
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第10回です。前週に織田信長(演・小栗旬)が稲葉山城を斎藤龍興(演・濱田龍臣)から奪取し、井口から岐阜と地名を改め、稲葉山城は岐阜城となりました。永禄10年9月、桶狭間の合戦から7年の歳月を経ての美濃攻略です。7年ですよ。それだけ、斎藤義龍、龍興父子の抵抗が激しかったということでしょう。
編集者A(以下A):信長は清須城から小牧山城を経て、岐阜城へと拠点を移します。この時代、例えば武田家は甲斐の本拠を動きませんでしたし、今川家も駿府の本拠から動かない。上杉謙信も春日山を動かない。それに比べたら信長の本拠地移転のスピードは異例ですよね。蛇足ですが、信長の美濃攻略と同じ月に奥州伊達家では伊達輝宗に嫡男が誕生しました。後の伊達政宗です。誕生地は現在の山形県米沢になります。
I:さて、第10回のトピックスは、明智光秀(演・要潤)の登場ではないでしょうか。明智光秀といえば、2020年の『麒麟がくる』で長谷川博己さんが演じました。その時、足利義昭を演じたのは滝藤賢一さんで、これまでの「暗愚な将軍」というイメージを一新してくれました。ところが、2023年の『どうする家康』では、酒向芳さん演じる光秀が嫌味な人物で、古田新太さん演じる足利義昭も白塗りの「バカ殿モード」。大きな揺り戻しがありました。それだけに『豊臣兄弟!』での光秀、義昭のキャスティングに注目が集まっていたのですが、義昭(演・尾上右近)を光秀の従者に見せかけて引き回すという斬新な演出でした。
A:なんだか期待できますね。要潤さん演じる光秀の佇まいが「大河ドラマの王道」のようで、身が引き締まる思いがしました。足利義昭、明智光秀の登場となると「本能寺」というワードが浮かんできます。大河ドラマでは多くの作品で「本能寺の変」が描かれてきました。『豊臣兄弟!』ではどんな演出がなされるのでしょうか。
I:さて、冒頭で「天下布武」の説明がなされました。京都を中心とした畿内を治めることで、足利将軍家の再興を目途(もくと)としたものだったということでした。
A:2010年代に広まって定説化した認識かと思われます。足利将軍家は応仁の乱以降の将軍が京都から逃れることが多くて、畿内すら満足に治めることができなかったわけですから、まずは「おひざ元の畿内」での権勢を取り戻そうということでしょう。その大役を信長が担うということになります。
素性のわからない面々が活躍

I:『麒麟がくる』の際も幾度も言及しましたが、明智光秀も若い頃は、どこで何をしていたのか定かではありません。
A:『豊臣兄弟!』の主人公小一郎(秀長/演・仲野太賀)はもちろん、兄の秀吉(演・池松壮亮)も若いころのことはほとんどわかっていません。明智光秀も同様です。つまり、織田家中には素性がはっきりしない若者が集い、躍動していく。なかでも秀吉と光秀は出世頭となっていきます。何者でもない人物たちがどんどん役割を与えられ、職務をこなし、出世していく。やっぱりおもしろいですよね。
I:ところで、なぜ、足利義昭は信長に助勢を依頼したのでしょうか。
A:『豊臣兄弟!』第1回では、信長が上洛したことに触れられていましたが、このとき信長は室町幕府13代将軍足利義輝に謁見していました。1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では、足利義輝(演・宮田恭男)と謁見する信長(演・緒形直人)も描かれていました。足利義輝の時代には、上杉謙信や斎藤義龍も上洛して義輝に謁見しています。
A:足利義昭は義輝の実弟ですから、兄の義輝に謁見した信長を頼るのは当然だったのかもしれないですね。
三好三人衆ってどんな人たち?
