取材・文/坂口鈴香

10月も中旬だというのに、西日本は真夏日が続いている。この夏は、観測史上最高記録が次々と塗り替えられた。来年はさらなる暑さが待っているのかもしれないと思うと、すでにグッタリしてしまう……。ともかく、なんとかこの夏の酷暑を乗り切ったという声は少なくない。高齢者は、自分の身をどのようにして守ったのだろうか。
「避暑」に行くにも体力が要る
一人暮らしの吉富哲雄さん(仮名・88)は、暑さに耐えかねて、35度以上の猛暑日が予想された日は数回「避暑」に出かけたという。
「東京から新幹線で1時間ばかりで行ける長野の宿で過ごしました。避暑地とされるその場所でも最高気温は30度を超えて、そう涼しいわけではなかったけれど、それでも都内にいるよりは5度は違うからね」
お金と体力がないとできない贅沢な過ごし方だ。吉富さんも「おかげさまで、足が丈夫だからできること」と言いつつも、「自宅の補修や塗り替えなどは全部後回し。というより、もうやらないつもりだよ。あと何年生きられるかわからないから、家は住めればいい程度に考えている」と割り切っている。
ショッピングモールで「避暑」。節約のつもりだったが
同じ「避暑」に行くのでも、関千代子さん(仮名・77)はショッピングモールが中心だった。
「家事を終えると、開店と同時にモールに行って、ほぼ1日過ごしていました。家から比較的近いところに何か所かモールがあるので飽きないし、ソファータイプの椅子があちこちにあるので、本でも持っていけばゆっくり過ごせます。モール内は広いので、ウォーキングもできて運動にもなる。一石二鳥三鳥ね」
とはいえ、いいことばかりではない。
「エアコン代を節約するつもりが、モールで飲食をするといくらフードコートで安くあげても1000円近くはかかります。モールに入っているスーパーの簡単なお弁当やパンを買って食べても、毎日となるとそこそこの出費。結局、自宅でエアコンをつけて自炊している方が安く済んだということになるんだから、本末転倒かもしれないわね」
確かにショッピングモールのあちこちに据えられている椅子には、「避暑」に来ているらしき高齢者をよく見かけた。そして、関さんは反省の言葉も口にした。
孫たちに申し訳ないと思うワケ
「この夏の暑さは、これまでとはもう違う次元に入っていると感じました。私たちはこの先そう長くはないけれど、孫たちがこの地球で暮らしていけるのか、本当に不安で暗澹たる気持ちになります。私たちの若いころは、頑張って働けば報われたし、収入も増えていった。学生時代は火炎瓶を投げていた世代だけど、社会に出てからは世の中に疑問を持つこともなく、経済活動にいそしんだ。その結果が、この地球の異常を生んだんだと思うと、私たち世代の責任は大きいのではないかと思ってしまう。孫たちや次の世代の人たちに申し訳なくてなりません」
暑さが原因で、米や野菜、肉などの食料にも影響が出ている。暑さに強い品種を作ろうという研究も進んでいると聞くが、間に合うのか。
「希望的観測としては、人間も暑さに強くなるように進化していくと思いたい。それに適応できない私たち年寄りは淘汰されていくのかもしれないとも思います。地球が、あるいは神のような存在がそれを望んでいるのなら、受け入れようとさえ思いますね」
それが自然の摂理なのかも、と関さんは結んだ。
【後編に続きます】
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。










