文/濱田浩一郎

豊臣秀次像

秀次主従の凄まじい切腹とは?

大河ドラマ「豊臣兄弟!」において羽柴秀吉を演じるのは池松壮亮さんです。

秀吉の甥には秀次がいます。秀次は秀吉の姉の子ですが、後に秀吉の後継の関白となります(1591年)。その秀次は『太閤記』(江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵が著した秀吉の伝記)によると、関白になると素行が乱れ、浅はかになっていったとあります。秀吉に謀反を疑われるようなこと(例えば鹿狩りなどに出かける際にも、武器を密かに供の者に持たせた)もしていたと書かれています。

秀吉は秀次と直に対面し、疑いを解こうとしたとありますが、両者の対面は叶わず。秀吉は秀次に高野山に登るよう命じるのでした。同書には石田三成と増田長盛が頻りに秀次のことを秀吉に讒言していたと記されています。

秀吉はついに秀次に切腹を命じることになります。秀吉は福島正則・福原右馬助・池田伊予守(秀氏)を検使として高野山に遣わしました。秀次は3人の検使の派遣を知ると、いよいよ最後の時が迫っていることを感じ取ったようです。秀次の側には殉死を願う小姓衆がおりました。小姓衆は主君・秀次の介錯により、あの世に旅立つことを願うのでした。秀次は小姓衆の1人・山本主殿助に国吉の脇差を与えます。主殿助は主君から賜った脇差を左の脇腹に突き立てます。それを右に引き回したところで主殿助が「もはや」と口を開いたので、秀次は介錯しました。主殿助の首は前に落ちます。

山田三十郎もまた藤四郎の脇差を賜り、腹を十文字に掻き切りました。三十郎が「首を」と言ったところで、秀次は三十郎の首を落とします。不破万作は鎬藤四郎で切腹し、秀次が介錯しました。次に玄隆虎岩を介錯したところで、秀次が腹切る番となります。秀次は正宗の脇差で落ち着いた様で切腹しました。介錯は秀次の家臣・雀部重政が行います。その雀部重政も主君の最後を見届けた後で切腹。介錯は吉兵衛という者が行いました。雀部重政はかつては秀次の寵愛を受けていたものの最近はそうでもなかったのに、恨みがましい素ぶりは見せず、主君・秀次に殉じたということで「信義の人」として世間の評判になったとのこと。

苦渋の決断をした木食上人への誹謗中傷

検使(福島正則・福原右馬助・池田伊予守)は伏見に戻り、秀吉に秀次らの切腹のことや、秀次の首の処理をどうするかを伝えます。すると秀吉はそれには答えず「木食応其(真言宗の僧侶。高野山に興山寺や青巌寺を建立した)は秀次をむざむざと切腹させてしまったものよ」と涙ぐんだということです。木食上人は初めから唯々諾々と「秀次を切腹させよ」との要求を呑んだわけではありません。一山で評議をし、なかなか結論が出ない中、検使からの「何をぐずぐずしているのか。早くどうするか決めよ」との督促により、苦渋の決断をしたのです。高野山を破滅から救うための決断でした。高野山に居住する罪人は保護されるという寺法があり、それにより秀次を救うべしとの意見も出されましたが、もし秀吉の命令に背いたらどうなるか、高野山は破滅すると上人は危ぶんだのでした。

『太閤記』において秀吉は木食上人が不甲斐ないから秀次が切腹したかのようなことを述べていますが、それは責任転嫁というものでしょう。同書の説を考慮するならば、秀次切腹を回避できる機会は複数ありました。秀吉と秀次が直接会って話し合うこともその1つでした。しかし先述したように、秀吉はそれをせずに秀次を高野山に追うのです。秀吉は秀次切腹を命じる使者を派遣しますが、それは石田三成と増田長盛による度重なる讒言があったからでした。彼らの讒言に惑わされず、秀吉が切腹を命じる使者を遣わさなければ悲劇は回避できたかもしれません。しかし秀吉は三成らの言葉に幻惑されて、秀次を疑い、ついに切腹を命じたのです。自らの責任を棚に上げて「木食応其は秀次をむざむざと切腹させてしまったものよ」はないでしょう。このように『太閤記』の秀吉に突っ込みたくなるのは筆者だけではないと思います。苦渋の決断をした木食上人は「慈悲心を捨て義を忘れた」「長年にわたり秀次公のご恩を蒙っていたのに何たる人非人」と誹謗されたと同書にはあります。

文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。

 

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