I:当欄の「満喫リポート」は2020年の『麒麟がくる』からスタートして、『豊臣兄弟!』で7作目になります。スタートが『麒麟がくる』ということで、明智光秀、足利義昭の描かれ方については関心が高いのですが、その観点では今回、役者が揃った感がありますね。
A:光秀の従者に変装して信長に対面するという手段は、こんなことが実際可能かどうかという問題はさておき、斬新でした。この場面で、光秀の立ち位置が「信長と足利義昭に両属」ということが強調されたような気がしています。
I:両属……。確かにインパクトはありました。信長と義昭、光秀三者の関係性に注目ですよね。でも、要潤さんの光秀、なんかゾクゾクしませんか。
A:瞬間的に『秀吉』のときの光秀(演・村上弘明)を思い出しました。なんとなく佇まいが似ているというか。『豊臣兄弟!』では既存のエピソードを大胆にアレンジする手法を採用しているようですが、その真価が問われる最大の事件が「本能寺の変」かと思われます。視聴者を「なるほど」と納得させてくれるのか。まずは、しっかりグリップを掴んでいると思います。
I:わずかな尺ではありましたが、「信長=足利義昭」と争っていた「三好三人衆」が登場しました。当時の京の政治情勢をドラマで表現する際に最大のネックとなっているのが、「三好三人衆」な気がしています。三好長逸(ながやす/演・中野英樹)、三好宗渭(そうい/演・奥田洋平)、石成友道(演・阿部亮平)の3人なのですが、その関係性を理解するのが難解なんですよね。
A:三好氏は現在の徳島県三好郡を拠点とした阿波守護細川氏の守護代出身なのですが、下剋上の世の中、三好長慶が京で「三好政権」を築きます。その三好長慶が永禄7年(1564)に亡くなってしまいます。「三好三人衆」とは長慶の後継になります。三好長逸、三好宗渭は、長慶の父元長の従兄弟という長老的立ち位置の面々で、石成友道は三好長慶の家老的存在だったということですね。長慶の後継者は三好義継という人物がいたのですが、三人衆はその補佐役という立ち位置でもあります。
I:その説明だけでややこしいです。
A:三好長慶の興亡というのは、地元の徳島県などで大河ドラマ化の運動をしているようです。確かに、ドラマにしてもおもしろいと思うのですが、ネックが関係性の理解が難解であるということですね。
I:その三好三人衆が信長に対して「成り上がりめ」と罵倒していましたが、「どの口がいう」という感じでした。
A:そうそう。「あなたたちももともとは成り上がりなのでは?」と、吹き出しそうになりました(笑)。
上洛を促す書状を全国に展開

I:第10回のラストでは、信長が丹羽長秀(演・池田鉄洋)に、諸国の大名に対して上洛のうえ、足利義昭に拝謁するように促す書状を出すように命じました。
A:武田信玄(演・高嶋政伸)、上杉謙信(演・工藤潤矢)、朝倉義景(演・鶴見辰吾)、長曾我部元親(演・磯部寛之)、荒木村重(演・トータス松本)、松永久秀(演・竹中直人)、徳川家康(演・松下洸平)……錚々たる面々です。「委曲、佐久間右衛門尉申すべく」と佐久間信盛(演・菅原大吉)が添状(副状)を発給しているという設定でした。
I:信長が、書状の文面を読みながらという演出で、臨場感でましたね。
A:この頃、信長はさまざまな書状を発給していますが、そうした書状を参考にして、文面を練ったという印象ですが、こういう演出、子供には響くんですよね。私が小学生のころ1979年の『草燃える』では、石橋山合戦で敗れた源頼朝(演・石坂浩二)が安房に敗走しました。そこから再起して、再び安房から進軍するのですが、このタイミングで、かつては平家方についていた坂東の武士たちが続々と頼朝のもとにはせ参じるという場面がありました。上総広常(演・小松方正)2万騎で、畠山重忠(演・森次晃嗣)も……と、続々と坂東武士が頼朝のもとにはせ参じて結集していく。この場面をみて興奮したことを今でも鮮明に記憶しています。
I:そういうものなんですね。私はトータス松本さんの荒木村重の場面が「おッ」と思いました。この流れの中で、信長は「天下一統」という表現で、「天下布武」=畿内だけではなく、日の本を統一したいという野望を口にします。
A:足利将軍の勢威をまず畿内で回復させるということが「天下布武」。信長はさらにその先を見据えて、日の本をすべて統一したい=天下一統を志す。敢えて、いばらの道を進むことを選んだということですね。
I:考えるのも辛いくらいの攻防が始まります。戦国史でもっともスリリングな攻防ですね。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











