「動物たちの魂や手ざわり、一緒に過ごした空気感を丸ごと遺しておきたいんです」
いきものたちの木彫を手掛ける彫刻の巡回展が開催される。動物たちの温もりや息づかいが感じら
れるような作品の魅力と、初めてのペン画文集について紹介したい。


おにぎりを咥え、はにかんだ表情を見せる愛犬の月くんは、いつも、はしもとさんに寄り添う。
ピンと伸びたネコの「ケンちゃん」の尻尾や、はにかんで立つ柴犬の「月くん」の四肢の造形……。彫刻とは思えぬ生気が感じられ、瞳の奥に光を宿しているかのような作品は、肖像彫刻を手掛けるはしもとみおさんの仕事である。
肖像彫刻は、実在した個々のいきものたちを再現する。クスノキだけを材料に用い、チェーンソーやノミ、彫刻刀を使って実物の大きさで仕上げてゆく。
幼い頃から動物を愛し、獣医を目指していたはしもとさんは、15歳のときに阪神・淡路大震災で被災。身の回りの動物たちの命が失われる光景に衝撃を受けた。その経験が、はしもとさんを動物たちの命を救う獣医ではなく、彼らの生きた証を作品として遺す彫刻家を志すきっかけになった。はしもとさんは語る。
「動物たちの魂や手ざわり、一緒に過ごした空気感を丸ごと、彫刻にして遺しておきたいんです」
まるで生きているかのような温もりを感じさせる作品は評判と共感を呼び、毎年、各地で展覧会が
開催されている。

はしもとさんは鳥羽水族館(三重県)でラッコの立つ姿に彫刻的なものを感じ、精緻に観察して仕上げたという。

アトリエに同居していたカヤネズミの「かじくん」が亡くなると現れた友達という。
初のペン画文集『あしたやさしくなれますように』を出版
そんなはしもとさんが、初めて画文集を上梓した。その理由をはしもとさんはこう話す。
「この画文集は、かつて共に芸術家を目指し、その夢を諦めた親友を励まそうと贈った絵日記を描き直したものです。わたしが出逢った動物たちを描き、彼らから受け取ったメッセージを添えました。友人のように、思い通りにいかなかったり、立ち止まってしまったようなときにページを開いてほしいですね」(はしもとさん)
このペン画文集の原画は今月から始まる巡回展で鑑賞できる。


はしもとみおさん(彫刻家)
三重県にアトリエを構え、動物たちの「個」そのままの姿形を木彫りにする、肖像彫刻家。各地の美術館で、木彫りの動物たちに間近で触れ合える展覧会を開催。動物たちの肖像制作、フィギュアやオブジェの原型制作や動物たちのイラスト等も手掛ける。
はしもとみお木彫展「いきものたちとの旅」
「いきものたちが暮らす風景を巡る旅」と題した彫刻作品群と、ペン画文集『あしたやさしくなれますように』の原画などを展示。恐竜「丹波竜」の巨大なレリーフ作品(長さ約7m)も見どころ。
群馬県立館林美術館
2025年7月19日(土)〜9月23日(火)(祝日)
電話:0276・72・8188
はしもとさんによる出品作品や制作についてのトークイベントやスケッチの仕方を教えるワークショップ、音楽会なども開催。
丹波市立植野記念美術館(兵庫県)
2025年10月18日(土)〜12月7日(日)
電話:0795・82・5945
著者初のペン画文集『あしたやさしくなれますように』

著/はしもとみお
A5判、160ページ、3300円(税込)
小学館 電話:03・5281・3555

取材・文/中村雅和 写真提供/Takahide Urata、M&M COLOR
