かつて、私たちが英会話教室に通い、少しずつ言葉を身につけていった時代は、いつのまにか遠いものになりつつあるように感じられます。
最近では、生成AIを使って英会話を学ぶ人も増えてきました。人目を気にすることなく、恥ずかしさを感じずに、自分のペースで学べることが、その大きな理由のひとつにあるようです。
けれど、たとえ文法や表現が正しく身についたとしても、人とのあいだに生まれる関係がないとしたら、どこか味わいがないように思います。ことばは、ただ覚えるものではなく、誰かとのやりとりの中で、微妙なニュアンスを感じ取りながら育っていくもの。
今回は、そうしたことばの微妙なニュアンスに目を向けながら、日本語の「刺さる」という表現を通して、英語での伝え方についてご紹介しましょう。

「刺さる」って、どういう意味?
日本語の「刺さる」は、もともと「突き刺さる」から生まれました。日常ではそれが比喩となり、言葉や作品、出来事などが、心の奥に入り込む感覚をあらわします。
たとえば、自分の気持ちやこれまでの経験と重なって、深く共感したとき。または、思いがけず何かに気づかされて、ハッとする瞬間。ときには、図星をつかれて、胸の奥が少し痛むようなこともありますね。 「刺さる」というのは、単に「いい」「嫌」と感じるだけではなく、自分の内側に触れる、少し特別な響きをもった言葉なのかもしれません。
では、英語ではどう言うの?
日本語の「刺さる」は、英語ではひとつの単語でぴったり置き換えるというより、ニュアンスに応じて表現を選ぶのが自然です。ここでは、日常でよく使われている表現をご紹介します。
1. “hit (me)” / “hit hard”
ぐっと来る・衝撃を受ける(言葉や出来事が、感情に直接ぶつかってくるように強く響く)
例
“That really hit me.”
(あれは、本当に刺さった。)
“It hit me harder than I expected.
(思っていた以上に強く響いた。)

2. “resonate (with me)”
深く共鳴する・共感する(自分の考えや経験と重なって、深く響く)
例
“Her words resonated with me on many levels.”
(彼女の言葉はいろいろな意味で深く響いた。)
“This idea resonates with me.”
(この考え方には共感する。)
3. “spoke to me”
自分に語りかけてくるように響く。(作品や言葉が、まるで自分に向けられているように感じる)
例
“That really spoke to me.”
(それ、すごく自分に響いた。)
“This song really speaks to me.”
(この曲、すごく心に響く。)
4. おまけ
もう少しニュアンスを加えたいときには、以下のような表現もよく使われます。
“That got to me”は、感情が動いて、じわっと心にくるような響きがあります。
例
“That story really got to me.”
(その話、じわっと心にきてしまった。)
“His speech got to me.”
(彼のスピーチに心を動かされた。)
また、カジュアルで今っぽく「わかる、それ刺さる」という感覚を表すなら、“I felt that.”という言い方もよく耳にします。
例
“I felt that.”
(それ、すごくわかる。)
“Wow, I really felt that.”
(うわ、それ、かなり刺さった。)
ぜひ使ってみてください。

最後に
「刺さる」ということばは、不思議な広がりがありますね。胸を打たれて感動することもあれば、深く突き刺さり、痛みを感じることもあります。ひとつの言葉のなかに、まるで正反対のような感覚が同居しているようです。
詩人であり、画家としても知られていたレバノン出身のハリール・ジブラーン (Kahlil Gibran) は、若い頃パリで美術を学び、ロダンに影響を受けたことでも知られています。
彼の代表作である『預言者』(The Prophet) は、100以上の言語に翻訳され、今も世界中で読まれています。
そのなかに、こんな一節があります。
“The deeper that sorrow carves into your being, the more joy you can contain.”
— Kahlil Gibran(深く悲しむことができる人ほど、より豊かな喜びを味わうことができる。)
出典: Gibran, Kahlil. The Prophet. Fingerprint! Publishing, April 1, 2017. (Paperback, English edition).
ハリール・ジブラーン(池上カノ・訳)
心に「刺さる」悲しみや喜びが深くなるほど、私たちは人間らしく生きることができるのかもしれませんね。
次回もお楽しみに!
●執筆/池上カノ

日々の暮らしやアートなどをトピックとして取り上げ、 対話やコンテンツに重点をおく英語学習を提案。『英語教室』主宰。 その他、他言語を通して、それぞれが自分と出会っていく楽しさや喜びを体感できるワークショップやイベントを多数企画。
→The English Schoolホームページ
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











