
日本酒に興味はあるけれど、「難しそう」「マナーが厳しそう」と感じて手が出せずにいませんか? 実は日本酒は、ルールを遵守することよりも、もっと自由に楽しんでいいお酒です。今回は日本酒をこれから楽しんでみたいという皆さんが、自宅ですぐに実践できる飲み方のコツから、個性的なアレンジまでを紹介していきます。
文/山内祐治
日本酒の飲み方。初心者はまず「冷たくて飲みやすい一本」から始めよう
初めて日本酒を飲む方は、まず「どんな種類があるか」「どれが飲みやすいか」を少し意識するだけで、選び方がぐっとラクになります。「最初は冷たくて切れ味の良いもの、または冷たくてやや甘みのあるもの」から試してみること。冷酒は味がすっきりとしていて、日本酒独特のクセを感じにくいため、初めて手に取る皆さんの最初の一歩に向いています。
おすすめは、日本酒を専門に扱う酒販店に足を運ぶこと。「初めてなんですが、飲みやすいお酒を教えてください」と声をかければ、プロが丁寧に案内してくれます。できれば「タイプの違う2種類を教えてください」とお願いすると、自分の好みが見えてきやすくなります。最近は一合や、懐かしさもある300mlサイズの商品も増えているので、少量で飲み比べを楽しむのも良い方法です。
日本酒の飲み方についてのマナーは「楽しく飲む」の一言に集約される
「日本酒は作法が難しい」と思われがちですが、現代においてはそこまで細かく気にする必要はありません。日本の酒文化の背景には、神前に供えた御饌御酒を参列者でいただく「直会(なおらい)」の文化があります。神社本庁では、その根本的意義を「神人共食」と説明しています。 一緒に飲み食いすることに意味があったのです。
かつては盃を回したり、献杯・返盃のように酒器を介して関係性を結ぶ酒席文化「廻盃(かいはい)」という慣わしもありましたが、現代でそれを厳守する必要はありません。大切なのは、乱暴な飲み方や一気飲みをせず、その場を楽しむこと。加えて、そのお酒の歴史的な背景を少し知っておくだけで、日本酒をより深く味わえます。
日本酒の飲み方は“ちびちび”が正解! 温度変化で味わいが変わる醍醐味
日本酒は一般にアルコール度数15%前後のものが多く、ビールより高めです。一口に含む量はそれほど多くなくてよく、ゆっくり飲むのが体にも、味わいにも合っています。似た飲み物として、ワインを飲む速度をイメージしてみてください。
ちびちびと時間をかけて飲むと、冷酒でもお燗でも、グラスの温度が少しずつ室温に近づいていきます。その温度変化に合わせて香りや味わいも変化するのが、お酒の楽しさ。「ビール中瓶1本を飲む時間で、一合の徳利をゆっくり飲む」くらいのペースが目安です。ぐい呑みや小さなそばちょこで少しずつ注いで楽しむお燗は、温度変化を特に堪能できる飲み方です。和らぎ水(チェイサー)も挟みつつ、楽しんでもらえたらと思います。
日本酒の飲み方。おちょこを使うことで広がる「注ぎ合う」文化
おちょこは「猪口(ちょこ)」とも書き、猪の口や鼻の形に由来するとも言われる(※諸説あり)小さな器です。ぐい呑みよりひとまわり小さいサイズです。徳利から少量ずつ注ぐことで、飲むリズムが自然とゆっくりになります。
おちょこで注ぎ合う行為は、前述した「共食」の精神のあらわれ。お互いに注ぎ合うことがコミュニティをつくる大切な作法でした。またおちょこの素材の選び方も楽しみのひとつ。冷酒にはガラス製で清涼感を演出し、お燗には陶器や漆器でぬくもりを演出するのがおすすめです。
日本酒の飲み方。水割りは邪道じゃない!
「日本酒を水で割るのはもったいない」と思っている方も多いかもしれませんが、お酒によっては全く問題ありません。そもそも多くの日本酒は、醸造の「加水」という工程でお水を加えています。飲んでみて「少し強いな」と感じたら、気軽に水割りにしてください。
特におすすめなのは、ラベルに「原酒(げんしゅ)」と書かれたお酒。加水を一切していない分、アルコール度数が高めなので、少しずつ水を足して自分好みの濃さを探してみてください。また炭酸水で割るとスッキリとした清涼感が加わり、さらに違った顔を見せてくれます。

日本酒の美味しい飲み方。カクテル風にアレンジして新たな魅力を発見
日本酒はそのままはもちろん、カクテル感覚でアレンジするのも楽しみ方のひとつ。最も手軽なのは、炭酸水を少し加えること。また日本酒にライムを絞ると「サムライロック」と呼ばれる定番カクテルになります。
私のイチ押しは、コンビニで買える冷凍フルーツを日本酒に入れるシンプルな方法。いちご、マンゴー、ブルーベリーなどを数粒加えると、まるでフルーツ系のカクテルのような味わいに変身します。微発泡タイプの日本酒にジンを2〜3滴加えたり、ミントを入れてモヒート風にしたりするのも、春夏のおすすめアレンジです。
日本酒の割り方。ジュースや紅茶で「甘くて飲みやすい」新定番へ
意外な組み合わせですが、ジュースで割る日本酒も試してほしいアレンジです。パイナップルジュースは酸味と甘みのバランスが日本酒に合い、すっきりとした飲み口になります。また、カルピスのような乳酸菌飲料も実は好相性。日本酒に含まれる乳酸の風味と乳酸菌飲料が自然につながり、驚くほど飲みやすくなります。入れすぎると甘みが強くなるため、少量ずつ調整しながら試してみてください。
さらに、加糖した紅茶で割るのもおすすめ。フルーティーな吟醸系の日本酒との相性が特によく、おつまみにクリームチーズを添えると至福の組み合わせになります。昼間からちょっと一杯飲みたいときにも、こうしたアレンジが活躍します。
まとめ。日本酒の飲み方に「正解」はない。自由に楽しむのが一番
日本酒は昔から、ひれ酒・骨酒・鱉酒(すっぽんざけ)など、さまざまなものを加えて楽しんできた歴史があります。現代のカクテルアレンジも、その延長線上にある自然な楽しみ方です。難しいマナーにとらわれず、まずは試してみることが大切。
少しずつ自分の好みを見つけながら、おちょこやぐい呑みで注ぎ合う楽しさ、ちびちびと温度変化を楽しむ奥深さ、そして自由なアレンジの面白さを体験してみてください。日本酒の世界は、きっと想像以上に広く、楽しいものです。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史











