「自分が満足できる作品で鉄道写真の夢を届けたい」

これまでに200冊以上の著書を出版し、今秋で90歳の卒寿を迎える写真家・広田尚敬さんの集大成となる写真集『鉄道写真 広田尚敬』(小学館)が11月5日に刊行される。
広田尚敬さんは日本でまだ、鉄道写真という分野が確立していなかった昭和30年代前半より活躍し、昭和43年に鉄道写真展の嚆矢とされる「蒸気機関車たち」を東京・銀座で開催。
高速で回転する蒸気機関車の動輪のアップなど、蒸気機関車の圧倒的な存在感を独自の写真表現で追求した作品は大きな反響を呼んだ。

当時、鉄道写真とはどのようなものだったのか。広田さんはこう説明する。

「もともと鉄道写真には記録性や資料性が求められていました。列車の編成だったらすべてを収まるように撮り、車両の正面や側面を撮る際はフレームにきっちり入るように撮ると決まっていました。その『型』に合致しないものは鉄道写真とみなされなかったのです。そこには撮影者の個性も、感動も、創造性もありません。日本の美しい風景も、人間の営みも欠けていました」

広田さんが鉄道写真に求めるものは違った。

「私は人々の暮らしと四季折々の鉄道のある風景を探し、自分が感動した場面をどのような手段や方法で写真に表現できるのか挑戦してきました」

昭和35年、25歳でフリーランスとなった広田さんは日本中を巡った。やがて、時代の流れで消えようとしていた蒸気機関車を撮影しようと一大SLブームが起こった。在来線も高速化や快適化が計られ、特急列車や寝台列車が大増発され、新幹線の路線網も全国へ広がり始めてゆく。鉄道は旅の主役となり、鉄道写真も趣味として広まっていった。

そんな中、鉄道への限りない愛情と優しい眼差しで、詩情豊かに鉄道を表現した広田さんの作品は鉄道写真の手本とされ、アマチュアカメラマンやファンから敬意を表して「広田調」と呼ばれるようになった。広田さんが鉄道写真の「神様」「レジェンド」と呼ばれる所以だ。

また、広田さんの多彩な表現はジャンルを越え、一部のファンの撮影対象だった鉄道が被写体として認知されてゆくきっかけとなった。鉄道を文化としてとらえた創作活動が評価を得たといえる。

「憧れの鉄道の輝きや鉄道員と乗客の魅力を覚えたての技術やテクニックで捉え、表現しようと、無心に楽しみ、苦しみ、もがくうちに、気がつけば膨大な時間が過ぎ去っていました」(広田さん)。

鉄道写真の神様の集大成となる写真集で昭和から令和の鉄道風景をじっくりと眺めてみたい。

重連の機関車が牽引する列車は横から撮影するのが「型」通りだが、広田さんはあえて正面から捉えた。「先頭のC62型蒸気機関車の後ろの機関車が吐く煙や蒸気が重なる迫力はそれまでになかったものでした」(広田さん)。函館本線・1965年

驀進するC55型蒸気機関車が牽く旅客列車を、15分の1秒というスローシャッターで撮影。広田さんは、列車の動きに合わせてカメラを振る「流し撮り」の先駆者としても名高い。被写体との距離が近く、画角の広いレンズを用いてダイナミックな構図となった。『SL夢幻』(1975年)という写真集にまとまり、話題となった作品だ(日豊本線・1973年)。

車体の色からブルートレインと呼ばれ、昭和50年代に大ブームとなった寝台列車。「流し撮り」によって機関車と客車の動きを止めるいっぽう、背景と列車を包む雪煙を「流す」ことで北国の厳しい冬をも表現した意欲作(東北本線・1977年)。

「ガラス板を左手に持ち、富士山を逆に映して『逆さ富士』を演出。100系新幹線の白い編成を収めた。今は3分に1本という割合の運転間隔だが、この時代はまだ余裕があった。走る車両も0系、100系、300系とバラエティに富み、それぞれの個性が横切る静かな朝を楽しんだ」(広田さん)。東海道新幹線・1994年

広田尚敬さん(写真家)
昭和10年、東京出身。中央大学卒業後、会社員を経て1960年にフリーランスとなる。著書は200冊以上。1970年代~1980年代のSLブームやブルートレインブームなどを牽引。各種写真コンテストの審査員のほか鉄道撮影のマナー向上や子供への写真教育にも取り組む。

*デザインは変わる場合があります。

『鉄道写真 広田尚敬』は11月5日発売予定。全国の書店ほかで予約受付中。
著・広田尚敬
B4判変型、ケース入り、318ページ、5万5000円(税込)
(問)小学館 電話03・5281・3555
https://www.shogakukan.co.jp/books/09682493

広田さんの作品をモノクロフィルム、カラーフィルム、デジタルに分けて厳選。鉄道写真をアートの域に高めた歴史的な名作はもちろん、未発表作も掲載。昭和から平成、令和にかけての日本の鉄道の貴重な記録でもある。

初回出荷特典として広田さんの代表作『動輪』(1967年)を六つ切り判(縦203mm×横254mm)の銀塩プリントにして裏に直筆のサインを入れて同梱。「高速で動く動輪とロッド(棒)の位置をイメージして、一発必中でした」(広田さん)。広田さんが使用したカメラほか愛用の品が当たるプレゼント抽選券も付く。

 

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