之助さん(現・十三代目 市川團十郎白猿)と松たか子さんが演じた関係で、三田佳子さんが全編にわたって登場していたわけではありません。
A:日野富子も一般的に「悪女」と称される人物でした。同じく「悪女視」されていた北条政子を岩下志麻さん、日野富子を三田佳子さんが演じました。岩下さん、三田さんともに後年、映画『極道の妻たち』でも主演しています。極道の姐という難役をこなせる実力がなければ、大河ドラマの女性主人公を演じることができないということが印象づけられました。
I:さて、『花の乱』から7年の空白を経て、8年目に大河ドラマに女性主人公が戻ってきたのは、2002年の『利家とまつ~加賀百万石物語』です。前田利家(演・唐沢寿明)の正室まつを松嶋菜々子さんが演じました。まつの「なにからなにまで、この私にお任せくださりませ」という台詞が話題になりました。羽柴秀吉を香川照之さん、おねを酒井法子さん、佐々成政を山口祐一郎さん、成政の正室はるを天海祐希さんというキャスティングで、「スタイリッシュ大河」ともいうべき雰囲気が視聴者の心をとらえ、平均視聴率が20%を超える成功をおさめました。
A:同じように秀吉まわりの物語が展開されたのが、2006年に山内一豊の妻千代(演・仲間由紀恵)を主人公にした『功名が辻』。いずれも豊臣秀吉の「同僚」「家臣」という立場の武将ということで、劇中でしっかりと「本能寺の変」が描かれました。女性主人公の戦国2作が成功をおさめた余勢を駆って幕末の薩摩島津家から13代将軍徳川家定に嫁いだ天璋院篤姫を主人公にした『篤姫』が放送されました。2008年のことです。主人公の篤姫を演じたのは22歳だった宮崎あおいさん。当時最年少主人公として話題を集め、作品自体も平均視聴率が24.5%と好評でした。女性を主人公に配した作品は『篤姫』でピークを迎えた感があります。
I:『篤姫』から3年後の2011年、大河ドラマ50作目という記念すべき節目に描かれたのが、浅井三姉妹の末っ子・江を主人公にした『江 姫たちの戦国』です。上野樹里さんが江を演じました。
A:同作に対しては「ファンタジー大河」と揶揄する声もあったりしますが、信長(演・豊川悦司)による「馬揃え」をしっかりと描いたり、信長と江の「デウス問答」、さらには1989年の『春日局』とは異なる視座で「乳母春日局」(演・富田靖子)が描かれるなど、見るべきところも多い作品でした。家康の伊賀越えに少女の江が同行したり、清須会議に江が乱入するなどの「無茶な展開」を時代考証の先生方や周囲がしっかり排除してくれていたらと悔やまれてなりません。
「迷走する女性主人公」を経て……
I:『江 姫たちの戦国』から2年後の2013年、幕末の会津藩で砲術師範の家に生まれた山本八重を主人公とした『八重の桜』が放送されました。知名度という点でいうと過去の女性大河ドラマの主人公に比べて劣るというのが正直なところでした。
A:同作は、2011年に発生した東日本大震災を受けて、東北地方復興の一助たるべくして企画された作品だといわれています。会津藩の視座から幕末を描くのも、1980年の『獅子の時代』以来となりました。主演は綾瀬はるかさん。綾瀬さんがスペンサー銃を駆使するくだりは、大河史に残る名場面になりました。
I:同作で主人公を演じた綾瀬はるかさんですが、毎年9月の「会津まつり」には新型コロナの影響で中止・縮小した年を除いて、毎回参加しているそうです。昨年も「毎年呼んでくれてありがとなし」と会津弁で挨拶したそうです。自らが主人公を演じた人物の故郷に寄り添い続ける姿勢に、なんだか目頭が熱くなるんですよね。
A:確かに。もう10年以上前の作品なんですけどね。頭が下がります。
I:さて、女性を主人公に据えた大河ドラマですが、やや迷走期に突入します。2015年には「松下村塾」を主宰した吉田松陰(演・伊勢谷友介)の妹文(演・井上真央)を主人公にした『花燃ゆ』が登場します。吉田松陰とその門弟たちが主人公ならともかく、吉田松陰の妹を主人公に据えるという大冒険の作品でした。
A:2013年に会津の視座から見た幕末維新を描いたわずか2年後に、「逆目」の長州目線の作品の登場となりました。吉田松陰といえば、その門弟らは、命を賭して倒幕の原動力になった幕末の志士たち。その生き様に強烈な思い入れを持つ歴史ファンが数多く存在するのですが、『花燃ゆ』のキャッチコピーのひとつが「幕末男子の育て方」。「至誠にして動かざる者は未だこれ有らざるなり」「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも 留めおかまし大和魂」などで伝えられる松陰の生き様とは究極に異なる雰囲気のキャッチコピーが、コアなファンの離脱に繋がったともいわれています。
I:そして、2017年は柴咲コウさんが井伊直虎を演じた『おんな城主 直虎』の登場です。女性でありながら「井伊直虎」を名乗って、井伊家の当主を務めたというキャラクターが主人公でした。
A:「おんな城主」と聞くとなにやらわくわくするのですが、さすがに知名度も低く、史料もあまりない人物ですから、ストーリーの構築は大変だったと思います。大河ドラマで女性主人公を設定する難しさを象徴する年だったのではないかと思われます。放送前に「直虎、実は男だった」という記事が出たのも残念なことでした。2010年代半ばの女性主人公を配した作品は、やや迷走している感がありました。
I:そして、『功名が辻』で脚本を担当された大石静さんが、再び女性を主人公にした大河ドラマで戻ってきたのが2024年の『光る君へ』です。歴史上の人物では知名度抜群、『源氏物語』の作者として知られる紫式部を主人公に配した作品です。
A:2013年の『八重の桜』、2015年の『花燃ゆ』、2017年の『おんな城主 直虎』と、主人公の知名度が今ひとつの作品が続きましたが、紫式部とくれば知名度は申し分なし。でも平安時代で合戦のない時代をどう描くのかと懸念された状況の中で、見事な脚本で「平安時代の解像度が大幅にアップした」と視聴者を魅了したのが『光る君へ』です。
I:紫式部役の吉高由里子さんと藤原道長を演じた柄本佑さんのコンビも絶妙で、女性が主人公の今後の大河ドラマ作品の可能性を大きく期待させた印象です。さて、大河ドラマの女性主人公を振り返ってみました。現在、2028年まで大河ドラマの作品が決定済みですから、女性主人公が登場する大河ドラマは最短で2029年になります。今後、どんな女性主人公が登場するのでしょうか。
(後編につづく)
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











